ブームは終焉か?海外ウイスキー市場の停滞
近年のウイスキーブームは、特に希少品や高級ウイスキーを中心に高値取引が続きましたが、2024年に入りその勢いが急激に減速していきました。
二次市場での取引量や価格が下落し、需要と供給の不均衡、消費者の購買行動の変化が起こっています。
ここにはさまざまな経済的要因の影響も見て取れます。
海外市場の2024年の動向と統計
- Noble & Coの調査によると、2024年第2四半期のオークション市場での取引額は前年比50%、取引量は52%減少。平均価格も19%下落しました。
- 高級ウイスキー(£1,000以上)の取引量は34%減少し、価格も大幅に下落。これにより、投資家やコレクターの間で慎重な姿勢が広がっています。
- 一方、手頃な価格帯(£100〜£1,000)のウイスキーでも取引量が24%減少しており、全体的に需要が減退している状況です。
主な要因
インフレと消費抑制
消費者の可処分所得が減少し、高額商品への支出が減っています。これに伴い、価格が抑えられたウイスキー以外の嗜好品へのシフトが増加しています。税制と規制の変化
イギリスではG7諸国中最も高い最低税率が課されており、さらにアメリカの関税引き上げが予測されています。一方、香港や中国などのアジア市場では関税引き下げが進み、これが需給バランスに影響を与えています。市場飽和
過去数年間で増産されたウイスキーが市場に供給され、特に希少性が価値を支える高級品市場では供給過多が顕著です。
ブランド別動向
現在の市場では、ブランドごとにパフォーマンスの差が拡大しています。
代表的な銘柄を見てみましょう。
マッカラン
世界的に人気を誇るマッカランは依然として市場の中心ですが、2024年には取引量が41%、取引額が51%減少しました。減少の背景には、新製品の減少や高値での購入が裏目に出たことが挙げられます。- アードベッグ: 近年のコミッティーリリースは、オークションでの価格が発売当初の水準に戻っており、以前のような高値は期待できなくなっています。
山崎
ジャパニーズウイスキーの象徴的ブランドである山崎は、2021年から2022年に価格が急騰しましたが、その後の下落は著しく、5年で価格指数が3%低下しました。その他比較的安定したブランド
一方で、アベラワーやグレンドロナックなど、一部のブランドは価格の安定を維持。特にグレンドロナックは、5年間で価格指数が50%以上上昇しており、安定した需要を示しています。
国産ウイスキーと新興蒸溜所の課題
日本でもサントリーやニッカなどの国産ウイスキーが、スーパーマーケットやコンビニでも見かけるようになり、国内での供給量不足は解消されつつあるようです。
一方で、新興蒸溜所も次々と登場し、ジャパニーズウイスキーの選択肢がますます広がっています。
ただし、新興蒸溜所が今後市場で定着するには、いくつかの重要な課題があるように感じられます。
海外販路の拡大
日本国内だけでは市場が限られるため、海外販路を確保できるかどうかが大きなポイントになりそうです。すでにグローバルでの流通網を持つサントリーやニッカと違い、新興蒸溜所が世界に進出するためには、現地のディストリビューターやパートナーとの早期の協力が鍵になるかもしれません。
独自性の確立
ウイスキーは長い熟成期間が必要なため、その間に製品の品質やブランドの方向性をどれだけ明確に打ち出せるかが試されるでしょう。例えば、地元産の原料を使用したストーリーや、環境に配慮した製造プロセスなど、ユニークな価値観を消費者に伝える取り組みが求められると考えられます。
国内外での競争激化
国内市場では、既存の大手メーカーとの競争が激しい中、安定した販売網を築くのは容易ではありません。また、世界的に見るとスコッチやアイリッシュウイスキー、アメリカンウイスキーなど、多様なカテゴリーとの競争も避けられません。
新たな時代に向けたウイスキー市場の展望
現在のウイスキー市場は転換期を迎えています。
二次市場の停滞や高級品市場の低迷は、投資商品としてのウイスキーの価値に疑問を投げかける一方、本物の品質やストーリーに基づくブランドが求められる時代が到来しています。
新興蒸溜所にとっては、この変化はリスクであると同時に大きなチャンスといえるでしょう。
単なる希少性ではなく、地域性や品質、そして消費者との共感を得るブランドが新たなスタンダードを築く時代が訪れるといえます。