世界のウイスキー市場に、これまでにない緊張が走っています。
欧州連合(EU)が米国産ウイスキーへの関税を再導入する決定を下したことで、米国が即座に報復を示唆。
この関税戦争は、バーボンをはじめとする蒸留酒の生産者や消費者のみならず、ワインやシャンパンなどアルコール業界全体に広がるリスクを孕んでいます。

EUが米国産ウイスキーに50%の関税を再導入へ
EUは2025年4月1日から、米国産ウイスキーの輸入に50%の関税を課す予定です。
これは、トランプ前政権時代に米国がEUからの鉄鋼・アルミ輸入に課した関税への報復措置で、バイデン政権下で一時停止されていた対抗関税の再開を意味します。
EUが2018年に25%の関税を導入した際、米国産ウイスキーの対EU輸出額は5億5200万ドルから、2021年には約4億4000万ドルへと約20%も減少。
その後、関税解除により2023年には7億500万ドルまで回復しましたが、今回は50%というより高率な関税であり、更なる打撃が懸念されています。
年度 | EUによる米国産ウイスキーへの関税率 | 対EU輸出額 |
---|---|---|
2018 | 25% | 5億5200万ドル |
2021 | 0% | 約4億4000万ドル |
2023 | 0% | 7億500万ドル |
2025(予測) | 50% | 分析中 |
トランプ氏、EUアルコールに200%関税を警告

これに対し、トランプ大統領は2025年3月13日、自身のSNS「Truth Social」で、EUが関税を撤回しなければ、フランスなどEU産のワイン、シャンパン、その他アルコール類に200%の関税を課すと表明。
フランスだけでも年間約40億ユーロ(約43億ドル)分を米国に輸出しているため、この措置が実現すれば、欧州の酒類業界は壊滅的な影響を受ける可能性があります。
トランプ氏は国内の酒類産業の保護を主張していますが、実際には輸入価格の高騰が消費者や小売業者を直撃する可能性が高く、報復関税の連鎖により米国の業界全体も深刻なダメージを受けるリスクがあります。
生産者と消費者への影響

スピリッツヨーロッパやアメリカ蒸留酒協議会(DISCUS)といった業界団体は、これらの関税が売上、成長、雇用に悪影響を与える可能性について懸念を表明しています。
特にディアジオは、米国で17万8000人以上の雇用を支えており、そのうち1万1500人は生産・販売・流通の現場に直接従事。EUやカナダ、メキシコからの報復関税が適用されれば、米国内の雇用にも大打撃となると警告しています。
米国蒸留酒協議会のCEO、クリス・スワンガー氏は、「50%の関税は、大小問わずすべての蒸留業者に修復不能な損害をもたらす」と述べ、特に中小蒸留所の経営継続を困難にするとしています。
小売価格の上昇
関税は本質的に税金であり、EUにおけるアメリカ産ウイスキー、そしてアメリカにおける欧州産ワインやスピリッツの価格上昇につながる可能性があります。
例えば、パリではEUの50%関税により、30ユーロのバーボンが45ユーロに値上がりする可能性があります。
同様に、アメリカが200%の関税を課した場合、以前は関税のかかっていなかった15ドルのイタリア産プロセッコが45ドルに跳ね上がる可能性もあります。
このような価格上昇は、消費者の購買意欲を減退させ、市場全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
解決の鍵は「対話と協調」
今回の関税措置と報復の応酬は、世界のアルコール市場にとって極めて重大な岐路となっています。
業界団体は、関税の撤回と建設的な対話を強く要望。国際的な貿易の安定と消費者の利益を守るためにも、関係国間の協調が求められています。
貿易戦争には真の勝者はほとんどおらず、多くの場合、消費者はより高い価格を払い、生産者は市場シェアを失う結果となります。
業界関係者は、アメリカとEUが貿易紛争をエスカレートさせるのをやめ、アルコール飲料に関税を課さない解決策を見出して欲しいと望んでいます。早期の収束が、今こそ必要とされていますね。