おすすめの飲み方・飲み進め方
ジェムソンよりも先にタラモアデューでアイリッシュウイスキーデビューしたという人もいるくらいメジャーなブランドですが、「その後、タラモアデューを掘り下げている」という方はあんまり見たことないですね。
タラモアデューはアイリッシュ・コーヒーに最初に使われたウイスキーともいわれており、その軽やかな酒質を生かして、バーやコーヒーショップでも扱われています。
スタンダード品であるブレンデッドはパインやレモンバニラ、ライトなオイリーさが特徴。シングルモルトになると少し個性が強調され、白桃や白っぽい花のニュアンスを纏います。
カクテルベースとしてもおすすめですが、飲み口がスムースなので、ぜひストレートで。
スルリと喉から胃まで滑り落ちる感覚に身を委ねてみましょう。きっとアイリッシュウイスキーをもっと知りたくなります。
ボトラーズではあまり見ることはありませんが、ケイデンヘッドが創立150周年オーセンティックコレクションにて閉鎖前のタラモアデューの原酒をリリースしています(1949年蒸留の41年モノ!)。
オールドボトルは豊作なタラモアさん。
バーで登場するのはセラミックデキャンタのものが評価が高いように思えます。
ダブリンのジョン・パワー社が1970年代に瓶詰したであろうボトルは香り、味わいともに濃厚で、まるでシトラスバニラフラペチーノ。現行のタラモアデューとは一線を画します。
他にもステンシルラベルのオールドボトルは麦の甘みの出方が非常にキレイ。
ベタつきもないので、ソーダで割ると優しくライトな甘ウマハイボールが出来上がります。
どこかでめぐり合わせたら是非味わってみてください。
タラモアデューの発祥・歴史
タラモアデューの発祥は1829年。
蒸溜所は肥よくで穀物の豊作地だったオファリー州の中心都市タラモアの大運河、グランド・カナール沿いに建てられました。
創業者は当時の地元の名士、マイケル・マロイ(モロイとも発音します)ですが1857年になると経営が彼の甥バーナード・ダリーに引き継がれます。
1862年にタラモアデューの生みの親ダニエル・エドモンド・ウイリアムスが蒸溜所で働きはじめます。
当時ダニエルはまだ14歳、馬小屋裏の藁のなかで寝泊まりしても良い、という条件のもとで働いていました。
彼は実に真面目な性格で、とにかく真剣に仕事に向き合い、若くしてウイスキーの製造技術を習得していきます。
その後タラモア蒸溜所はバーナード・ダリーの息子キャプテン・ダリーが引き継ぎますが、彼はウイスキーに興味を示さず、ポロと競馬馬の飼育に熱中していました。
そんな状況下で蒸溜所は勝手知ったるダニエルに任されるようになり、ついには経営の権利を得るまでに至りました。
タラモアデューの名前の由来についてですが「DEW」はダニエル氏の本名「Daniel Edmond Williams」の頭文字をとったものとされています。
また「DEW」は英語で「露」という意味も持つため、これと掛けてダブルミーニングで命名されたといわれています。
発売当時のタラモアデューのキャッチコピーには”Give every man his Dew”つまり「全ての男性にタラモアの露を」という一節が使われていました。
このよくできたキャッチコピーでタラモアデューは自国アイルランドだけでなくイギリス連邦や米国でも飛ぶように売れました。
タラモアデューは人気となり、19世紀後半のタラモア蒸溜所は
- 直径7.5m、深さ2.4mの糖化槽 2基
- 容量73klの発酵槽 10基
- 73klの初溜釜 2基
- 25klの再溜釜 1基
- 48klの再々溜釜 1基
という大規模な設備を導入しており、大量生産を可能としていました。
ちなみに当時のタラモアデューは原料に大麦麦芽と未発芽の大麦を使用した「ポットスチルウイスキー」と呼ばれるものでした。
〜20世紀初頭、冬の時代へ〜
当時タラモアデューの売り上げはうなぎ登り、景気はまさに絶頂を迎えていました。
しかし好景気は続かず、その後情勢による思わぬカウンターパンチを食らうこととなります。
20世紀初頭に起こったアイルランド独立によりイギリス連邦市場への輸出禁止、そしてアメリカの禁酒法施行、世界大恐慌、スコッチ・ブレンデッド・ウイスキーの台頭…これらの情勢はタラモアデューだけでなくアイリッシュウイスキー市場全体を減衰させていきました。
世界大戦後になると口当たりが軽くて飲みやすいブレンデッドウイスキーが流行ったため、タラモア蒸溜所も1948年にカフェ式連続蒸溜器(カフェ・スチル)を導入。
それまでのポットスチルウイスキーからブレンデッドウイスキー主体に生産を切り替え形成逆転を狙いました。
こうしてアイリッシュウイスキーで最初のブレンデッドウイスキーとして再デビューしたタラモアデューですが、これを以ってしても衰勢を止めるには至りませんでした。
そして、、残念ながらタラモア蒸溜所は1959年に閉鎖となります。
しかしこれは会社自体が倒産したわけではなく、戦略的撤退です。
というのも、1947年にアイリッシュ・ミストというリキュールを開発しており、これが好評を博していました。
アイリッシュウイスキーに10種類以上のハーブ抽出エキスとハチミツを加えたもので、中世の時代にアイルランドに住んでいたゲール族が愛飲していたと言われている、「ヘザー・ワイン」を参考に開発されたリキュールです。
1954年、会社は生き残りをかけ資本の大方をこのリキュールに集中投下することを決めます。
つまりタラモア蒸溜所は戦略的に自らの手によって閉鎖されたというわけです。
タラモアデューにおける起死回生の鍵はウイスキーではなく、リキュールにあったとは…なんとも皮肉な話ですね。
これに伴いタラモアデューの蒸溜源はミドルトン蒸溜所へと移りました。
ちなみに1960年代タラモアデューの残った樽原酒はダブリンのジョン・パワーが買い取り、瓶詰めして販売しました。
1966年になると3つの蒸留所(ジョン・パワー、ジェムソン、コーク)の合併によりアイリッシュ・ディスティラー・グループが誕生。タラモアデューもこの傘下へ加わります。
そしてダブリンのジョン・パワーで製造再開。1975年にはコークの新ミドルトン蒸留所で製造を開始します。
1994年になるとC&C 社傘下へとオーナーが変わります。
〜ウィリアム・グラントの傘下に入り再び蒸溜所を新設〜
タラモアデューは2010年にグレンフェディックのウィリアム・グラント&サンズ社によって買収され、現在に至ります。
ウィリアム・グラント&サンズ社はグレンフィディックやバルヴェニーを手掛ける超大手メーカー。
この買収で、巨額の資本が導入されたことにより、新タラモア蒸溜所の建設計画が浮上します。
2012年の着工から2年後の2014年、首都ダブリンから西に約80km離れたタラモアの街中に新たな蒸溜所が新設。同年9月にオープンしました。
蒸溜所新設工事の指揮をとったのはウィリアム・グラント社5代目のチャールズ・ゴードン氏。
蒸溜所竣工時にゴードン氏から「100年持つ石を使ってくれ」とやや無茶振りのオーダーがあったそうです。
これはグレンフィディックを手掛けるグラント家が1887年の創業当時から100年以上家族経営を行ってきたからだとか…。
そのため建設素材には北イングランドから特注で運ばれたヨークシャーストーンが使われることになりました。
また新しい蒸溜所の壁には明らかに1つだけ色の異なる石が埋め込まれているそうです。
これはゴードン氏が新生タラモア蒸溜所開設目前の2013年に惜しまれながら他界されたため、それを偲びグレンフェディック蒸溜所の壁石を持ち出し移植したもの。
これは1887年にグレンフェディック創始者のウィリアム・グラント氏自らが積んだ石だそうです。
なんともロマンチックな話ですね…!
タラモアデューの製法(作り方)
新生タラモア蒸溜所には初溜用・再溜用・再々溜用ポットスチルが各1基ずつ(計3基)基設置されています。
これらを利用して
- モルトウイスキー
- ポットスチルウイスキー
- グレーンウイスキー
3種の原酒を全て3回蒸溜してつくり、敷地内のウェアハウスで熟成します。
また現在のタラモアデューはボトリングまで蒸溜所内で行えるアイルランドで唯一のオール・イン・ワンタイプの蒸溜所となります。
使用される大麦は100%アイルランド産ということで地元愛も強く感じますね。
2014年オープン時からポットスチルウイスキーとモルトウイスキーが作られていましたが、2017年後半からグレーンウイスキーも作られるようになりました。
熟成期間を考えると新しい蒸溜所でつくられたタラモアデューがリリースされるのはもう少し先になりそうです。
現在市場に出回っているタラモアデューはミドルトン蒸溜所にて作られていたもので、生産が切り替えられた今、口にできる数量は限られています。
今のうちに数本確保しておいて、新旧ボトルの味の差を楽しむのも良いかもしれません。
タラモアデューの種類/ラインナップ
タラモアデュー
こちらはタラモアデューのスタンダードボトル。
アイリッシュウイスキーにおいてジェムソンに次ぐ売り上げを誇る人気ボトルです。
鼻を近づけるとパイン・レーズン・蒸したサツマイモのような甘い香り。
口に含むと、パイナップルが口内に散り、バナナの甘みとナッツの芳ばしさが広がります。
ライトでオイリー、強くはありませんが穀物感も少々。
余韻はビター、短めで少しだけ金属的な酸味。
素朴で、穀物の甘みを強く感じるジェムソンとは対照的でビターな印象が残ります。
タラモアデュー12年
バーボン樽とシェリー樽で12年から15年かけて熟成させた原酒をブレンドしてつくられたボトル。
スタンダードボトルより熟成年数が長く、ボディの厚みが増しているのが特徴的です。
複雑なパイナップル様のフルーティ、白い南国フルーツ。ライチでしょうか。甘みが増したビターチョコ。
シェリー樽原酒からくるややミディアムな口当たりで、モルティさも増しています。
余韻はミディアムでスタンダードよりも甘く、ナラのようなウッディなニュアンスもあります。
甘み、ビター、フルーティのバランスの良く取れたボトルです。
タラモアデュー カリビアンXOラム フィニッシュ
タラモアデュー12年が終売になりそうなので、注目の一作をご紹介しておきましょう。
アイリッシュウイスキーのタラモアデューを1stフィル XO デメララ ラムカスクでフィニッシュ。
爽やかで甘い、南国感たっぷりのトロピカルフレーバーが味わえます。
パイナップルと白い南国フルーツ。ライチでしょうか。甘みが増したビターチョコ。
通常のタラモアデューよりもテクスチャにトロミがあって、夏らしい甘さのあるボトル。余韻はミディアムでスタンダード品よりも甘く、長いです。
ってかどうやったらこんな値段でこのクオリティのものが作れるのだろう。。。。ストレート、濃い目ハイボールはもちろんですが、ロックがおすすめです。
タラモアデュー14年 シングルモルト
こちらは12年の上位ラインナップとなりますが、決定的な違いは12年ものがブレンデッドであることに対してこの14年は「シングルモルト」だという点です。
原材料にモルトのみを使用、3回蒸溜した モルト原酒をバーボン樽で14年熟成した後オロロソ・シェリー樽とポート樽、マディラ樽で8ヶ月の後熟を行ったものとなります。
瑞々しいチェリーりんごのフルーティさ、甘い香り。レモンやオレンジピールの酸味。
口あたりはなめらかでアプリコットやメロン、マーガレットやアカシアといった白い花の繊細さがあります。
余韻はカスタードのようでやや短め。
ボディは中くらいですが、複雑かつリッチな味わいを持つボトルです。
ちなみに18年もあるようですね。飲んでみたい。。。。
タラモアデュー フェニックス
タラモアの町の歴史と人々を讃えるためにリリースされた限定ボトル。
オロロソ・シェリー樽にて熟成した原酒が使われています。
スタンダードに比べてボディはやや厚く、シェリー由来のレーズン、ヨーロピアンオーク特有のスパイシーやクリーミーさを味わえる飲みごたえ十分のボトルです。
55度というアルコール度数でボトリングされていますがカスクストレングスではありません。
化粧箱に記されているフェニックスはタラモアの町の紋章で、1785年に起こった熱気球の墜落事故が由来しています。
この事故により130軒の民家が燃える大惨事が起きましたが、灰の中から力強く復活し飛び立ってほしいという願いを込めてフェニックスが町の紋章となったそうです。
タラモアデュー サイダーカスク
「サイダー」とはアイルランド の代表的なシードル「BULMERS(ブルマーズ)」を意味しています。
サイダーカスクは、ブルマーズを入れていた樽にタラモアデューを入れて熟成・フィニッシュさせたボトルです。
香りはスタンダードのタラモアデューの風味の中にレモンとバニラ、あとはやはりシードルですからりんごは感じます。
ややミネラル感が強く白ワインのリースリングのよう。
味わいはスタンダードにパンチの効いたフルーティさを加え実に爽やかに仕上げてあます。
ロックやソーダ割りにしたら、あまりウイスキーを飲みなれていない方でもすぐに飲めることでしょう。
以前書いた村上春樹氏の有名なエッセイ『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』の記事でタラモアデューに触れていますが、これがまた旨そうな描写なんですわ。
このエッセイがタラモアデューを飲むキッカケになった人もいると思います。
ざっくり覚える!
タラモアデューはアイリッシュウイスキーの代表格であり、ジェムソンに次いでアイルランドで2番目の売り上げを誇ります。
ポットスチル原酒、モルト原酒、グレーン原酒をブレンドしたウイスキーで、1829年にアイリッシュウイスキー史上で初めて商品化されたブレンデッドウイスキーと言われています。
豊かな穀物感とオイリーなテクスチャ、バニラと白い果肉の南国フルーツのニュアンスを持つ、アイリッシュらしさ全開のウイスキーです。
現在製造をグレンフィディックのウィリアム・グラント&サンズ社が行い、販売をサントリーホールディングスが行なっています。
日本ではスーパーマーケットやリカーショップでもよく見かけるのですが、ウイスキー界での盛り上がりはいまひとつ。
比較的低価格で購入できるとてもアイリッシュらしいブレンデッドなのですが、地味だからですかね。