おすすめの飲み方・飲み進め方
コンテンツが豊富で奥深い味わいのウイスキーですが、好きな人、嫌いな人がかなり分かれるモルトでもあります。
オイリーで、酒質が強く、独特で甘味の強い麦芽フレーバーを持っています。飲みごたえのあるボディと塩気の余韻がとっても印象的。
初心者の方からは「しょっぱいウイスキーなんてあるの?」と驚かれるブランドでもあります。
飲み方としてはストレート、トワイスアップ、水割りがおすすめ。次点でロックでしょうか。
スプリングバンクはその強く伸びのあるオイリーな酒質で、加水しても崩れません。
氷無しの水割りを試しに作ってみましょう。
飲んだことがない方でもアイラモルトやアイランズモルトが好きな方はいきなりストレートで飲めると思いますが、クセが強いと感じてしまったビギナーにこそ水割りを試していただきたいです。
オフィシャルボトルが非常に評価が高いので、まずオフィシャルを順に飲んでいくのが良いと思います。
個人的には10年→18年→12年カスク→15年→長期熟成みたいな順がよかったです。
しかし今や、オフィシャルでも長熟品は相当値が張ります。
ゆっくりと長い時間をかけ、スプリングバンクという沼地を歩んで行くのが良いでしょう。
オールドボトルもモルトバーに行けば、比較的巡り合えるのがスプリングバンク。
1980年代流通の特級ボトル8年は、スプリングバンク蒸溜所2度目の閉鎖時代より前に蒸留した原酒を楽しむことができます。
とても骨太で、昭和の頑固オヤジのような古臭く力強い麦芽臭がします。レモンピールや干し草の香りも印象的です。
1990年代に流通していたダンピー型のオフィシャルボトルには品の良いシェリー感が漂います。
オールドボトルならでは古き良き樽のフレーバーは現行品とは一味違うスプリングバンクを体験できます。
ボトラーズからはスリー・リバース社が発売した「ライフシリーズ」のスプリングバンク1968をはじめ、ムーンインポート社の1965ザ・バードなど多くの名酒がリリースされています。
特にサマローリから発売されている通称【サマバンク】は、【シェリーを終わらせたボトル】、【ミスターシェリー】、などと言われたり言われなかったり。
愛好家の中でも特別視されており、その味わいは千言万語を費やしても表現し得ないほどと言われています。
スプリングバンクの発祥と歴史
どこで作られているのか?
キンタイア半島のキャンベルタウンにあるスプリングバンク蒸溜所。
1977年にポール・マッカートニーがリリースした「マル・オブ・キンタイア(夢の旅人)」というの曲の舞台にもなっており、「キンタイア半島の海に霧が湧き上がる」という歌詞にあるように、キンタイア半島のキャンベルタウン周辺は湿気が多く、霧がよく発生します。
気候温暖で古くから人々が棲みつき、1900年代初頭はウイスキー製造、漁業、造船業などで栄えた町でした。
当時、船が重要な交通手段だった為、造船業は特に需要があり、スコットランドで一番、お金持ちの多い土地だと言われていました。
キャンベルタウン地方が最も栄えていた時代には、なんと30を超えるウイスキーの蒸溜所が存在したとされています。
しかし時代の変化を経て、それらの事業は衰退し、現在は人口は約5000人。観光を中心とした街に変わり、ひっそりとたたずんでいます。
20世紀初頭、第一次世界大戦や増税、禁酒運動、アメリカで施行された禁酒法、世界恐慌などが重なり、キャンベルタウンにあった蒸溜所は次々に閉鎖へと追い込まれてしまったのです。
それから一世紀経った現在、稼働している蒸溜所は「スプリングバンク」と「グレン・スコシア」「グレンガイル」のわずか3箇所だけとなってしまいました。(グレン・スコシアは1925年から閉鎖していましたが2004年、スプリングバンクにより見事再開されました。)
これらの蒸溜所はかつて栄えたキャンベルタウンモルトの誇りを持ち、現在も伝統を守りつつ新たな味わいを追求する日々を送っています。
港町、海の近くに建てられた蒸溜所は海から送られてくる潮風により塩辛い独特の味わいを持ちます。
この味わいこそキャンベルタウンモルトの最大の象徴として世界中のモルトファン達の舌を喜ばせています。
スプリングバンクの歴史
スプリングバンク蒸溜所は1828年、キンタイア半島の港町に建てられました。
レイド家によって創業しましたが、その後すぐミッチェル家が買い取り、現在に至るまで経営を行なっています。
しかしその経営は決して順風満帆ではなく、現在に至るまで1926年〜1933年まで、そして1979年〜1987年まで2度ほど蒸溜所閉鎖に追い込まれています。
2回目の閉鎖に関しては1987年に再稼働したものの稼働は限定的で、全面再開したのは1989年になってからでした。
また1960年〜1992年の間、効率を考え蒸溜所でのモルティングを一旦廃止しています。
1969年には独立系ボトラーズのレイドウィリアム・ケイデンヘッド社を買収し、以降同社の商品のボトリングを開始します。
1985年に「ロングロウ」、1997年になると「ヘーゼルバーン」をリリースします。
紆余曲折あったものの、現在に至るまでミッチェル家の独立資本で製造を行うスプリングバンクはキャンベルタウンモルトの代表格として今日も上質なウイスキーを作り続けています。
スプリングバンクの製法(作り方)
スプリングバンク蒸溜所では製麦から糖化・蒸溜・熟成、樽出し〜ボトリングまでの全ての工程を行なっています。
他の蒸溜所では製麦やボトリングといった工程は他社に分担することが一般的ですが、スプリングバンクは全行程を行い、製造工程を完結しています。
ボトリングまで行っているのはグレンフィディックとロッホサイドくらいのもの。非常に珍しい蒸溜所といえます。
またスプリングバンクはケイデンヘッド社と同資本の為、こちらでリリースしているマーチャント・ボトラーズものの商品もボトリングしています。
その為、蒸溜所には様々な蒸溜所の樽が転がっているそうです…!
麦を発芽させる為の作業は全てフロアモルティングにて行われています。
フロアモルティングとはピートを焚いて発芽させる際、その際にグラッバーという専用の鋤(すき)やモルト・シャベルを使い撹拌、空気の入れ替え、麦芽同士の絡みつきを防ぐ手作業のことを言います。とてつもなく手間のかかる大変な作業です。
その後、6時間ピート焚き30時間熱風乾燥して麦芽を完成させます。
ちなみにヘーゼルバーンは30時間熱風乾燥のみ、ロングロウは48時間ピート焚いて発芽と乾燥を済ませます。
糖化に使われるマッシュタンは130年使い続けているもの、ウォッシュバックは北欧産のカラマツ材でヴァイキング時代に船材として使われていたものとなります。
伝統ある機器を使い続ける点はスプリングバンクのこだわりが感じられます。
ポットスチルは初留が一基、再溜が2基の計3基が設置されています。
工程としては初留した原酒を再留した後、一部をまた蒸溜します。つまり蒸溜回数は2.5回となります。
通常のスコッチやバーボンウイスキーで2回、アイリッシュやカナディアンウイスキーが3回ですから2.5回蒸溜するのはスプリングバンクだけ。
この独特の蒸溜方法が「モルトの香水」と言われるスプリングバンクの特有の香り、オイリーでミディアムな口当たりを与えると言われています。
ちなみに同じスプリングバンクで製造しているロングロウは2回蒸溜、ヘーゼルバーンが3基をフルに使った3回蒸溜して作られます。
リリースボトル製造の割合はスプリングが約7割、ヘーゼルバーンが2割、ロングロウが1割となります。
スプリングバンクの種類/ラインナップ
スプリングバンク 10年
スプリングバンクのスタンダード的ボトル。
もともと人気の高い銘柄でしたが、現在は世界的に需要が供給を上回り、2018年の春あたりから値上げになりました。
港町キャンベルタウンの潮風の雰囲気を纏い、それでいてフルーティーな香りの立ち上がりはまさに唯一無二。
香りは潮のそよ風、そしてフルーティー、心地よいバニラ。
口に含むと潮気がまず来て、それから洋ナシタルトのフルーティー、モルトからくるウエハース、ビスコッティのような香ばしさも感じます。
中間にハチミツを感じ、潮とバニラの余韻。
オイリー(油性)さもスプリングバンクならではの特徴です。
スタンダードにして非常に高いクオリティを示すキャンベルタウンの底力を感じさせるボトル。
スプリングバンク 12年 カスクストレングス
こちらは定期的にリリースされる数量限定商品。
熟成樽は酒齢12年以上のシェリー樽から樽出し、加水無しのカスクストレングスにてボトリングされたもの。
シェリーからくるドライフルーツの芳醇で濃厚な甘みとフルーティーさを楽しめるボトルです。
香りは強く、レーズン、バニラ、鼻の奥を横切る潮風、焚火のような煙さ。
口に含むとレーズン、ドライマンゴー、焼きリンゴの濃厚な甘み、中間にアプリコット、ヘザー、ハチミツ、トフィー、熟したベリー、余韻は潮の香りが長く続きます。
ボディが厚く、スプリングバンクの真髄を味わえる素晴らしき逸品です。
スプリングバンク 15年
熟成年数15年以上のシェリー樽で熟成された原酒のみを使用したボトル。
シェリー樽とキャンベルタウンモルトの特性が見事にマッチした味わいのボトルです。
香りは濃厚なドライレーズン、ドライプラムなどの黒っぽいベリーのアロマが主役で、スタンダードの10年に比べるとバニラは控えめです。
口に含むとアルコールの刺激は無く、ラムレーズンアイス、プラム、ダークチョコのビスケット、イチゴジャム、後半にカカオ。
余韻はカカオとブドウの皮、ウッディな後味が長く続きます。
デザートモルトに最適の一本です。
スプリングバンク 18年
こちら酒齢18年以上のシェリー樽をメインに使用した商品です。
その比率は80%と高く、スプリングバンクらしい潮風のフレーバーの中からフルーティーな立ち上がり、そして18年という長期熟成の深みとコク、長い余韻を楽しめるボトルです。
香りはバニラ、ブラックベリー、ミルクチョコ。
味わいはレーズン、カラメル、ミルクチョコ、イチゴジャムにオレンジピールのような柑橘を感じ、奥に潮気を感じます。
余韻は長めのジャムとオーク。
15年に比べると、よりディープな甘みとコクを堪能できる印象です。
スプリングバンク 21年
こちらは1990年代にリリースしていたラインナップで、その深く個性的な味わいはウイスキー愛好家の舌を唸らせてきました。
2012年から年に1回だけ極少量のみ生産が再開されている限定商品。
バーボン、シェリー、ポート、ラムなど様々な樽を組み合わせてつくられます。
例えば2018年にリリースされたスプリングバンク21年はラムカスクを70%、バーボンバレルを30%使用。
2017年リリースボトルはバーボン、シェリー、ポート、ラムの4種の樽を使用して作られています。(世界3,800本の限定ボトリング)
2016年にリリースされたボトルは日本市場向けにボトリングされたオロロソシェリーバットのシングルカスクでした。(日本向けの702本超限定ボトリング)
毎年日本に入荷される本数は極少数で非常に希少価値の高いボトルとなります。
またリリースされる年ごとに使われる樽が違う為、毎年違う味わいを楽しめます。
キャンベルタウンモルト好きには必飲のボトル、バーで見かけたら飲んでおきましょう。
スプリングバンク 25年
スプリングバンク25年はとにかく希少。1995年と2006年、2014年とポロポロと発売し、2020年末にまたリリースされました。
シェリー樽原酒50%とバーボン樽原酒50%を使用。世界でわずか1,200本の限定品で、日本へは120本のみの入荷です。
フルーティーでスパイシー。焼きリンゴとオレンジから、ラズベリー、プラム、クランベリー、そしてスミレのようなフローラルなアロマ。スプリングのオールド品にあるシャンプーの香りは控えめです。
古い革や湿った倉庫のようなイメージもありますが、ネガティブではないです。ハチミツと熟成されたポートワインの香り。
味わいは複雑でバランスがとれています。イチゴジャムとピンクグレープフルーツ。アーモンドとミルクチョコ。水面に揺蕩う小舟のように、何度も静かにフレーバーの波が押し寄せます。
フィニッシュは柔らかで長くエレガント。スプリングバンクらしい潮っぽさとバタースコッチ。オレンジマーマレードとやや土っぽい余韻。
リッチで分厚い素晴らしい商品ですが、価格もだいぶリッチです。
スプリングバンク ローカルバーレイシリーズ
こちらはスプリングバンク蒸溜所に近い農場で栽培された大麦を使用したシリーズ。
ローカル:地元、バーレイ:大麦。
というネーミングから地元キャンベルタウンを特に意識したボトルシリーズとなります。
ローカルバーレイ9年
こちらは2019年9700本限定でリリースされたボトル。
キャンベルタウンの南に位置するハイ・キャタデール農場で収穫したオプティック・バーレイのみを使用しています。
バーボンカスク80%、シェリーカスクを20%の割合で熟成が行われており、オイリーさが際立つ黄金色。
アタックは強めですが、柔らかでクリーミーな麦の甘み、パイナップルや洋ナシの果実感も楽しめる贅沢なボトル。スプリングバンク特有のブリニーも健在です。
ローカルバーレイ10年
こちらは2017年に9000本限定でリリースされたボトル。
使われている大麦はスプリングバンク蒸溜所に程近いウエストバックファームで収穫されたベルグラビア種を使用。
熟成に使われている樽はバーボン樽70%、シェリー樽30%で、カスクストレングスでボトリングされています。
バニラやカスタードクリーム、カカオ、シトラスの風味、塩キャラメル、そして穏やかなピートが香ります。
ローカルバーレイ11年
古代品種である大麦ベアバーレイを使用し、スプリングバンクでは珍しいバーボンバレルで熟成した原酒のみを使ってつくられたボトル。
キンタイア半島西部、マクリハニッシュ湾の辺りにあるアロスファームで収穫されたベアバーレイを使用しています。
バーボン樽の11年熟成で、カスクストレングスにてボトリングされました。
マーマレードや蜂蜜、パンの香り。完熟のバナナ、カスタードクリーム、ナッツの芳ばしさを携えた甘めのスプリングバンク。
後半では特徴的なほのかな塩味も感じられます。
ローカルバーレイ16年
1999〜2016年にかけて数量限定でリリースされていたボトル。
キャンベルタウンの南方約8マイルほど離れた、サウスエンド農場にて収穫された大麦のみを使用しています。
熟成にはバーボン樽80%とシェリー樽20%を使用、カスクストレングスでボトリング。
ミントシロップとビスケット、バターロールなどの香ばしい香り、バニラ、マーマレード、洋ナシ、後半にはややビターチョコレートが感じられます。
スプリングバンクのおすすめの飲み方
キャンベルタウンに存在したウイスキー蒸溜所のひとつに、ヘーゼルバーン蒸溜所(現在は閉鎖)があります。
ここはジャパニーズウイスキーの父、竹鶴政孝がウイスキーづくりの修行をした蒸溜所として知られており、ニッカウヰスキーが所有する余市蒸溜所はヘーゼルバーンになぞらえて立地条件が決められたそうです。
ニッカウヰスキーの余市が特徴とする力強く塩辛い味わいはまさにキャンベルタウンを意識していたからなんですね。
ざっくり覚える!
スプリングバンクは、スコットランドの南部、キャンベルタウン地方でつくられているシングルモルトウイスキー。
元々少量生産なので国内流通量が少ないというのもあるのですが、その人気も相まって近年とんでもなく高価格帯で取引されています。ここ2~3年で2倍以上の価格になってますね。
かつては「モルトの香水」と称されるほど甘美で芳醇な香りを放ち、潮風の影響、または麦芽を発芽させる際に炊くピートの影響から「塩辛い(ブリニー)」な味わいがあると言われています。
スプリングバンク蒸溜所では麦芽のピートレベルと蒸溜方法を変えつつ
という3ブランドを展開しており、それぞれ大人気です。
なお、すべての麦芽を自家製麦で賄っている唯一の蒸溜所としても有名です