おすすめの飲み方・飲み進め方
トマーティンはそのフルーティーな香りと、クリーミーでキレイな酒質が印象的。
ややオイリーですが、いやらしさもなく無理なく飲めるので、飲み方はストレートがおすすめです。
加水でナシのような甘味が増します。ただ現行品は少し水っぽさが勝ってしまう印象です。トワイスアップはほどほどに。
レガシーはハイボールにすると少し軽すぎる味わいになります。食中にはよいかもしれませんが、個人的には12年がおすすめです。
トマーティンといえば1976年のものが非常に有名で、突出したフルーティさがあると評されています。
70年代のトマーティンには子ども風邪シロップのようなややケミカルなフレーバーがあるのですが、1976年は特に多彩なフルーツフレーバーを有しており、一時期多くの1976ボトルがリリースされました。
今ではかなり高値ではありますが、その陶酔感のある味わいは魅力的。要チェックのヴィンテージといえるでしょう。
シングルモルトを出すまでは圧倒的にブレンデッドスコッチのBig Tが有名だったトマーティン。
ビッグTはノンエイジ、5年、12年とラインナップがあります。
べっこう飴や黒糖のような甘みが特徴的で、ドライな風味の中にかすかなピートを感じることができます。
ビッグTのオールドボトルなどをハイボールで提供しているバーも多く、個人的にも好きです。
シングルモルトのトマーティンと飲み比べてみるのも面白いので、
レガシー→12年→18年→ビッグTのような飲み進め方もよいと思います。
トマーティンの発祥と歴史
どこで作られているのか?
トマーティン蒸溜所の創業は1897年、地元の投資家(実業家)たちの手によって建てられました。
蒸溜所のシンボルカラーは赤で、施設の至る箇所が赤くペイントされています。
蒸溜所はスコットランド北東部の中心都市インヴァネスから、南に24キロほど進んだトマーティン村に位置します。標高310メートル、これはブレイヴァル、ダルウィニーに次いで、スコットランドの蒸溜所の中でも3番目の高所となります。
この地はその昔「ドローバー」と呼ばれ、南へ家畜を運ぶ人々が持ち歩く人々が立ち寄る休憩地点でした。
また立ち寄った際、ウイスキーを補充するための中継地点、つまり密造酒を造る地としても有名な場所でした。
トマーティン蒸溜所の近くに残されているオールド・レアーズ・ハウスと呼ばれる農家の建物は15世紀に建てられたもので、密造ウイスキーの受渡し場として使われていました。
蒸溜所の近くには1746年4月16日に起こったカロデン(カロドゥーン)の戦いの後、ハイランドの兵士たちが別れの杯を交わしたという「別れの丘」があり、トマーティンではそこから流れる「自由の小川(アルタ・ナ・フリス)」の水を仕込み水として使用しています。
ピートと赤色花崗岩の層をくぐりぬけた小川の水は、昔からウイスキー作りにおいて最良とされており、トマーティンの風味に欠かせない一要素となります。
なお、トマーティンは「ネズの木の茂る丘」という意味を持ちます。
ネズの木はグリム童話にも出てきますね。ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹でネズミサシ、ムロ、モロノキともいいます。
(※和名はネズの硬い針葉をネズミ除けに使っていたことから、ネズミを刺すという意でネズミサシとなり、それが縮まったことに由来するそうです。)
トマーティンの歴史
トマーティンの創業は1897年。
インヴァネスの実業家の手によって建てられました。
しかし運営は芳しくなく、創業からわずか9年後(1906年)にいきなり閉鎖に追い込まれてしまいます。
稼働再開したのは1909年のこと。
なんとかその後のスコッチウイスキーブームの波に乗り、設備投資を繰り返し蒸溜所の規模を拡大していきます。
それまで2基しかなかったポットスチルを1956年には4基へ。
1958年には6基、1961年には10基、1964年に11基、そして1974年に大規模な拡張工事が行われ、合計23基のポットスチルが設置されました。
最初こそコケたものの、その後目まぐるしい発展を続けたトマーティン蒸溜所、当時のスピリッツの生産量は年間にしてなんと2200万リットル!!
これはグレンリべットやグレンモーレンジと同等の数量で、当時のスコットランドでもトップクラスの生産量でした。
大戦後のウイスキーブームによって勢力を拡大したトマーティン蒸溜所ですが、1980年代に入るとこれまでの過度な投資と、不況のあおりを受け倒産に追い込まれてしまいます。
そこで手を差し伸べたのが日本の酒造販売メーカー宝酒造と大倉商事によるベンチャー企業でした。
彼らがトマーティン蒸溜所を買い取ることで日本企業が所有する初の蒸溜所が誕生しました。
トマーティンの製法(作り方)
麦芽について
トマーティンの原料となる大麦麦芽は、シンプソンズ社製のもの。
モルトは2種類あり、ノンピートがレギュラーの「トマーティン」用、ピーテッドが「ク・ボカン」用となります。
毎週130トンの麦芽が運ばれ、10槽のモルトビンに入れられて保管されます。
モルトビン(麦芽貯蔵タンク)には合計500トンの麦芽が常備されていますが、4週間分の生産を賄うだけの量でしかありません。
マッシュタン(糖化槽)
蒸溜所内には1960年代に設置された古いマッシュタンが残されており、見学者は内部に入り、じっくり観察できるようになっています。
稼働していないとはいえマッシュタンの中に入って内部を観察できる蒸溜所はトマーティンだけでしょう。
これはスコットランドで最初に造られた2槽のうちの1つ、フルロイター式のマッシュタン。
新しいマッシュタンは1980年代に設置されたものとなります。
お湯の投入回数は一般的な3回。
- 1回目…64.2°Cで33,000L
- 2回目…77°Cで14,000L
- 3回目…90°Cで10,000L
といった温度でお湯が投入されます。
抽出された麦汁はポンプで熱交換器を通り60°C→20°Cまで冷却され、12槽あるウォッシュバックに送られます。
ウォッシュバック(発酵槽)
ウォッシュバックは全てステンレス製で、それぞれの槽に3つの窓が取り付けられています。
そのひとつは非常に小さい窓となっており、この窓がいったい何のためにあるのかは誰に聞いても理由がわからないそうです。
蒸溜所にまつわる謎といったところでしょう。笑
12槽合わせて42,600Lのウォッシュを傭えることができます。
発酵時間は約54時間ですが週末には110時間に伸びることも。
トマーティンでは発酵時間がウイスキーの風味に影響を及ぼすという概念がないため発酵時間にこだわりはありません。
マッシュ2回分がウォッシュバック2槽分。
ウォッシュバック2槽分がウォッシュスチル6基分とスピリットスチル4基分という具合に配分されます。
ポットスチル
昔は最大23基あったポットスチルですが宝酒造が買収した86年以降、生産量縮小の方針がとられており、2000年に11基のスチルが取り外され計12基となりました。
これにより年間生産量も20,000Lまで縮小されました。
残されたほとんどのスチルは1974年製で、部品を交換しながら使用しています。
蒸溜棟にはウォッシュスチル6基とスピリットスチル6基が両側に分かれて並んでおり、これらはサイズも形状も全て同じバルジ型。
ウォッシュスチルは6基全て稼働しており、手前の2基が新品のようにピカピカで、それ以外の4基はくすんだ色をしています。
これは訪問者から間近に見える近い2基だけ磨いているのだそう。笑
1基にかかる清掃料はなんと1,000ポンド(約15万円)!?と高額なため他のスチルはそのままにしてあるそうです。
スピリットスチルは4基のみ稼働しており、2基は休止中。
まとめると現在稼働しているスチルは
ウォッシュスチル6基(手前2基がピカピカ)
スピリットスチル4基(2基はお休み)
の10基のみ。
つまり2回分の仕込みで1回蒸溜する分のもろみが得られることになります。
アナログなスチル内の温度調整
ウォッシュスチルには窓がなく、内部の様子が分かりません。
内部の状態を把握するためにポットスチルの脇に青い木製のボールがロープで垂らしてあり、蒸溜中にロープを揺らしてスチルのヘッドにボールを打ち付け、その音を聞き状態を判断します。
音を頼りにスチル内の温度調整をする、なんともアナログ方法で管理しています。
熟成樽
トマーティンで、メインで使われている熟成樽はバーボン樽。
その他にシェリー樽やワイン樽も使われており、様々な組み合わせで多様な風味のウイスキーが作られています。
構成としては
バーボン樽が70%
シェリー樽が15〜20%
その他はワイン樽、オーク新樽など、それ以外のタイプが使用されます。
また蒸溜所には樽を製造するクーパレッジ設置されており、使用される樽の修理や加工が行われています。
熟成庫(ウェアハウス)
貯蔵庫は蒸溜所の敷地内に14棟あり、全部で200,000樽が収容可能となります。
現在(2019年)の総数で役185,000樽程度と予想されます。
新しい樽は毎年5,000本ずつ追加されるため、収納場所の確保に追われてしまいます。
14棟ある貯蔵庫のうち、12棟はラック式、2棟がダンネージ式となります。
2010年以来全ての樽はバーコードで管理され、2012年からは樽の種類をヘッドの色で分類されるようになりました。
- 色付けのない樽…ファーストフィル
- 赤…セカンドフィル
- グレー…サードフィル
- 黒…詳細不明の樽で、黒に緑のリングがあれば「セレクション」あるいは「高品質のブラック」を意味します。
このコード管理と色別はボトリングの際、非常に役に立っているといいます。
古き伝統を重んじながら、新しい技術、製法を取り入れるトマーティン蒸溜所。
これからどんなボトルがつくられるのか、期待大です。
ウイスキー「トマーティン」のラインナップ
トマーティン レガシー
これまで12年がスタンダードであったトマーティンがリリースしたノン・ヴィンテージ・シングル・モルト。
熟成年数が表記されないノンエイジボトルで、バーボン樽のほかに、アメリカンオークの新樽を使った原酒をヴァッティングして造られています。
”Legacy”とは「受け継がれる遺産(財産)」という意味を持ちます。
香りはフレッシュ。若さは目立つものの新鮮な柑橘の香りからカラメル、ミルクチョコ。
味わいも香り同様にフレッシュな甘さがメインで、レモンや梨のような瑞々しさを感じます。
それが引いた頃にナッツやココアのビター感、ウエハースの香ばしさが訪れます。
余韻も程よく長く、コストパフォーマンスにも秀でたボトルといえるでしょう。
トマーティン 12年
こちらがトマーティンのスタンダード的ボトル。
バーボン樽に貯蔵した原酒をアメリカンオークの新樽に入れ替え、シェリー樽でフィニッシュして造られました。
香りは開けたてはかなり固く、閉じている印象。バニラやオークとシェリー特有のレーズンやプラムが感じ取れます。
日が経つにつれて、梨、アプリコット、パイナップのようなアロマも。
味わいはシェリーの要素が意外に強くレーズンやプラムのフルーティさを感じた後、ウエハースやバニラの麦、強めのウッディが押し寄せます。
オークの余韻も長く、3つの樽から織りなす複雑さをしっかりと堪能できるボトルです。
トマーティン 18年
こちらはリフィルのホグスヘッドで16年間以上熟成した原酒を最後の2年間、オロロソ・シェリーの樽で後熟して造られたボトル。
香りはファーストインパクトに力強いシェリーの香り、レーズン、プラム、麦芽クッキー。アルコールの香りは薄く、長熟の円熟味を帯びています。
味わいもシェリーの要素が強くレーズンをはじめとしたドライフルーツ、オレンジマーマレード、ハチミツ。
ホワイトペッパーのニュアンスと、オークのスパイシーな香り。後半にはシトラス、カカオのビターが続きます。
木苺ジャムのような長い余韻も独特です。
トマーティン ク・ボカン
トマーティンでは元々ノンピーテッドの麦芽を使用指摘ましたが、ピーテッドの麦芽を初めて使用したラインナップが2005年に初リリースとなったク・ボカンで、フェノール値15ppmの麦芽を使用して作られています。
ク・ボカンはインヴァネス地方を守る魔犬の名前で、魔犬が走り去って消えた場所から極上のピートが採掘されたという言い伝えがあります。
香りは青リンゴのクッキー、カステラ、オレンジ、グレープフルーツ、そして奥に穏やかなスモーキーが潜みます。
味わいはカステラの甘みがふわりと広がり、続いて青リンゴ、バニラ、スモーク、コショウのスパイシーさが訪れます。
バランスの良くとれた12年ものにビターとスパイシーさが加わり、飲みごたえのある味わいに仕上がっています。
荒々しいというほどではありませんが、軽やかで柔らかいトマーティンの酒質にピートが乗ると、香辛料(クローブ、アニス、ペッパーなど)が強めになるように思いました。
トマーティン 14年 ポートカスク
こちらは13年間リフィルバーボン樽で熟成させた後、ポートワイン樽で1年フィニッシュし、ノンチルフィルタードでボトリングした商品。
ポートワインカスクの深みのある甘い香りと果実感あふれる味わいが、トマーティンのやわらかな酒質にプラスされています。
香りは熟した桃、マンゴー、デーツのようなドライフルーツ。
味わいはプルーンのジャムのような印象から、バニラウエハース、クルミ、乾いた麦芽、ポートワイン特有のウッディな渋み。
ややほろ苦いフィニッシュでスパイシーな余韻が楽しめます。
トマーティン 15年 モスカテルフィニッシュ
リフィルのホグスヘッドで15年以上熟成した原酒が使用されるプレミアム品。
バーボン樽特有の華やかでフレッシュ、メロンのような完熟フルーツの香り。
シロップやミルクのような少しとろりとした甘いニュアンスがあります。
味わいもシトラスのようなフレッシュな印象から、りんごジャム、アプリコットの甘さが広がります。
中間にトフィーやハチミツ、後半にバニラやクッキーの甘み、カカオのなどのビターなどが続き、オーキーな長めの余韻も楽しめます。
〜トマーティン ザ・ファイブ・ヴァーチューズ シリーズ〜
こちらは2017年にリリースされたボトルシリーズ。
古くから東洋で用いられてきた五行説に着目した自然界の5つの元素である「木・火・地・金属・水」をモチーフにして各ボトルが造られました。
トマーティン ウッド(木)
- アメリカンオーク(バーボン樽)
- フレンチオーク(リチャード ワイン樽)
- ハンガリアンオーク(リチャード ワイン樽)
という3つの樽で熟成した原酒から作られたもの。
安定のバーボン樽の中に2種類のヨーロピアンオークワイン樽からのフルーティ、スパイシーを感じるボトル。
やや若さを感じるフレッシュなアロマ。酸が強いのか、あまり麦芽感はありません。少しケミカル。
味はキャラメル、オレンジ、クリーミーな印象が強くナツメグのようなニュアンスもあります。
名前の通りウッディで、スパイシーな余韻。
トマーティン ファイア(火)
こちらはリフィル樽の内側を5ミリ程度削り新しい木目を出し、再度チャーする「ディチャー(リチャー)」を行った樽で熟成した原酒が使われています。
ディチャーによるバニリック(バニラのニュアンス)、カラメル感が強く現れた力強い味わいのボトルです。
香りは熟してないバナナのようなアロマからはちみつをかけたりんご、砕いたアーモンド。ホワイトチョコレート。
オイリーで、味わいはとても柔らかく、メレンゲやホワイトチョコレート、バニラ、オレンジピール。
トマーティン アース(土)
アース=「土」ということでピート(泥炭)を炊いて仕上げた麦芽を使用し造られました。
ク・ボカンと同じスピリッツが使われているためフェノール値は15ppm。
熟成にはリフィル樽・シェリー樽・ファーストフィルのバーボン樽を使用しており、ヴァッティングの比率を変えることでク・ボカンとの違いを生み出しています。
シリーズ唯一のピーテッドモルトを使用したボトルとなります。
ピート感はそこまで強くなく、ハーバルな印象が強いです。
やや油性が強く、スパイシー。ピーマンのような青々しさも感じさせ、粘性があります。
トマーティン メタル(金属)
メタル=金属と言うことで、銅製のポットスチルをフューチャーしたボトルとなります。
トマーティン蒸溜所の、バルジ型スチルで作られた酒質・個性を最大限に活かすためにファーストフィルのバーボン樽を100%使用して造られました。
香りは麦芽が強く、ミルクチョコレート、バタービスケット、りんごのアロマ。
味わいは少しの柑橘の後、梨のような柔らかい甘み。バタービスケット。
余韻は中くらい、唇に少しペタッと残るイメージ。このシリーズの特徴はやはりこのクリーミーさかなと思います。
トマーティン ウォーター(水)
こちらは蒸溜した蒸気を冷却する際に使用するコンデンサー内の冷却水に着目して造られたもの。
トマーティンでは仕込みだけでなく冷却水としてもオルタ・ナ・フリス川の水が使われます。
その川の水は季節によって変化するため、蒸気の冷却速度にも変化を及ぼします。
冷却速度が速まると風味成分の多い重たい蒸気も液化するため、スピリッツの風味が風味豊かになります。
この原理を利用し「ウォーター」は冷却速度の速い冬に造られたリッチ&ヘビーなスピリッツだけを使用しています。
更に原酒の個性を最大限に活かすため熟成にシェリー樽50%とセカンドフィルのバーボン樽を50%使用しています。
香りはミネラル感が強く、レモン、シトラス、チェリー、ホワイトチョコレート。
味わいはキャラメル、はちみつ、オレンジマーマレード、ジンジャー、ココア。
シリーズの中では一番飲みやすいと感じました。
トマーティンのおすすめの飲み方
ちなみにトマーティン蒸溜所って1970年代に廃水を使用してウナギの養殖もやっていたそうですね。蒸溜所の廃水でつくられたウナギってうまいのかなぁ。
ざっくり覚える!
トマーティンはスコットランドのハイランド地方にて造られるシングルモルトウイスキーで、日本の酒造メーカーである「宝酒造」がオーナーを務めています。
トマーティンは日本の企業が初めてオーナーとなった蒸溜所でした(ちなみに2番目はニッカウヰスキーが買収したベン・ネヴィス蒸溜所)。
生産のほとんどがブレンデッドウイスキーのアンティクァリーやビッグT、エンシェントクランなどのキーモルトとして出荷されていましたが、2004年を境に12年、18年、30年という年数表記のあるシングルモルトをリリースしています。
2017年には5本セットとなる「トマーティン ザ・ファイブ・ヴァーチューズ シリーズ」をリリース。
古くから東洋で用いられてきた五行説に着目した自然界の5つの元素である「木・火・地・金属・水」をモチーフにしたもので注目を集めました。
現在ではリーズナブルな庶民の味方「トマーティン レガシー」、へビリーピーテッド麦芽を使った「ク・ボカン」シリーズなどが人気です。