山桜の概要
山桜は福島県にある日本酒メーカー、笹の川酒造が製造・販売を手がけるウイスキーで、ラインナップにはブレンデッドやピュアモルト(ヴァッテッドモルト)が存在します。
笹の川酒造は昔から様々なウイスキーをリリースしていますが、1番有名なのはブレンデッドのチェリーウイスキーでしょう。
その名前のインパクトから果物のチェリーを想像してしまいそうですが、実際にチェリーが使われているわけではありません。
笹の川は昔「山桜酒造」と呼ばれており、そこから洒落たネーミングができないか…と試行錯誤して付けられたブランド名だそうです。
山桜がつくられているのは笹の川酒造が所有する「安積蒸溜所」。
笹の川酒造は日本酒造りの老舗なだけあってウイスキー製造にも余念がありません。
あの有名なベンチャーウイスキー「イチローズモルト」の肥土伊郎氏とも深い関わりがある、現在最も注目されているウイスキーメーカーです。
山桜の発祥と製造場所と歴史
福島県郡山市にある笹の川酒造の創業はなんと1765年!!
当時の日本はまだ江戸時代。
徳川家治が国を納めていた頃です。
日本酒を造る酒蔵として250年以上の歴史をもつ由緒正しい酒造メーカーであり、今でも日本酒と焼酎づくりを本業としています。
笹の川酒造がウイスキーの製造免許を申請したのは第二次世界大戦終戦の1945年。
戦後、アメリカやイギリスの連合国により占領されていた国内には米国人・英国人が溢れており、必然的にウイスキー需要が高かったため、笹の川酒造はそのニーズに応えるようウイスキー製造に踏み切りました。
申請の翌年(1946年)国の許可が降り、笹の川でもウイスキーを造り始めました。
当時、酒の品質は今ほど問われなかった為、スピリッツに他社から取り寄せたブレンデッドウイスキーを混合し、多少の色付け・風味付けしたものを3級ウイスキーとして販売していました。
しばらくして戦後の困窮を乗り切り、経済が徐々に回復していった1960年代、笹の川酒造はウイスキーの品質そのものを高めたいと考え、自社でモルトウイスキーを造れるよう見様見真似でポットスチルを設置します。
このスチルは鉄製タンクの上部を切り取り、銅製のスワンネックを無理やり取り付けたものでした。
こうしてウイスキー造りを一新させた笹の川酒造ですが、60〜70年代にかけてウイスキーの売り上げは決して良くはありませんでした。
しかし決してウイスキー製造を休めることなく造り続けたそうです。
その理由は年間の製造時間にありました。
日本酒の製造には年間200日かかるのですが、終わってしまうとやることがありません。従業員は手ぶらになってしまうわけです。
そんな時ブラブラさせないよう何か従事させることが必要だと考え、ウイスキー製造に充てたということです。
その後も少しずつ設備投資を行った笹の川酒造。
1980年代に入ると自社製の麦芽の粉砕機や糖化槽、連続式の蒸溜機も揃っていました。
独自の製法でウイスキーを造り続けた笹の川酒造は
- 本坊酒造(マルスウイスキー)
- 東亜酒造(羽生蒸溜所のオーナー)
- 笹の川酒造
という80年代を代表する蒸溜所ビッグ3のうちの1つにまで上り詰めていました。
当時は「北のチェリー、東の東亜、西のマルス」と称されたそうです。
また1980年には不足しがちだったモルト原酒をスコットランドから買い付けるようになります。
輸入されるブレンデッド用のモルトウイスキーはバルクウイスキーと呼ばれ、樽ごと取り引きされていました。
そのため買い付けする度に熟成用の樽のストックを増やすことができ、一石二鳥だったそうです。
ちなみにグレーンウイスキーは廃糖蜜を連続蒸溜機にかけて96%のスピリッツを精製していました。
バルクウイスキーの空いた樽が熟成に回され、様々な樽がウェアハウスに並ぶようになると酒の質もグンと上がり売り上げも調子を取り戻します。
その後ウイスキーブームが一旦去るとウイスキーの売り上げは下がりましたが、それでも笹の川酒造はウイスキーの製造を休めることはありませんでした。
生産量は減らしつつもコツコツとウイスキーを造り続け、数十年分ともいわれる原酒をストックしました。
イチローズモルト肥土伊知郎氏との出会い
1980年後半になると全国的にウイスキー人気は下火となります。
笹の川酒造だけでなく多くの蒸溜所の売り上げが低迷する中、羽生蒸溜所を擁する東の東亜酒造は致命的な打撃を受け、2004年に買収。オーナーが変わります。
東亜の新オーナーは下火になったウイスキー造りに興味がなく、所有していた羽生蒸溜所の原酒や樽を全て廃棄処分しようと考えていました。
しかしこのストックを守ろうと立ち上がったのがイチローズモルトを手がける肥土伊知郎氏でした。
羽生蒸溜所にあった大量の樽や原酒を救うべく奔走します。
そこで肥土氏は笹の川酒造の門を叩き、羽生原酒ストックの保管場所として倉庫の一部を貸してもらえないかと頼んだのです。
笹の川酒造の山口哲蔵社長は肥土氏の熱意に押され、笹の川が所有するウェアハウスの一部を貸すことに決めました。
こうして羽生蒸溜所が閉鎖した2004年から肥土氏が2008年に秩父蒸溜所を建てるまでの約4年間、笹の川は場所を提供し続けました。
肥土氏にとって笹の川はまさに命の恩人といっても過言ではない存在なのです。
そして保管庫を貸し出した山口社長本人も肥土氏のウイスキーへの情熱にインスパイアされ、2015年に自身の蒸溜所「安積蒸溜所」を新設することになるのです。
安積蒸溜所の紹介
猪苗代湖の東側、磐梯山の麓にある豊かな自然環境に囲まれた笹の川酒造の敷地内にある安積蒸溜所。
戦後から見様見真似でウイスキー造りをしていた笹の川酒造でしたが、イチローズモルトの産みの親である肥土伊知郎氏の助言をもとに新設したのがこちらの蒸溜所です。
ウイスキーに使われる麦芽はクリスプ社からコンチェルトやオデッセイといった一般的な種類を取り寄せていますが、オーストラリア産の麦芽も実験的に使用しています。
仕込みの麦芽量は1バッチ400kg、粉砕された麦芽は糖化槽へと移し替えられます。
糖化槽はステンレス製、2klのものを設置。ここに2.4klのお湯を入れ攪拌します。
出来上がった麦汁(ウォート)を発酵槽に移し替え、酵母を投入して発酵槽を促します。
酵母は一般的なディスティラリー酵母だけでなく日本酒メーカーならではのノウハウを活かし「うつくしま夢酵母」など計4種の清酒酵母を使用して試行錯誤しています。
発酵槽はステンレス製、3klのものが4槽あります。
ポットスチルは初溜1基(2kl)、再溜1基(1kl)の計2基。
建設当初はスコットランドのフォーサイス社に製作を依頼していたそうですが、言語の壁による意志疎通を懸念し、国内にある三宅製作所に設計を依頼しました。
これは国産にこだわった結果ともいえます。
これによりフォーサイスだと4年かかる計画を1年に短縮できたそうです。
熟成に使用する樽はバーボン樽のほかシェリー樽、アメリカンオークの新樽、ワイン樽、ミズナラなど様々な樽を使い様々な風味の原酒を造りあげています。
安積蒸溜所は「磐梯おろし」(安積おろし)と呼ばれる磐梯山から吹き下す寒風が年中吹いている場所にあります。
この力強い風が猪苗代湖を渡って熟成庫に吹き付けることにより原酒の熟成になんらかの影響を与えている…と言われています。
また安積蒸溜所に勤務するのは20〜30代の若者たち。
活気あふれるスタッフが毎日一生懸命ウイスキー造りに精を出しています。
2016年の本格稼働から3年が経ち、2019年の暮れには安積で熟成させたモルト100%を使った「YAMAZAKURAシングルモルト 安積The First」がリリースされました。
これを皮切りに2020年からは様々な酵母や樽を使ったウイスキーが次々にリリースされる予定です。
今後が実に楽しみな蒸溜所です。
山桜のラインナップ
ブレンデッドウイスキー山桜 黒ラベル
厳選した熟成モルト味わいとグレーンの控えめで優しい甘みを堪能できるブレンデッドウイスキー。
香りはカカオ、チョコタルト、ラムレーズン、オーク由来のスパイシーさも感じます。
口あたりはスムースで味わいはラムレーズンやカカオチョコの甘みがメインで他にも熟した洋ナシ、アンズ、オレンジなどのフルーツ、後半は黒糖のようなビター感が続きます。
ジャパニーズらしい品のある甘みとスムースな口当たりを楽しめる山桜のスタンダードボトル。
ピュアモルトウイスキー山桜
こちらはオーク樽で5年以上熟成されたモルト原酒とシェリー樽熟成モルト、ピーテッドモルトをヴァッティングして造られたピュアモルトウイスキー(ヴァッテッドモルトウイスキー)です。
香りはバニラの甘みと洋ナシやリンゴのフレッシュフレーバー、レモングラス、酵母香、麦芽ウエハースの香ばしさ。
口に含むとアルコールの強さを感じますが、後からさらりとした蜂蜜とレモンピールを思わせる爽やかな甘さ、後半にレモングラスのような爽やかなハーブと土気のあるピートフレーバー。
モルトのリッチな味わいとシェリー樽由来のやわらかい果実香、甘い滑らかな口当たりと程よいスモーキーフレーバーが特徴の一品です。
5年にしてはなかなかボリューム感のあるウイスキーでストレートで飲んでもハイボールで飲んでも楽しめます。
ジャパニーズウイスキーでありながらラベルも洗練されておりバックバーにも並べやすいデザイン。
ピュアモルト ウイスキー 山桜15年 シェリー・ウッド・フィニッシュ
モルトウイスキー原酒を100%使用したピュアモルトのウイスキーです。
オーク樽で15年熟成した後タンクで5年間貯蔵、仕上げに再度シェリー樽でフィニッシュした原酒が使われています。
加水無しのカスクストレングス、もちろん無着色、ノンチルフィルターにてボトリングされています。
香りは、注ぎたては黒糖飴、かりんとう、芋ケンピなどの甘くほろ苦いアロマ、その中からドライプラムやレーズンなどの濃縮したフルーツ香が漂います。
味わいはシェリーからくるラムレーズン、プラム、カカオがメインで、中間にハチミツやアプリコット、後半でシナモンスパイス、木酢などが現れます。
貴重な品ですが、山桜ブランドの目指したい味のイメージがやんわりと伝わる逸品で、山桜ファンは飲むべきボトルかなと。
YAMAZAKURAシングルモルト 安積The First
2019年12月に満を持してリリースされたシングルモルト。
安積蒸溜所で造られたモルト原酒を100%使って造られたボトルです。
使用樽はファーストフィルバーボン樽を軸にリフィル樽やアメリカンオークの新樽などをヴァッティングしてつくられていると考えられます。
香りはあっさりとした糖蜜、砂糖漬けしたレモンスライス、麦芽クラッカー、強めに焼いたトースト。
味わいはまだ若々しく、アルコールの刺激は強めですがそれが落ち着くと干し草にしたレモングラスの爽やかなハーブ感、レモンピール、ウエハース、微かに乳酸っぽさも感じます。
全体として若々しい印象ですが、華やかさのあるオーキーな風味は今後熟成を経て開けていくことが期待されます。
様々なワインカスクシリーズ
山桜は実に様々な樽でのカスクフィニッシュを行っています。
ワインカスクの他にもミズナラカスクやラムカスクなど多くの実験的な試みも行っております。
山桜 ブレンデッドモルト ポートワイン&シェリーカスクフィニッシュ
こちらはバーボン樽で熟成した原酒を
ポートワイン樽とシェリー樽の2つの樽でフィニッシュしたモルト原酒を絶妙なバランスでヴァッティングして造られたボトル。
香りはドライプラム、ダークチェリー、ビターチョコ、木の皮。
味わいはチョコレートクリーム、ラムレーズンの甘み、木苺ジャム、風邪薬のシロップ、後半にほんのりとしたハーブ感とカカオのビターが訪れます。
笹の川酒造 ピュアモルト ウイスキー 山桜 カベルネ・ソーヴィニヨン 6年
バーボンバレルで5年以上熟成したモルト原酒をカベルネ・ソーヴィニヨン種のフレンチオークワイン樽にてフィニッシュして造られたボトル。
風味を活かすためにノンチルフィルター、無着色にてボトリングしています。
香りは穀物感のあとにレーズンやドライプラムの芳醇なフルーツ香、カカオ、なめし皮。
味わいモルト感を纏ったコーヒーガム、カベルネのどっしりとした甘み、苺シロップ、木酢、カカオのビターとタンニンの渋み。
フルボティ、甘めのウイスキーが好みの方は是非おすすめの逸品です。
笹の川酒造 ピュアモルト ウイスキー 山桜 ピノ・ノワール 6年
こちらはバーボンバレルで5年以上熟成したモルト原酒をピノ・ノワール種のフレンチオークワイン樽に詰め替えてフィニッシュしたボトル。
無着色、ノンチルフィルターにてボトリングしています。
笹の川酒造 ピュアモルト ウイスキー 山桜 シャルドネ 6年
こちらはバーボンバレルにて5年以上熟成したモルト原酒をシャルドネ種のフレンチオークワイン樽でフィニッシュして造られました。
もちろん無着色、ノンチルフィルターにてボトリングしています。
香りはアルコールの刺激が少々あり、それが収まるとシャルドネのぶどうの匂いがいっぱいに広がり、マスカット、熟した洋ナシなどのフルーツ感、ふくよかなオーク樽の木の香り。
味わいもマスカット系の強い甘みと麦芽ウエハースの香ばしさ、後半ではピートのスモークもうっすらと感じます。
甘口で飲みやすく女性にもおすすめの一本です。
山桜のおすすめの飲み方
東北が誇る地ウイスキーの雄、笹の川酒造。
実は僕もひっそりとウイスキー樽オーナーだったりもします。
一般的に普及している「黒ラベル」はTHE・地ウイスキーといった様相で、どことなく和を感じる味わい。
マイルドではあるのですが、黒砂糖や麩菓子のようなビター加減と、樹皮のえぐみ、草っぽさが山桜の特徴でしょうか。
どんな飲み方でもおいしいですが、加水するとより樹皮っぽさや腐葉土のような土っぽい香りが立ちます。
個人的には水割りで食事中に、後半にはロックにして楽しむというのが「地ウイスキーを飲んでいるなぁ!」という感じがして好きです。
ウイスキーフェスや蒸溜所見学に行くと、色々なカスクフィニッシュが楽しめて楽しい山桜シリーズ。
18年などの長熟品もいただきましたが、円熟味のある原酒にそっと添えるようなシェリー風味美味でした。
歴史のある酒造ですし、ラベルデザインやロゴもキャッチ―なので、外国の方にもウケそうですね。
福島産食材を使った日本料理とのマリアージュ提案なんていいんじゃないでしょうか。