スコットランドのグレングラッサ蒸溜所(Glenglassaugh Distillery)が、2025年末まで生産を一時停止することを発表しました。
このニュースは、ウイスキー業界全体の低迷を背景にしたものであり、世界的な大手酒造企業ブラウン・フォーマン(Brown-Forman)が進めるリストラの一環と見られています。
従業員によるSNS投稿から広まったこの衝撃的なニュースですが、グレングラッサ蒸溜所は完全閉鎖には至らず、年末には生産を再開する予定とのこと。しかし、ウイスキー市場の現状を考えると、この決定の背後にはより深刻な業界の問題が潜んでいます。
SNS投稿から発覚した閉鎖の事実
グレングラッサ蒸溜所の生産オペレーターであったティジェイ・サルホトラ氏が、自身のInstagramでこの決定について投稿したことで、このニュースは一気に広まりました。
「ウイスキー業界の低迷と企業活動の変化により、グレングラッサは一時的に閉鎖され、生産職が削減されることになった。」
サルホトラ氏は3年間ブラウン・フォーマンで勤務し、グレンドロナックのビジターセンターでの業務を経て、グレングラッサの生産現場に携わってきました。彼の投稿には、閉鎖があくまで「一時的なもの」であり、「年末には再開する予定」であると記されています。
この発表に対し、ブラウン・フォーマン側もコメントを発表し、「生産休止の決定は資源の最適化を目的としたものであり、完全な閉鎖ではない」と説明しました。
ブラウン・フォーマンの「シェアード・プロダクションモデル」
ブラウン・フォーマンは、グレングラッサ蒸溜所の生産を一時停止する一方で、姉妹蒸溜所であるベンリアック(Benriach)と生産ラインを統合する方針を発表しました。
これにより、グレングラッサでは「サイレントシーズン」と呼ばれる期間を設け、生産を休止することで、コスト削減を図るとしています。
ブラウン・フォーマンの広報担当者は、次のように述べています。
「この新しい生産モデルは、リソースの最適化を目的としており、伝統的なウイスキー生産方式の一環として取り入れられる。」
また、この決定に伴い、グレングラッサ蒸溜所では一部の従業員が解雇されることが決定しました。
グレングラッサの歴史と近年の成長
グレングラッサ蒸溜所は1874年に設立されましたが、その歴史は閉鎖と再開の繰り返しでした。1986年に一度閉鎖され、その後2008年にロシア企業に買収されて再開。2013年にはベンリアック蒸溜所とグレンドロナック蒸溜所とともに「ベンリアック・ディスティラリー・カンパニー」の一部となりました。
2016年にはブラウン・フォーマンがこの3蒸溜所を約2億8100万ポンド(約540億円)で買収。以降、ウイスキーラインナップの刷新が進められ、2023年には以下の3種類のコアレンジを発表しました。
- グレングラッサ 12年
- ポートソイ(Portsoy)
- サンデンド(Sandend)
さらに、2024年春には超高価格帯の「Serpentine Coastal Cask Collection」をリリースし、ブランドの高級路線を強化していました。
しかし、今回の生産休止は、こうした成長戦略に陰りが見えていることを示唆しています。
ウイスキー業界全体に広がる危機
グレングラッサの一時閉鎖は、ウイスキー業界全体が直面している経済的課題の一部に過ぎません。
1. 若年層のアルコール離れ
近年、ミレニアル世代やZ世代のアルコール消費量の減少が顕著になっています。特にスピリッツ市場では、ヘルシー志向の高まりや、カクテル文化の変化が影響を与えており、ウイスキーブランドにとっては厳しい市場環境が続いています。
2. 大手メーカーの売上減少
ブラウン・フォーマンは2024年12月に発表した半期決算で売上が5%減少したと報告。同社の「ウイスキー部門(ジャック・ダニエル、ウッドフォード・リザーブ、オールド・フォレスターを除く)」は前年同期比22%減少という大幅な落ち込みを記録しました。
3. 米国関税問題と貿易摩擦
2025年4月には、トランプ前大統領時代に導入された**「米国の対EU関税(50%)」**が再適用される可能性があり、ウイスキー業界は再び貿易摩擦の影響を受ける懸念があります。
4. 競争の激化と価格高騰
高級ウイスキー市場は成長を続けていますが、ブランド間の競争が激化し、販売戦略の見直しが迫られています。特に、価格の高騰が消費者の購買意欲を減退させる要因となっています。
グレングラッサの未来 – 再開の可能性と今後の展開
グレングラッサ蒸溜所の完全閉鎖は回避されたものの、今回の生産休止は市場の回復を待つための戦略的な判断とも考えられます。
ブラウン・フォーマンは今後もグレングラッサを「シェアード・プロダクションモデル」の一部として維持する方針ですが、この決定がブランドの方向性をどう変えるかは未知数です。
また、休止期間中にウイスキー市場が回復しなければ、休止期間の延長やさらなるリストラの可能性も否定できません。
ウイスキー市場の行方を占う試金石
グレングラッサ蒸溜所の一時閉鎖は、ウイスキー業界全体が直面している消費低迷・価格高騰・関税リスクといった課題を象徴しています。
この閉鎖が一時的なもので終わるのか、それとも長期的な戦略転換の始まりなのか—その答えは、今後の市場の動向とブラウン・フォーマンの経営判断次第です。
いやー、ブラウンフォーマンはこないだ大リストラのニュースあったばかりだから、めっちゃ心配。
グレングラッサ、好きな蒸溜所なので潰れないでほしい。とりあえず一時期のスキャパみたいになるのかなぁ。