ポートランドを拠点とするウエストワード・ウイスキー(Westward Whiskey)が、アメリカ・デラウェア州の破産裁判所に自主的な再建型の破産手続きを申請したことが、2025年4月9日に報じられました。
この手続きにより、同社は事業の運営を継続しながら、債務の再構築と資金調達を模索するとのこと。

アメリカン・シングルモルトの先駆者

ウエストワード・ウイスキーは、2004年にHouse Spirits Distilleryとして創業し、2010年代後半からは「アメリカン・シングルモルト」という新たなカテゴリの旗手として国内外で注目を集めてきました。
伝統的なスコッチ製法にオレゴン州ならではの気候や原料、クラフト精神を融合させたそのスタイルは、アメリカのウイスキー市場に新風を吹き込みました。
2015年には大規模な蒸溜所をポートランドに新設。
同年より本格的にウエストワード・ウイスキーとしてのブランディングを開始。
2020年以降、日本を含むアジア市場への輸出も本格化し、バー業界を中心に多くのファンを獲得してきました。
財政難に直面した背景

今回の自主再建申請は、複数の要因による財務的な圧迫が背景にあります。申請書によると、
コロナ禍以降のアルコール需要の減退
インフレや原材料コストの上昇
生産能力の過剰投資と過剰在庫
などが重なり、経営の健全性が損なわれたといいます。
特にパンデミック後の2年間で業界全体に冷え込みが見られたことも影響し、ウエストワードも販売計画に対して大量の在庫を抱える形となりました。
当初は、将来的な拡張を見越して大規模な設備投資と人材採用を行いましたが、それに見合う需要が実現せず、月間で100万ドルを超えるキャッシュアウトが発生。
コスト削減策の結果、現在は月30万ドル以下まで抑えられているものの、資金調達の契約上の制限もあり、資金繰りに行き詰まったことが申請の決定打となったようです。
「Distill Ventures」支援の行方
ウエストワードは、かつてディアジオが運営していたベンチャー支援プログラム「Distill Ventures」の支援先でもありました。
同プログラムでは、日本の嘉之助蒸溜所、デンマークのスタウニング、オーストラリアのスターウォードなど、世界中の個性的な蒸溜所に出資してきましたが、2024年にプログラムの終了が発表され、支援体制の見直しも影響したと考えられています。
今後の展望と日本での期待

創業者でありCEOのトーマス・ムーニー氏は、今回の再建手続きを前向きにとらえており、ウエストワードのブランドと製品には「まだ多くの可能性がある」とコメント。
すでに資金調達の選択肢を積極的に検討中であることが明かされています。
日本市場においても、ウエストワードは「アメリカン・シングルモルト」という新ジャンルを知るきっかけとしての注目度が高く、クラフト志向のバーやウイスキー愛好家の間では、「モルトのようでありながら、どこか新しい」味わいとして評価されてきました。
オレゴン発の革新者、再出発はいかに
ウエストワード・ウイスキーの再建は、アメリカン・シングルモルト全体の未来にも大きな影響を与えうる重要な局面です。
これまで築き上げてきたブランド力、品質、革新性を武器に、次なる10年への一歩をどう踏み出すのか──。