BARによく出向く方は聞いたことがあるかもしれません。
「このウイスキー、昔のほうが美味しかった」
ウイスキーには良くも悪くも「時間」という概念が付きまといます。
蒸溜後、10年間樽熟成したウイスキーと20年間樽熟成したウイスキーは味が全く違います。
さらには蒸溜した年代によっても味は異なります。
1960年に蒸溜され、10年後の1970年に瓶詰めされたものと
2000年に蒸溜され、10年後の2010年に瓶詰めされたものとでは、同じ10年間の熟成でも全く味が異なるのです。
では、昔造られたウイスキーと今のウイスキーどちらが美味しいのでしょうか?
今回は現行品の短熟、長熟の比較から、オールドボトルまで、味の疑問に迫ってみたいと思います。
特記戦力
漫画家古谷三敏の孫。ゴールデンボンバーに2007年〜2010年までローディーとして所属しており、現在はBARレモンハートで腕を振るう。
BSフジ ドラマ【BARレモン・ハート】監修
著書【ふれあい酒場BARレモン・ハート】【〜あの頃、レモン・ハートで〜BARで飲みたい31の名酒】
やっぱりあのグループにいるとそういう名称になるんですね。
それにしても当時、めっちゃ若いですよね。
今はバーの経営もやっているし、おじいさんの漫画の担当もしているし、ご自身が企画してイベントも作ってるじゃないですか。
多彩ですよね。
学生時代から「好きな事をやり続けられたら良いな」と思って活動してきました。
バンド時代の繋がりもあり、好きな漫画と音楽を主体に色々と続けられたらと思っております。
今回はウイスキーの味や香りの捉え方のようなものを一緒に考えていただければと思います。
その当時から今の師匠にもお世話になっておりました。
今回は記事のお力になれればと思います。
陸さんも相当飲まれてきてそうですね。
最初に好きになったお酒はグラッパでしたが(笑)
どうかしてますね!
そしてその本数だと色々と計算が合わなくなるのでこの会話はここまでにして本編にまいりましょう!
ウイスキーの短熟、長熟の良し悪しを捉える
ウイスキー愛好家の中でも、長期熟成至上主義が当たり前になっている昨今ですが、長熟だからすべてがおいしい、完成度が高いとは限りません。
たとえば10年物には10年物の、20年物には20年物の良さがあると思います。逆に言えば「悪さ」もあるでしょう。
飲む際に捉えるべきは個性(らしさ)なのか、バランスなのか。
まずは、ウイスキーの良し悪しは何で測ればよいのか、見極めるポイントや方法、飲み方の工夫などを、バーテンダーの立場からお話ししていただきましょう。
なぜ長期熟成すると値段が上がるの?
ウイスキーの価格の設定のお話です。
10年物と20年物のウイスキーを見てみると、酒屋さんでもBARでも20年物の方が高く設定されていますよね。
何故、値段が10年物より高いのか?
それには様々な理由がありますが、一般的には希少性と倉庫管理料です。
樽に入っているウイスキー原酒は5年、10年、20年と年月を経ていくうちに少しずつ自然蒸発し、量が減っていきます。
この蒸発する現象を昇天していると見立て、エンジェルズシェア(天使の分け前)と呼んでいます。天使がウイスキーを飲んで美味しくしてくれているというお話しで、ウイスキーだけでなくブランデーやラム、テキーラやワインなど樽熟成をするお酒すべてで使われている用語です。
ちなみにこのエンジェルズシェア、温度の高い地域では10年で1/3以上原酒が減ってしまう事もあると言われています。
長期熟成(30年以上)になればその減少率はすさまじく(だんだんと緩やかにはなるのですが)、ほんの少ししか原酒を確保できません。
またそれを長い年月人の手で管理している為、希少性と管理費がかさんでいき、長期熟成のお酒の方が高くなってしまうわけです。
いきなり味と全く関係の無い話をしていましたが、これを頭に入れておく事がウイスキーの味の比較でも重要です。
年数表記の意味
次に年数表記の解釈についてです。
スコッチで10年と表記されているボトルは、10年熟成の原酒100%で構成されているわけではなく、ボトルに入っている最低年数の原酒が10年熟成という事です。
つまり10年以上樽に詰められたウイスキーが入っているという事です。
10年の原酒、15年の原酒、20年の原酒など様々な年代の原酒をブレンドして、「10年物」を作っているのです。
たとえば「マッカラン12年」は単純に12年熟成したマッカランが入っているというわけでなく、「マッカラン最低12年」という意味なのです。
ちなみに様々な年数の原酒をブレンドする理由は、味の均一化を図るためです。
毎年出来上がる原酒の味は微妙に異なるので、「去年のウイスキーと出来が違う」と言われないよう、様々な熟成年数の原酒をブレンドしています。
現行品を比べてみる
では、それを踏まえて現行品のスコッチの10年物と20年物を比べてみましょう。
前提として、加水してあるボトル(40%程度)を想定します。
10年物と20年物を比べた時、好みもあるのでどちらが美味しいと断定はできませんが、結論から言うと、近年は20年物の方が高い評価を受けやすいです。
これは前述した「年数表記の意味」が大きいです。
現行品の10年物には、ほとんど10年熟成のウイスキーしか入っておらず、20年物も同様にほとんどが20年物のみで構成されているからです(※オールドボトルの場合はその割合が違います)。
10年間樽に入っていたものと、20年間樽に入っていたものは単純に倍の時間熟成しているわけですが、香りや味わい、その奥深さは倍となるわけではなく、より複雑に変化します。
熟成年数が進めば進むほどエンジェルズシェアも増えるので、この割合も大きく影響しています。
希少性や管理的な側面から見ても、20年物のほうが高評価になる傾向があります。
それぞれのメリット、デメリット
だからと言って10年物が低品質という訳ではありません。
10年物には10年の良さがあります。
以下にそれぞれの良し悪しをまとめてみました。
熟成年数 | メリット | デメリット |
10年物 | 味や香りが若い分、グラスに注いでからの変化が早く、また炭酸や氷などに負けることもなく美味しいソーダ割りやロックになる。 グラスに注いでからの変化が早く、様々な香りの変化が楽しめる。 | 長期熟成に比べて香りの奥行きがなく、円熟味が薄い。 また香りが長熟より弱いため長期保管(10年以上)が難しい |
20年物 | 香りの強さ、豊かさがあり、味そのものが強い。 長期熟成ウイスキーは長期保管(10年以上)に向いている。 | 飲み方が絞られる(ストレート、トワイスアップなど)。 ※もちろん炭酸で割っても美味しいが、20年物が持っている香りの100%は引き出せない。 |
ウイスキーポテンシャルを確認する方法
次はウイスキーのポテンシャルを計る方法です。
飲み方を工夫することによってそのウイスキーを広く、大きく理解することができます。
みなさんはお家でウイスキーボトルを封開けしたその日に、ストレートで飲み比べをしたり、ロックにしてみたり、加水してみたりすると思います。
しかし、これだけではウイスキー本来のポテンシャルはわかりません。
特に20年を超える長期熟成ウイスキーは複雑で、なかなか全体像は捉えられる方はいません。
20年物は10年物と比べ、その奥深さ、豊かさは簡単には表情をだしてくれない為、深淵を覗くのには根気が要ります。
では、その工夫をご説明します。
グラスを変えてみる
BARでストレートを頼むと、テイスティンググラスで出されることが多いと思います。
お家でもウイスキーストレートをテイスティンググラスで飲む方は増えていますね。
香りを嗅いだ際に、鼻にツンときて苦手だと思った場合は、思い切ってグラスを変えてみましょう。
ショットグラスなどの背の低いグラスに変えると香り立ちソフトになり、深部のフレーバーを拾えるようになります。
もしくは、ロックグラスにダブル以上の量を注いで、ゆっくりと変化する香りを楽しんでみてください。
今までテイスティングノートに書けなかったようなフレーズが浮かぶかもしれません。
スワリングしてみる
テイスティンググラスを回して(スワリングして)、ウイスキーに空気を含ませましょう。
スワリングは熟成年数の若いウイスキーやカスクタイプのようなアルコールの高いウイスキーに対して有効です。
グラスの中のウイスキーを回転させ、空気を含ませる事によってアルコールの角が丸くなり、総じてまろやかな変化をしていきます。
しかし、奥深さを引き出す飲み方としては適切でないので、長期熟成のウイスキーには避けたほうが良いでしょう。
時間をおいてから飲んでみる
こちらは上記にあげたスワリングとは対照的な飲み方と考えております。
つまり長熟品に向く飲み方。
ウイスキーをグラスに注いでから、しばらく時間をおきます。
時間に関してはウイスキーの銘柄によってまちまちですが、30分置きくらいに飲んでみて、段階的に試していただけると良いと思います。
30分を4回、120分以上置いておける余裕がある場合は、45ml(ジガー)くらいの量が理想的です。
この120分放置にはポイントがあって、90分の段階よりも味わいが物足りないと感じた場合はそのウイスキー自体のポテンシャルが下がり気味になってきていますので、残っているボトルのウイスキーは早めに飲んだ方が良い目安にもなります。
また個人的な経験ですが、6時間かけても底が見えないウイスキーは適切な環境であれば1年以上保管しても問題ありません。
手で暖めてみる
グラスに注いだ後に、手でウイスキーを暖めながら飲んでみましょう。
香りとは本来、温めるとより強くなる性質を持っています。
逆に冷たくするとその香りにフタをする行為になります。
人間の体温は35度から36度くらいですので、グラスを優しく包みながら暖めるとウイスキーが体温に近くなり、香りが際立ってきます。
ウイスキーが本来保持している麦芽や樽香などの豊かな香りを感じる事が出来るようになるのです。
他の飲み方よりも木や土、ミネラル感といったより自然な味わいに強い変化をもたらします。
加水してみる
少しずつ加水しながらトワイスアップで飲んでみましょう。
トワイスアップをする場合ですが、個人で試す場合はグラスを3つくらい用意して、同じ量のウイスキーを注ぎます。それぞれのグラスに対して、加水の比率を少しずつ変えると自分の好みがわかりやすくなると思います。
トワイスアップは加水とスワリングを行う飲み方になる為、よりなめらかさを感じやすくなります。
もちろん水を馴染ませないで飲む方法もありますが、日本は水大国の為、どうしても味覚的に水の味を強く感じてしまう場合があります。馴染ませないで飲む場合は1滴ずつ試すと良いでしょう。
トワイスアップで気をつけるべき点は加水の量とタイミングです。
1つのグラスでトワイスアップを行うと、
30ccに1cc加水→ちょっと飲む→25ccに1cc加水→ちょっと飲む→20ccに1cc加水
というように、ウイスキーの全体量が減っているのにもかかわらず、加える水の量が同じになってしまいがちです。
トワイスアップをする場合は上記を計算しながら、数滴ずつ試したほうが良いでしょう。
次回、同じウイスキーをトワイスアップで飲む際に、自分好みの量に調整できるようになるかと思います。
チェイサーを飲むタイミング変える
多くの方がウイスキーを飲んだ後にチェイサーを飲むかと思います。
それよりも、チェイサーを先に飲み、口の中でウイスキーのトワイスアップのような事をしてみるのがよいでしょう。
唾液を含ませることでまた違った変化があり、内包しているフレーバーの特徴を感覚的に捉えることができます。
また、すぐにチェイサーが欲しくなる人は、一回に口に含むウイスキーの量が多い傾向があります。アルコールによって舌が疲れて水を必要としているのです。
ウイスキーを一度に含む量は、舌が疲れや痛みを感じない程度を基準としましょう。
年数の若いものから試す
「20年物が難しい」と述べた理由は、熟成が織り成す様々な変化の中で「その蒸溜所のあるべき個性」が捉えずらい(隠れている)ものがあるのです。
長期熟成ものは時間が立たないとその個性が捉えにくかったり、もしくは奥に引っ込んで出て来なかったりするのです。さらに飲み手の体調にもよります。
なのでまず10年物で様々な飲み方を試し、その個性を見極めてから20年物を飲むと
「あぁ、この子の個性はこういった表情で出てくるのか」という経験則が生きてきます。
それに気がつくと20年物のより深い底が見えてくるのではないでしょうか。
このように飲み方を工夫する事によって、このウイスキーであればこの飲み方が自分に合っていると判断する事が出来るようになります。
また自分が今まで好きだったウイスキーの新しい味、または苦手なフレーバーを発見するキッカケにもなることでしょう。
ウイスキーも十人十色。
様々な個性があり、毎日違う表情を見せてくれます。
いつも親しくしているウイスキーを違う側面からとらえ、様々な表情を見つけていただけたらと思います。
飲み方色々勉強になりました。
一発目のオリジナル「クライヌリッシュ1997」良かったです。
今後も秀逸なオリジナルボトルも続々追加していくようですので、みなさん是非のぞいてみてくださいね。
よろしくお願いいたします。