1996年の火災から約30年、「Heaven Hill Springs Distillery」が稼働開始です。
2025年4月7日、アメリカ・ケンタッキー州の大手バーボンメーカーヘブンヒル(Heaven Hill)は、バーズタウンに建設していた新蒸溜所「Heaven Hill Springs Distillery」の本格稼働を発表しました。
これは、同社にとって象徴的な出来事であり、1996年の火災で失った蒸溜所を約30年ぶりに同地で復活させるという歴史的な一歩です。

バーズタウンの地に再び蒸溜の炎が灯る
1996年11月、ヘブンヒルの旧蒸溜所と7棟の熟成庫が火災で全焼し、約10万樽におよぶウイスキーが失われました。
この悲劇の後、ヘブンヒルはルイビルのバーナイム蒸溜所での蒸溜を継続しながら、バーズタウンでは熟成・瓶詰め業務を行ってきました。
それからおよそ30年。2022年に発表された計画に基づき、総工費1億3,500万ドル(約155億円)を投じた大規模プロジェクトがついに結実。新蒸溜所は、バーズタウンの中心部からほど近い61エーカー(東京ドーム約5個分)の敷地に建設され、2025年4月に初のウイスキーが蒸溜されました。
最先端技術と歴史の融合
新蒸溜所は、伝統的なクラフトマンシップと最先端の製造技術の融合をコンセプトに設計されています。蒸溜設備の効率化や持続可能性(サステナビリティ)への配慮も行き届いており、ケンタッキー州のバーボン産業における新たな基準のひとつとなることを目指しています。
また、2025年12月には、ヘブンヒルの創業90周年を迎える予定。その記念すべき年を、バーズタウンという原点の地で、自社蒸溜所からのウイスキーで迎えられることに、関係者一同が深い感慨を抱いているようです。
新施設の概要と記念すべき“最初の一樽”

出典©https://www.thespiritsbusiness.com/2025/04/heaven-hill-fills-first-barrel-at-new-distillery/
「Heaven Hill Springs Distillery」は、年間15万樽の生産能力を持ち、今後は最大45万樽まで拡大可能とされています。
第一号の樽詰めを行ったのは、同社の名誉マスターディスティラー、チャーリー・ダウンズ氏。彼は、同社の創業地である旧Heaven Hill Springs蒸溜所から現在まで、すべてのヘブンヒル蒸溜所で勤務してきた唯一の人物です。
彼の手によって「最初の一樽」が満たされたことは、ヘブンヒルの歴史において非常に象徴的な瞬間と言えるでしょう。
事業拡大と観光資源としての期待
今回の新蒸溜所建設に加え、ヘブンヒルは2021年には1,900万ドルを投じたビジターセンター「Heaven Hill Bourbon Experience」をリニューアル。
バーボントレイルの中心地であるバーズタウンにおいて、観光・雇用の両面で大きな経済効果が期待されています。
蒸溜所見学やテイスティング体験を提供する観光施設も、完成次第順次オープン予定。ウイスキーの愛好家にとっては、聖地巡礼の新たな目的地となることでしょう。
火災を乗り越え、ルイビルでの蒸溜を継続しながらも、いつかバーズタウンに蒸溜所を取り戻すという長年の夢を実現させたヘブンヒル。その歩みは、家族経営で独立を守り続けるバーボンメーカーとしての誇りにあふれています。
「Heaven Hill Springs Distillery」は、過去を受け継ぎ、未来を切り開く新たな拠点となりそうです。