ウイスキー人気の高まりから、年々増えている『モルト女子』。
そんな彼女たちの間で、ミニ樽を使って自分だけのウイスキーを造ることができるMy熟成樽が話題です。
ミニ樽を使った熟成となると、なにやら技術が必要でマニアックと思われるかもしれません。
しかし実は簡単に、しかもおしゃれに楽しめるウイスキーラヴァー必見のアイテムなのです。
今回は、ミニ樽を使ったオリジナルウイスキーを造る方法を紹介していきます。
インスタ映えするフォトジェニックなインテリアにもなり、ウイスキー好きを頷かせるネタも盛りだくさん。
体験することでしか知ることのない熟成ポイントをおさえて、あなた好みのウイスキーを完成させましょう!
ミニ樽熟成とは?
部屋にも置ける小さなサイズの樽を使いウイスキーを熟成させます。
ミニ樽は1~5ℓ程度の比較的小さな樽で、通販などで手に入れることができます。
手頃な2ℓ樽であれば、奥23cm・径16cm・高21cm程度のサイズで、一般家庭にある炊飯器ほどの大きさと言えばイメージしやすいでしょう。
ちょっとしたスペースに置けるので、お部屋のモダンなワンポイントアイテムとしても使えます。
ウイスキーをミニ樽に注ぎ、保存することによって、熟成が可能になります。
ウイスキーは樽の中で寝かせておくことで、風味や色合いがゆっくりと変化。自分だけのオリジナルウイスキーを造ることができるのです。
味を確かめながら熟成の移ろいを楽しむ、ウイスキーの成長を見守る蒸溜業者のような気分に浸れます。
熟成とは?
ウイスキーの場合、原酒を樽に入れて貯蔵し、味・風味を落ち着かせることを「熟成させる」と言います。
蒸溜機から作られた原酒(スピリッツ)は味や風味がとげとげしく、そのまま飲むには適していません。
そのため樽に入れて時間をおくことで、ウイスキーを落ち着かせるのです。
樽に入れたウイスキーは時間とともに変化し、刺激が薄れていきます。
そして、樽の内側に木に反応して、徐々に琥珀色になっていきます。
こうして、まろやかさが増して“おいしく”なるのです。
熟成の醍醐味は、時間をかけて変化するさまにあります。
My熟成樽での熟成期間は2週間~1年程度が目安となっているので、四季の移ろいとともに、ゆっくり楽しむことができるでしょう。
樽熟成の詳しいメカニズムが知りたい方は、後述にて解説しています。
ミニ樽熟成が『モルト女子』に人気の3つの理由
①好みのウイスキーをじっくり成長させることができる
ご自分の好きなウイスキーをミニ樽へ入れて、その変化を楽しみます。樽に入れたウイスキーは、木の香りが付き、まろやかになります。
また、許可がもらえるのであれば、馴染みのBARに置いてもらうのもいいですね。
「熟成度合いを確かめる」、そういった理由でBARに通うのもオシャレだと思いませんか?
②待っている時間が楽しい
ミニ樽を使っての熟成は、2週間経過した頃から変化が現れはじめます。
うまく貯蔵しておけば1年以上といった長期間でも寝かせられます。
記念日に熟成を始めて、その次の記念日に大切な人と共有するといった、”待つ”時間を楽しめるのがミニ熟成樽の魅力。
熟成開始日を誕生日や記念日にしておいて、開封する日にパーティーを行うというのも素敵ですね。
仲間内で樽を用意して、それがどういう味や香りになるかわくわくしながら待つのも楽しいでしょう。
③フォトジェニックな演出ができる
樽のクラシカルな見た目や、ウイスキーの琥珀色はとても写真に映えます。
Instagramなどでミニ樽を投稿している方も見受けられますね。
特にウイスキーは、熟成させることでより鮮やかな琥珀色となります。
深みの増した色あいは、グラスの中で静かに輝き、幻想的な一枚を描き出してくれるでしょう。
また、クリスタルグラスや切子グラスなどのウイスキーグラスで、オリジナルなショットを演出。
お酒を飲む時間に華やかさがプラスされ、フォトジェニックな夜を楽しむことができるでしょう。
ウイスキーグラスは以下のページを参考に。
まずはミニ樽を用意しましょう
実際にミニ樽を買ってみて、熟成を行っていきます。
樽選びのポイントや入れるウイスキー、貯蔵しておくときのコツなど載せているので、ご自宅で熟成樽を使う際の参考にしてみてください。
ミニ樽の選び方
まず、選ぶ前に注意点。ウイスキーを熟成させるミニ樽は、品質が保証されたものにしましょう。
アンティーク風のものやディスプレイ用に作られている樽だと、水分を貯蔵しておくことを想定していない場合があります。
そのため、ウイスキーが漏れてしまったり、木樽そのものが腐敗してしまうおそれがあります。
ミニ樽を選ぶ際は用途をしっかりと確認して、ウイスキーが貯蔵できるかどうか、確かめてから買いましょう。
最初に買うなら手頃なミニ樽
天使のミニ樽 2ℓ(オーク樽)
A4用紙より小さな幅・長さのお手頃サイズに、たっぷり2ℓ近くのウイスキーを詰めることができます。
樽の内側はチャーリング(焼いて香りを付けやすくする)加工がなされており、熟成にぴったり。
熟成に適した高品質かつ、低価格なおすすめミニ熟成樽です。同じような商品に俺のシングルバレルというものもあります。
ミニ樽選びにおすすめのサイト
- 「天使のミニ樽」販売サイト。1~5ℓまで豊富な熟成樽が揃っています。詳細なQ&Aや、使用上の注意点などが記載されている良サイト。
- 「俺のシングルバレル」販売サイト。シブい木目のミニ樽が1~5ℓまで取り揃えアリ。ステンレスじょうごも付属されていて、便利です。
- 樽専門店「Ships Oak Barrel Craft」。シップス株式会社が手がける樽製品を取り扱っています。チャーリング加工は行っていないようですが、自前で焼く方法を記載しています。
- 樽専門会社「オークバレル」。インテリアやディスプレイの製品がメインですが、ウイスキー樽の取り扱いもある模様。熟成樽購入には問合せが必要です。
- 洋樽メーカー「有明産業株式会社」。主に企業や酒造メーカー向けの大きなサイズの木樽を取り扱っています。容量は10ℓ以上からしかありませんが、品質は間違いありません。
樽選びのポイントは容量です。
容量が小さければ小さいほど、樽とウイスキーの接着面が多くなり、熟成が早く進む傾向にあります。
小さ目の樽は、年単位での熟成となると樽感が出過ぎてしまうこともあり、長期熟成にはおすすめできません。
また、長期間における蒸散(ウイスキーがエンジェルズシェアとなって樽から消えていってしまうこと)の割合も多くなることから、熟成後に楽しむウイスキーの量がどうしても少なくなりがちです。
長期熟成を考える方は、5ℓ以上の大きな樽を選びましょう。
逆に、短い期間で樽のフレーバーを楽しみたいという方には、小さな樽をおすすめします。
ミニ樽の使い方
ミニ樽が手元に届いたら、すぐにこの作業を行なうようにしてください。
樽が空のまま乾燥してしまうと、水漏れの原因となります。
もし、届いてからすぐ作業できないのであれば、水を入れておいて樽を乾燥させないようにしましょう。
1.水漏れ確認
樽に8分目ほど水を入れ、1日放置して水が漏れていないことを確認します。
プラスチック製のトレーの上に置いておくと、水が漏れていたかどうか確認しやすいです。
水を入れた当初は水漏れしていても、樽材が水分を補給することで膨らみ、漏れが止まることもありますので、丸1日様子を見て判断しましょう。
2.樽を洗浄する
水で樽の中を2、3回すすぎます。
スポンジやタワシでこする必要はありません。
もし、中古品の樽などをリセットしたいのであれば、クエン酸溶液を使いましょう。2ℓの水に対して、小さじ1杯のクエン酸を入れた溶液で軽くすすぎます。
3.お湯で樽を消毒する
75℃以上の熱湯を樽の中に入れて、3分ほどおいて殺菌消毒します。
4.水気を取る
お湯を捨てて、雑菌が入らないよう自然乾燥させ、ある程度水気が取れたら準備完了です。
5.ホワイトリカーでアクを抜く
チャーリング加工してある新品の樽だと、1回目の熟成では樽の成分が出過ぎてしまうことがあります。
バーボンのような焦げた樽の香りが付くのを避けたいのであれば、1回目の熟成はホワイトリカーを入れて、2週間ほど置いてみましょう。
樽のアク抜きができます。
ちなみにホワイトリカーは焼酎です。
樽に入れたあとのホワイトリカーには、しっかりと樽の香りが付いているので飲んで楽しむのも良いでしょう。
使うウイスキーを用意しよう
どんなウイスキーが適しているか
ミニ樽に入れるウイスキーは、アルコール度数の高いものにしましょう。
一度ボトルの封を開け、ウイスキーをミニ樽に移して熟成させると、アルコール成分が飛んでしまい、味のコクや土台が弱くなります。
最初から度数が高く、味・香りがしっかりとした強いウイスキーであれば、樽を使った熟成によって“まろやか”になった、“円熟味”を楽しめるウイスキーとなるでしょう。
おすすめは、カスクストレングスのシングルモルトウイスキーです。
カスクストレングスとは、水を加えて味や度数を調整することなく、瓶詰めしたウイスキーを指します。
樽からそのまま瓶詰めされているため、調整されている同じ銘柄のものよりも個性が強く、度数も高いです。
カスクストレングスにもシングルモルトとブレンデッドがあります。
できれば単一蒸溜所でボトリングされたシングルモルトが好ましいです。
また、カスクストレングスと同様に熟成年数の短いウイスキーも、熟成の結果がわかりやすいです。
短熟のウイスキーはバーボンなどに多く、アルコールのとげとげしさを感じさせます。
しかし、ミニ樽で寝かせることで丸みを帯び、新たなフレーバーを感じられるようになるのです。
さらに、ニューポット(原酒)と呼ばれる、熟成されていないウイスキーもあります。
こちらは短期間で思うような熟成変化は望めませんが、長期熟成を考える方には選択肢のひとつとなるでしょう。
1本だけではなく、複数のウイスキーを樽の中で混合する楽しみ方もあります。
「こんな味のウイスキーにあんな味のウイスキーを足せば、最強のウイスキーになるんじゃ……」なんて発想を試すことのできる恰好の場です。
それぞれのウイスキーを調和させてくれるのも隠された熟成の力。あなたのセンスが光ります。
逆のパターンとして、「ちょっと飲んでみたけど苦手だったため、ずっと残っている」ウイスキーを活用する方法もあります。
それらを混ぜて熟成させることで、錬金術のように新たなおいしいウイスキーが生まれる可能性も、実はあるのです。
まとめまると、熟成におすすめなウイスキーは5パターン。
①カスクストレングスウイスキーを、1種類使用。
②短熟のバーボンウイスキーを、1種類使用。
③ニューポットを、1種類使用。
④カスクストレングスウイスキーを、数種類使用。
⑤苦手なウイスキーを、1種類or数種類使用。
では具体的にひとつずつ解説していきましょう。
①カスクストレングスウイスキーを、1種類
カスクストレングスウイスキーを1種類だけ使うことで、樽の影響度をはっきり感じとることができます。ミニ熟成樽初心者の方は、まずこの方法を行なってみましょう。
カスクストレングスは、その銘柄の個性が強く表現されており、熟成させる素材としては非常に適しています。
もし好きなシングルモルトのカスクストレングスが手に入るのであれば、1度熟成樽で試してみてください。
好みの味や香りの個性が凝縮され、それでいて円みを帯びたオリジナルウイスキーに変化します。
しかし、カスクタイプのウイスキー(特に写真のようなシングルカスクと呼ばれる一本の樽から出した原酒)はお値段もちょっとお高め。
「そこまで高いのはちょっと……」という方は次項のバーボンタイプを参考にどうぞ。
②短熟のバーボンウイスキーを、1種類
気軽に熟成樽によるフレーバーの移ろいを感じてみたいのであれば、バーボンを試してみましょう。
バーボンウイスキーは、製法や米国の気質から短熟のものが多く、度数が高いものが多くあります。
味や香りにパンチの強いタイプが多いので、まろみを与えてくれる熟成樽とは相性良し。
「口当たりは強いけど、落ち着いたらもしかして化けるんじゃ……」という味わいバーボンがあれば、ぜひ試してみましょう。
③ニューポットを、1種類
まっさらなニューポットを使用する方法です。
使用する樽のサイズは少なくとも5ℓ以上。熟成期間は1年以上。かなりの割合がエンジェルズシェア(天使の分け前)となって消えていくことを覚悟しましょう。
ニューポットや、短熟ウイスキーをさらに熟成させて、市販のものと同じようなウイスキーにするには、長い時間と良い樽が必要です。
しかし、透明に近いウイスキーが変化し徐々に色がついていく様は、「ウイスキーを造っている様」がもっとも実感できるでしょう。
ニューポットの無機質でとげとげしい味わいから、奥底に眠る香りを引き出して樽の香りを上手に付けられたならば、こんなに楽しいことはありません
。一から育てたウイスキーを飲むときは、達成感もまたひとしお。もうあなたは熟成のプロです。
変化する様子を写真に残してSNSにアップするのも、ニューポットから熟成する楽しみのひとつ。
透明な液体が日を追うごとに薄く琥珀色に染まっていきます。
ライトなどを当てると、樽から出た赤色がぼんやりと光り、ウイスキーが成長する様子がはっきりと見ることができます。「熟成インスタ映え」はなかなかのパワーワードかと。
④カスクストレングスウイスキーを、数種類
カスクタイプのウイスキーを複数種類使用する方法で、上級者向けの熟成方法です。
数種類のウイスキーを使う場合は、まず味や香りをはっきり理解しているカスクストレングス同士を2種類からヴァッティングしましょう。
それからテイスティングしつつ、足りない味を補うウイスキーを加えていくというのも、My樽熟成ならではの楽しみ方です。
グレンリベットのナデューラやグレンファークラス105などは比較的手に入りやすいと思います。
⑤苦手なウイスキーを、1種類or数種類
あまり得意でないタイプのウイスキーを使用する方法です。
樽熟成は、ウイスキーを落ち着かせ、まろやかにします。
苦手だったウイスキーの銘柄も、樽で寝かせることによって、飲みやすくなるでしょう。
もし、あまり飲まずに残っていたウイスキーがあれば、樽の中に全部入れ込んでしまうのもミニ樽熟成の醍醐味です。
混ぜ合わせることによって生まれる、“ウイスキーの不思議”を目の当たりにできることでしょう。
熟成中の注意点
ミニ樽熟成で注意するべきなのは、「味わい」「量」「期間」の3点です。
「味わい」
樽成分が溶け出すことによる味の変化を指します。つまり、「どれだけ樽の味がついたのか?」ということです。
ミニ樽を使い始めた最初のころは、樽から味や香りの成分が多く溶出します。
これは、樽の内部を焼いてすぐの状態は反応しやすいためです。
味としてはバーボンの風味、焦げた木材の香りやかすかに舌がひりひりするドライな感覚が特徴的です。
しかし、使い込まれていないせいか、アクをなめたときのようなエグみも同時に溶出します。
新しい樽で熟成を始める際は、樽感の味の変化に注意しましょう。
味の違いを知るには、テイスティングが必要です。
頻度としては、1週間単位でのチェックがよろしいでしょう。あまり頻繁に試しすぎると、いざ飲むときに「足りない!」なんてことも。
テイスティングの詳しい方法などは、以下のページを参考に。
「量」
「樽内にウイスキーがどれだけ入っているのか?」ということです。
樽は完全に密閉されているわけではありません。ウイスキーが木材に染み込んで膨張し、木材の細かな隙間から空気中に蒸散しています。
そのため、樽内にあってもウイスキーはどんどん減っていきます。
その減った分をエンジェルズシェア(天使の分け前)と呼びます。
冷暗設備が整えられた保管所では1年で2~4%、気候次第では10%や20%もなくなることもあります(インドや台湾のウイスキーはエンジェルズシェアが多いことで有名です)。
樽を保管する場所は、なるべく冷暗な場所にするようにしましょう。
また、樽内のウイスキーが減ると、樽は痛んでしまいます。
一般的に樽の容量に対して70%程度を保つことが適切と言われています。
蒸散や飲むことである程度減った場合は、残っている分を瓶詰めするか、新たにウイスキーを加えることをおすすめします。
「期間」
熟成する期間です。これは上に書いた「味わい」と「量」にも関わることですが、「熟成開始する前から、ある程度の期間は設定しておくべき」という注意喚起です。
例えばニューポットを熟成させる場合は、少なくとも1年以上の期間を設けるべきでしょう。
なぜ期間設定をするのかというと、十分な変化が起こらず中途半端な味わいになってしまうのを避けるためです。
逆にそのままでも楽しめるウイスキーに軽く樽のフレーバーを付けたいのであれば、期間設定は短くても構いません(2週間~2か月程度)。
このように熟成は、「こんな味のウイスキーにしたい」という狙いから、熟成期間の目途を付けておく必要があります。
おいしいウイスキーを熟成するためのコツ
いろんなお酒を熟成してみよう
新樽を使った最初の熟成は、焼いた木材のフレーバーが強く、エグみが残ります。
そのためホワイトリカーを使ってアク抜きするわけですが、完全にその”新樽らしさ”が抜けるわけではありません。
樽は熟成してこそ、味や香りを蓄積していきます。
使い始めは同じような味わいの変化ですが、熟成回数を重ねることにより、色々なウイスキーの味わいを吸収して樽はどんどん複雑なフレーバーを得るようになります。
特徴的なウイスキーをたくさん熟成して、樽をレベルアップさせていきましょう。
ちょっと違ったフレーバーを取り入れてみたい方は、ウイスキー以外の蒸溜酒もおすすめです。
テキーラやラム、ブランデーなどの香りを付けて、オリジナルフレーバーのウイスキーを造ってみましょう。
その際、熟成させるのは高いアルコール度数の蒸溜酒がおすすめです。ワインや日本酒などの醸造酒は、樽が腐敗する恐れがるのでNG。
“ミニ樽熟成”を楽しもう
樽熟成は、すぐできるものではなく長い時間を必要とします。忘れてしまったり、興味を失ってしまうこともあり、そうなるとおいしいウイスキーを熟成させることは難しいでしょう。
ですから、ミニ樽熟成を使う際は楽しんで熟成しましょう。
具体的には、人と共有することがおすすめです。
SNSで定期的に呟いたり、写真をアップしたりして経過をフォロワーや友人にお知らせしましょう。
ウイスキー仲間で1つの樽を用意してわいわいやりながら見守るも良し、です。
ウイスキーの父、『マッサン』で有名な竹鶴政孝が、当時日本でまったく飲まれていなかった熟成ウイスキーを造れたことも、ウイスキー造りそのものを楽しんでいたからと言われています。
造ってすぐ販売できるわけではないウイスキーは、資金を得るまで5年や10年といった長い期間を要します。
しかもウイスキーが売れるのかどうかも分からない時代。その期間は、不安で苦しい期間だったでしょう。
しかし、竹鶴政孝は多くの人たちの協力を得て、酒税法改正にまでこぎつけ、熱意をもってウイスキーを世に広めていきました。
彼はウイスキーが本当はおいしいもの、楽しいものであることを知っていたからこそウイスキーを造り続けていたのです。
熟成は根気が必要です。
ミニ樽でも、少なくとも数週間から数か月は熟成させないとおいしいウイスキーにはならないでしょう。
なので、ぜひとも楽しみながら熟成することをおすすめします。
熟成のメカニズムを知っておこう
ウイスキーを樽で貯蔵しておくこと(aging・エージング)でどういう変化が生まれているのか。「熟成」のメカニズムを知ることで、おいしいウイスキー造りの試行錯誤の幅がさらに広がるでしょう。
樽熟成をすることで発生するのは、大まかに言って4つの反応と言われています。
・蒸散……アルコール(エタノール)を主とした未成熟感を感じさせる不要な成分が樽の外へ揮発し、まろやかさに富んだ成分が樽内に残ること。熟成を開始した初年度が、もっとも多く蒸散し、エンジェルズシェアとして樽の外へと消えていく。湿度・温度変化と密接な関係にある。
・樽成分の溶出……樽材がウイスキーに触れて溶け出し、混ざり合うこと。ウイスキーの色味はこの樽成分から出ており、チャーリングとも大きな関係にある。新しい樽であればあるほど、樽成分の溶出は多く、色味や樽香が付きやすい。また精油成分(エッセンシャルオイル)も樽香が由来となる。
・化学反応……酸化、アセタール化、エステル化といった反応が熟成によって発生する。ウイスキーの香りと密接なのはエステル化反応。エステル化して作られたエステル成分は、エステリーと呼ばれる花や果実などの高級感のある香味を生み出している。
・状態変化……エタノールと水が長い時間をかけて行う相互作用。エタノールは水と分離して蒸散するものがある一方で、水と混ざり合い刺激的な味わいを抑えるものもある。エタノールと水の微妙なバランスも、ウイスキーの味や香りに大きな影響を与える。
おおまかで良いので上記に書いた「熟成によってなにが起こっているか」を覚えておきましょう。
この知識があることで、ミニ樽熟成されたウイスキーを試飲したときに、「まだ香りが華やかじゃない。エステル化反応が十分じゃないのかな」ということや、「色が付きすぎてしまっている。樽成分が過剰に溶出してしまったのかな」と味わいや見た目から、その原因にたどり着くことができます。
必ず知っておくべきことではありませんが、もし熟成に行き詰ることがあれば、樽の中でなにが起こっているのかを細かく見直しても良いでしょう。
だれでも気軽にできるウイスキー熟成
ミニ樽が簡単に手に入るようになって、どなたでも簡単にウイスキーを熟成させることができるようになりました。
これまではウイスキー熟成というと、しかるべき環境下で、巨大な樽を使い、プロの手による管理を行わなければ不可能でした。
それが自宅やBARでお手軽に造れるようになったのです。
樽熟成の歴史は古く、最初に行われたのは18世紀初頭のスコットランド。
しかも密造から始まったと言われています。英国から莫大な税をかけられたウイスキーを樽の中に隠しておいたところ、熟成がなされたのです。
その密造業者たちは、月夜の下でひっそりとウイスキーを樽に詰めていたことから「ムーン・シャイナー」と呼ばれています。
ぜひミニ樽を使う際は、先人たち「ムーン・シャイナー」気分で熟成を行ってみましょう。
グレートブリテン王国建国時代のロマンをきっと味わえることでしょう。