おすすめの飲み方・飲み進め方
ソフトでスイート、エレガントでいてシャープ、小春日和に紅茶を嗜む紳士のようなウイスキー、それがローランドの巨人グレンキンチーです。
最近、新しい蒸溜所も次々と立ち上がり注目されているローランドモルトですが、このグレンキンチーを飲まずしてこのエリアを語ることはあり得ません。
スムースでオイリーな口当たりからハーブをミックスしたたっぷりのシリアル、控えめだけれどキュッとまとまった味わいは徐々にシナモンやジンジャーのスパイスを運んできます。
完成度の高いウイスキーで、バーテンダーのファンも多いグレンキンチーですが、おすすめの飲み方はストレート、もしくは少量の加水。ディスティラリーエディションはロックもおすすめです。
酒質が軽く、食前酒にしてもおいしく飲めてしまいます。
もし擬人化したらラガヴーリン君の対極にいるような人です。
お疲れの時はグレンキンチーを使って、麦の甘さ感じる優しいハイボールを作るのもよいでしょう。
ダルウィニーとか好きな人はめちゃめちゃ好きだと思います。
ちなみに、カクテルベースとしても優秀で、弊メディアとコーヒーバーガレッジさんとのコラボイベントではグレンキンチーのコーヒーカクテルを提供しました。
グレンキンチーのハーバルさ、麦芽感、そしてコーヒー豆の酸が絡み合い、レモングラスの芳香をまとうスペシャルカクテルでした。
グレンキンチーの発祥と歴史
グレンキンチー蒸溜所はスコットランド首都エジンバラから東に20kmほどのロージアン地方に位置します。
ウイスキー蒸溜所のトレードマークともいえるパコダ屋根も無く、煙突が取り付けられた赤レンガ造りの建物で、蒸溜所だと知らなければ何らかの食品工場と間違えて通り過ぎてしまいそうな、そんな飾り気のない外観をしています。
さらに蒸溜所周辺は牧草地とジャガイモや大麦、小麦畑が広がる穀倉地帯。
この一帯はスコットランドにおける農業の革新地でその昔、ジャガイモやカブの栽培が初めて試行された場所としても知られています。
グレンキンチーは1837年にジョン・レイトとジョージ・レイトのレイト兄弟により建てられた蒸溜所でした。
「グレンキンチー」の名前は蒸溜所の横を流れるキンチー川に由来するといわれていますが、14世紀にこの一帯を領有していたド・クィンシー一族にも関係があるとする説もあります。
ちなみに、1825年に一度ミルトン蒸溜所として創業しており、1837年にグレンキンチーに改称されています。
グレンキンチーを建てたレイト兄弟も農家で、最初は兼業として蒸溜業を営んでいました。
自ら育てた大麦から麦芽を作ってスピリッツを蒸溜し、残った麦芽の絞りカスや蒸溜後の廃液を家畜の餌として与えてきました。
現在、蒸溜所に家畜はいませんが、これを食べて育ったグレンキンチーの家畜、アンガス牛は肉質が柔らかくとても人気があったそうです。
その証明をするように、この肉はロンドンのスミスフィールドやエジンバラの市場で何度も賞を受賞しており、全英チャンピオンの輝かしい功績を収めています。
かつて農地があったグレンキンチーの敷地は約87エーカー(およそ11万坪)に及びました。広大な土地でのびのびと暮らす牛たちが想像できます。
家畜のアンガス牛が高く評価される中、グレンキンチーのウイスキー蒸溜所としての知名度はほぼ皆無でした。
それもそのはず、生産量の殆どをディンプルをはじめとしたブレンデッドウイスキーに提供しておりシングルモルトとして市場に出回っていなかったからです。
しかしグレンキンチーは1939年~1945年の第二次大戦下で操業の停止を強いられなかった数少ない蒸溜所の一つでもあるのです。
1989年に当時蒸溜所オーナーだったUD社(現ディアジオ社)が、クラシックモルトシリーズの1本、ローランドを代表するスコッチウイスキーブランドと宣伝してようやくその名を世界に広めることになりました。
グレンキンチーのウイスキー博物館
グレンキンチー蒸溜所の見どころの一つとして敷地内にあるウイスキー博物館があげられます。
ここには実際の蒸溜所を6分の1サイズに縮小した模型が設置されており、その精巧さは一見の価値があります。
こちらは1968年にフロアモルティングを停止した際に建てられたもので、かつてフロアモルティングに使用していた建物が再利用されています。
新しいビジターセンター
2020年、ディアジオはスコッチ観光業の活性化に1億8500万ポンドの巨額投資を行い、今後様々な多感覚没入型体験をスコットランド中で行うと発表しました。
ディアジオの主力製品である「ジョニーウォーカーブランド」の一角、ローランドを担うグレンキンチーもその恩恵を受け、新たなガーデンビジターアトラクションを2020年10月29日にオープンしました。
このアトラクションは、田園風景を反映した美しい庭園に囲まれ、グレンキンチー蒸留所の伝統的なビクトリア朝の赤レンガの倉庫で没入型のゲスト体験を提供します。
ツアーではグレンキンチーの歴史はもちろん、製造工程、フレーバー作成プロセスなどを体験でき、バーエリアではテイスティングセット、ウイスキーハイボールなど、ツアー後のさまざまなドラムフライトを楽しめます。
グレンチンキーの製法
グレンチンキー最大の特徴は「硬水」を仕込みに使用する点でしょう。
スコットランドの多くのウイスキー蒸溜所では仕込に軟水を使用するのが一般的ですが、これに相反するが如くグレンキンチーでは地元で湧き出る硬水が使われています。
かつては蒸溜所横を流れるキンチー川から直接水を引いていましたが、農業汚染が懸念され現在は近くのラマーミュア丘陵の湧水を井戸から汲み上げ使用しています。
硬水は酵母のアルコール発酵に影響を与えると考えられており、グレンキンチーの軽やかな飲み口や上品な甘みに関係しているといわれています。
1960年代まではフロアモルティングが行われていましたが廃止され、その建物は現在博物館として使われています。
マッシュタン(糖化槽)は有蓋式で1回の仕込みで9.5tの麦芽を使用。
ウォッシュバック(発酵槽)はオレゴン松製のものが6基設置されており、1基あたり約42,000ℓの麦汁が投入されます。
ポットスチルはランタンヘッド型で初溜・再溜の合わせて2基しかありませんが各スチルのサイズは大きく、特に初溜釜は30,963ℓとスコットランド内でも最大級を誇ります。
蒸溜時間は初溜に6時間・再溜に8時間。
スピリッツの年間生産量は175万ℓとなっています。
グレンキンチーの種類/ラインナップ
グレンキンチー 12年
国内で一般的に流通しているグレンキンチーのオフィシャルラインナップはこの12年のみ。
シェリー樽をメインにヴァッティングを行い、造られた12年もののグレンキンチーです。
香りは若草のようにさわやかでフレッシュ。その奥には繊細で複雑なフルーツ&ハーブ香がぎっしりと詰まっています。徐々にホワイトチョコ、柔らかなバニラのアロマ。
口に含むとスムースな口当たりで、つるっと飲めてしまいます。
味わいはホワイトバニラチョコ、焼いたアーモンド、軽く焼いたトースト、うっすらブドウ、干し草、ローズマリーのハーブ感。
全体的に軽やかでドライな印象ですが、主張のある甘みとハーブ感を楽しめる複雑な風味を持つボトルです。
グレンキンチー ディスティラーズ エディション(ダブルマチュアード)
こちらはディアジオ社からリリースされているディスティラリーエディションのひとつ。
ディアジオは「クラシックモルトシリーズ」に属する7蒸溜所の原酒を、様々な個性の樽で後熟し”ディスティラーズエディション”として毎年発売しています。
グレンキンチーのダブルマチュアードには後熟にアモンティリャード・シェリー樽が用いられています。
アモンティリャードとはパロミノ種というぶどうを使用したやや辛口のシェリー酒で、味わい的にフィノとオロロソとの中間のシェリーといわれています。
香りはウッドスパイスの効いたシェリー香、枝付きレーズン、ポン菓子、レモン、洋ナシ、アップルパイのような柑橘系も奥に感じます。
味わいはレーズンやドライプラムの甘み、タルトタタン、クッキー、薄めたカラメルソース、ブドウ、シナモンスパイス。
シェリー由来のフルーティな甘みとスパイシーさがバランス良く同居する1本です。
濃いブラウンカラーラベルのオールドボトルは1986から。まだ通販で購入することができます。
グレンキンチー 10年
こちらは2007年あたりまで流通していた旧ボトル。過去のスタンダードラインです。
現行の12年よりはややワクシーで、薔薇の花のようなフローラルさと品のあるバニラの甘みを楽しめる1本です。
香りは梨のフルーツ感、ほんのりとしたピート、中間に花のフローラルさがあり、後半にかけてはシリアル、そして石鹸、お香のようなオリエンタルなアロマも持っています。
味わいは梨ジュースや青リンゴジュースのようなさわやかな甘み。そしてシトラスやレモンの小さい酸。薄めた加糖のコーヒー、なめし革、後半にカカオのビターも感じられます。
フィニッシュはミディアムロングで味わいから感じるよりも伸びる印象。加水するにつれ柔らかなオリエンタル香が前に出て、甘みも強くなります。
グレンキンチー1990 20年 ディアジオスペシャルリリース
こちらは1990年にアメリカン・オークのリフィル樽に入れ熟成され、2010年にボトリングされた20年もののグレンキンチー。
世界中で6000本未満限定リリース、加水無しカスクストレングスでボトリングされた希少なボトルです。
香りはホワイトカスタードが入ったシュークリームのような優しい甘みとほのかな香ばしさ、洋梨タルト、青りんごにメロン、奥にミント系のハーブも感じます。少しだけ湿った土のような香りも。
口に含むとスムースながらも厚みのあるボディで、味わいは青リンゴ、洋梨のフルーティさ、レモンチーズケーキ、スペアミント、レモンピール、ジンジャーのスパイス感も。
後半はミネラリーで、燃えさしのような優しいピート。そしてレモングラスを彷彿させる独特でクセになる長い余韻。
スムースな飲み口ながらもハーバルで複雑。色々な楽しみ方のできる素晴らしきボトルです。
グレンキンチー 24年 ディアジオスペシャルリリース
こちらは1991年にリフィルのヨーロピアンオーク樽に詰められ24年間熟成した後、カスクストレングスにてボトリングされた珠玉の1本。
ディアジオスペシャルリリース2016にて発表され、世界5,928本の限定販売でした。
ボトル一本一本にシリアルナンバーが記されている希少なボトルです。
香りは華やか。柔らかく熟した洋ナシ、バラのエッセンシャルオイル、メイプルシロップ→全粒粉クッキー。
ハイプルーフからくるであろうドライさもヒリヒリと感じます。
口に含むと厚みのあるボディで、粘性のある口当たり。
味わいは麦芽クッキー、洋梨ジャム、バナナチップス、レモンケーキ、そしてホワイトペッパー。
中盤からは軽く焼いた麦芽のスコーン、ジンジャーシロップ、マンダリンオレンジ、薄めた紅茶(植物の茎と葉のような印象も)。
ミディアムロングの余韻、シンプルですが、ホワイトペッパーや、オーク、木製家具のようなスパイシーさを感じます。
飲みはじめは甘みが広がりますが、後半につれ麦芽の香ばしさやジンジャーのスパイス感が現れ、複雑な風味に変化。カスクストレングスですがアルコールの辛みも少なく、グレンキンチーらしいスムースさを残したボトルと言えます。
そういえば、2020年にディアジオ社がどえらい投資を行って、とんでもないアトラクション施設を作ってしまいました。
グレンキンチーのプロモーション映像にもその施設が少しだけ載っています。
めちゃめちゃかっこよく1分でまとめられているのでサクッとご覧ください↓
ざっくり覚える!
グレンキンチーはスコットランドのローランド地方でつくられているシングルモルトウイスキーです。
もともとローランド地方には
という3つの蒸溜所しか存在しませんでしたが近年では
などなど、次々と新しい蒸溜所がオープンしており、今後が楽しみなエリアでもあります。
1988年に「クラシックモルトシリーズ」の1つとしてリリース。ローランドモルトにしてはしっかり目な味わいを持っており、人気急上昇中のウイスキーです。
巨大なポットスチルを有しており、これはスコッチとしては最大級。
蒸溜所で造られるスピリッツの90%はディンプルやヘイグ、ジョニーウォーカーの原酒として提供されており、原酒の9割近くがこういったブレンデッドスコッチに提供されています。
シングルモルトとしてのリリースは1割程度。年間25万本程度です。