日本のウイスキーブームが落ち着いた2025年2月、世界の酒類業界が揺れています。
各国が貿易政策の影響を大きく受けているのです。
特にバーボン、スコッチウイスキー、コニャックといった蒸留酒は、国際的な貿易摩擦の中で大きな注目を集めています。
米国の関税政策と蒸留酒業界への影響

トランプ大統領は、酒類を含む輸入品への新たな関税の導入を検討しています。
これは、米国の貿易赤字削減と国内産業の保護を目的としたもので、今後の政策次第では、スコッチウイスキーやコニャックなどの輸入品に影響が出る可能性があります。
一方で、インド政府はバーボンウイスキーに対する関税を150%から100%に引き下げました。
これは、トランプ大統領とインドのモディ首相との会談の結果とされており、アメリカのバーボン生産者(ブラウン・フォーマン、サントリー傘下のジムビームなど)が恩恵を受けることになります。
これにより、スコッチウイスキーの輸入業者に対して価格面での優位性を得る可能性がありますが、英国政府は引き続きインドとの自由貿易協定(FTA)の交渉を進めており、スコッチウイスキーの関税引き下げを目指しています。
また、インドとのFTA交渉の背景には、過去にイギリスへ逃亡したインドの著名な実業家ヴィジャイ・マリヤ氏の引き渡し問題も影響しているとの指摘もあります。
中国とEUの貿易摩擦:コニャックへの影響

そして中国とEU間の貿易摩擦も激化しています。2024年8月、中国商務部は、EU産のブランデー(主にコニャック)が不当に安く販売され、中国国内の産業に損害を与えているとしてアンチダンピング調査を開始しました。その結果、中国はEU産ブランデーの輸入業者に対し、30.6%から39.0%の保証金支払いを求める措置を発表しました。
11月には、輸入業者が保証金の代わりに銀行保証を利用できるよう変更されたものの、その後も状況は悪化。2025年1月、中国最大の免税店運営企業である「中国免税品グループ(CDFG)」が、マーテル、ヘネシー、レミーコアントローなどの主要コニャックブランドを取り扱いリストから削除しました。
さらに、広東省の輸入業者によると、2024年12月以降、コニャックの通関手続きが停止しており、中国市場向けの供給が滞っている状況です。公式な発表はないものの、中国政府が意図的に規制を強化している可能性が指摘されています。
この一連の動きは、2020年に中国がオーストラリア産ワインに課した最大218.4%の高関税と類似しています。当時、オーストラリア政府が中国の人権問題や新型コロナウイルスの発生源について批判的な立場を取ったことが、ワインへの制裁につながりました。最終的に、オーストラリア政府が対中政策を軟化させたことで、2023年に関税が撤廃されましたが、現在のコニャック問題も同様の外交的駆け引きの一環と見られています。
コニャック輸出の大幅減少 – 中国市場の影響

2024年、世界全体のコニャック輸出額は前年比10.6%減少しました。特に中国市場への輸出が深刻な影響を受けており、対中国輸出額は前年比24.2%の大幅減少、出荷量も23.8%減少しました(Bureau National Interprofessionnel du Cognac(BNIC)調べ)。
BNICは、「昨年10月以降、中国向けの輸出が急落しており、中国の税制問題の迅速な解決がこれまで以上に求められている」との声明を発表しています。また、レミーコアントローは2025年1月に発表した第3四半期の売上報告で、売上高が7億8700万ユーロ(約1270億円)と前年比17.7%の減少を記録。売上の約70%をコニャックが占める同社にとって、中国市場の悪化は大きな打撃となっています。
さらに、中国商務部は2025年1月初旬、EU産ブランデーに対するアンチダンピング調査の期間を3カ月延長し、調査の終了は2025年4月5日と発表しました。この延長により、中国市場の不確実性はさらに高まることが予想されます。
酒類業界の今後の展望

米国の貿易政策が今後どのような方向に進むかは不透明ですが、もしスコッチウイスキーやコニャックに関税が課されることになれば、業界への影響は避けられません。
特に、EUと米国の関係が再び悪化すれば、関税の引き上げが現実のものとなる可能性があります。
一方、中国市場においては、コニャックの供給が滞ることで、消費者の需要が他の高級酒(ウイスキーや中国国内産ブランデー)に移る可能性もあります。
世界的な酒類市場は、各国の政治的な動きによって大きく左右される状況が続いており、業界関係者は今後の動向を慎重に見守る必要がありそうです。