おすすめの飲み方・飲み進め方
ジョニーウォーカー、バランタイン、シーバスリーガル、デュワーズとメジャーブレンデッドに隠れがちなディンプルですが、その特徴的な味わいはウイスキーファンに長く愛されてきました。
「ディンプル好き!」って人あんまり見ないけど、TPOを選ばない、知る人ぞ知る超万能ブレンデッドなのです。
一般的にドマイナーなローランドモルトをブレンドの中核にしているのはディンプルくらいなので、ぜひ飲んでみてほしいです。
ライトボディでスイート。そしてドライ。
まさにメープル仕立てのカフェモカ、クリーミーさとビターな後味は加水でよく伸びます。
おすすめの飲み方は仕事で徹夜明けにストレート。
その他ソーダ割、水割り、お湯割り。
栗饅頭やきんつばなど、和菓子と食べてもおいしいですし、ロックにするとぶり照りや焼き鳥(タレ)と相性抜群です。
グレンキンチー、グレンロッシー、マノックモアといったやや軽快で甘やかなシングルモルトが好きな人の常飲酒といったイメージですね。ハイ、僕もその一人です。
だけど、あれです。持ちやすいとされている「くぼんだボトル」は正直なところそんなに持ちやすくはない。
946mlタイプは重くて、掴みやすいはずのピンチで、逆にピンチになる。
ディンプル(ヘイグ)の発祥と製造場所、歴史の紹介
ディンプルは400年近い歴史を誇る超絶老舗のブレンデッドウイスキーなわけですが、より深く長くディンプルをたどると、1000年以上前「ペイトリュース・デル・ハガ(ペトルス・デ・ハガ)」という1人の男にたどり着きます。
彼こそがヘイグ家の始祖となる男です。
彼はノルマン公ギョーム(後の従服王ウィリアム1世)と共にフランスから渡ってきた貴族で、戦争で立てた功績によりツィードの河畔、ビマーサイドに領地を与えられました。ウィリアム1世の在位が1066年~1087年なので、とんでもなく古いお話なわけですね。
彼の一家は軍神とも呼べる戦争屋で、多くの分家を輩出すると主に、スコットランド史に残る足跡を刻んできました。
対イングランド戦争として史実に名高い「バノックバーン」や「フロッデンの戦い」に参戦。
多大なる功績を挙げ、900年もの間この土地を守ってきた名門一族なのです。
14世紀になるとハガ家は「ヘイグ家」に名を改めます。
ウイスキーの蒸溜は1627年、分家のロバート・ヘイグにより始められました。
彼はスターリングシャーにある自らの農地で大麦を栽培し、それらを手っ取り早く換金する手立てとしてウイスキーの蒸溜を始めました。
「ウイスキー製造は時間がかかるからすぐにお金にはならないでしょ!?」と思う方も多いでしょうが、当時のウイスキーといえばようやく西スコットランドからアイルランドあたりに「アクアヴィテ」というスピリットが輸出されていた頃。
まだ樽熟成の概念はなく、ニシンの燻製や酢漬けと共に販売されている頃です。
1644年にスピリットに課税される前なんでやりたい放題だったと思います。
ロバートは勉強家で、副業的に行う蒸溜では満足せず、当時最新の蒸溜技術を学ぶためならオランダにまで足を運んだりしました。
相当のめり込む性格だったようで、ウイスキーづくりに没頭しすぎて安息日(日曜日)に蒸溜所を動かし、教会と揉め事を起こしたこともあるのだとか…笑
ウイスキーづくりへの情熱はロバートの子供達にも受け継がれます。
18世期になるとローランド地方を中心に数カ所の蒸溜所を経営するようになり、当時ハイランドで盛んだったウイスキー密造業者たちと凌ぎを削るようになります。
ロバートから数えて5代目のジェームズ・ヘイグは1782年、エジンバラのキャノンミルズに当時最大級の蒸溜所を設立(1790年にジェームズ・スタインが買収、ヘイグ家はエジンバラのロッホリン蒸溜所で事業継続)。
ヘイグ家はさらに力をつけていきます。
その後、さらにヘイグ家の名を不動のものにしたのが、ジェームズの甥にあたる人物「ジョン・ヘイグ」でした。
彼は1824年にエジンバラの対岸、ファイフ地方を流れるリーブン川のほとりにキャメロンブリッジ蒸溜所を創業。
キャメロンブリッジ蒸溜所には当時最新式の連続式蒸溜機が取り付けられており、圧倒的なグレーンウイスキーの生産能力を誇りました。
この蒸溜機を開発したのはウイスキーマニアには有名なロバート・スタインという人物。
なんと彼はジョンの娘マーガレットと義兄弟にあたる人物で、ヘイグ家とは親戚関係にあったそうです。
その縁もあり、キャメロンブリッジにロバートの連続式蒸溜機が取り付けられたというわけです。
ジョン・ヘイグのビジネスは大成功、売り上げは爆発的に拡大し、ヘイグ家の名をスコットランド中に広めました。
グレーンウイスキーが誕生したことによりブレンデッドウイスキーが世間の注目を集め出します。
ヘイグ家は早い段階で原酒のブレンド事業に積極的に取り組み、1880年には早々にブレンデッドウイスキーを誕生させています。
このときの代表作が「ディンプル」でした。
ディンプルは発売当初から市場で高く評価され、1882年には輸出業務を専門に行う「ヘイグ&ヘイグ社」を創立。世界的な拡大を目指します。
1906年に英国上院御用達のウイスキー商に選ばれ、1907年にはエドワード7世、1912年にはジョージ5世のロイヤル・ワラントを授かりました。
そしてディンプルは現代に至るまで約140年もの間販売され続ける超ロングセラー商品となったのです。
振り返ればヘイグ家は、英国の歴史とともに歩んできた名家。まさに「ヘイグ家を知らずしてウイスキーを語るなかれ」ですね!
ちなみにジョン・ヘイグは、グレーン蒸留所の乱立による過剰供給を見据え、ディスティラーズ・カンパニー・リミテッド(DCL)を発足させたひとりとしても知られています。これは後のディアジオ社です。
ディンプル(ヘイグ)の製法
現在出回っているディンプルは12年ものが主流ですが、発売当初は15年ものが主力として売り出されていました。
今でこそ長熟のウイスキーが当たり前にリリースされるようになりましたが、ディンプルがリリースされた1880年代当時は、「15年」という熟成期間を設けたウイスキーは相当珍しいものでした。
またキーモルトにローランドの「グレンチンキー」を使用しているのも特徴的です。
グレンチンキーは1837年に開業した老舗の蒸溜所で、UD社がリリースした「クラシックモルトシリーズ」の一つにも選ばれている人気の高いブランドではありますが、このグレンチンキーをキーモルトに使用しているブレンデッドは非常に珍しく、それこそ今も昔もディンプルを除いて他に無いような現状です。
軽やかでスパイシーな味わい、バランスが良く飲みやすい風味のグレンチンキーはアイラモルトのような尖った個性は感じられません。
ブレンデッドの核にはなかなか選ばれにくい原酒となりますが、このグレンチンキーをメインにもってくるあたりがヘイグ家のこだわりとブレンド技術の高さを感じさせます。
ディンプル最大の特徴ともいえる上から見ると三角形をしたえくぼのような凹みを持つボトルはジョンの5男であるジョージ・オグルヴィ・ヘイグ氏により発案され、1893年にリリースされたディンプルのデラックスブレンドが発売される際に取り入れられました。
ちなみにこのボトルデザイン、1958年(昭和33年)にアメリカで特許も取得しています。
またボトルを覆うように張り巡らせてある金属ネットもディンプルの特徴的なポイントで、これは輸送中にコルクが抜けないよう取り付けられたもの。
時代を経て現行のディンプルはコルクからスクリューキャップへと変わりましたが、それでも伝統として金属ネットは取り付けられたまま販売されています。
ディンプル(ヘイグ)のラインナップ
ディンプル 12年
現在のディンプルは12年がスタンダード品です。
三角形のボトルには例のえくぼの凹みがあり、鉄線もしっかりと巻き付けられています。
写真だとやや派手に見えますが、実物はスタイリッシュ。あまり古さを感じさせないパッケージです。
香りはビターチョコの甘苦さ、あまり酸のない、焼いたオレンジの甘味とフルーツ感、蜂蜜、シナモンスパイス。
口に含むと、麦汁の甘さが広まり、とてもモルティ。後からシナモン、クローブなどのスパイス感、ドライフルーツの濃厚な甘味。やや土っぽいピーティーな印象があり、カラメルとオーク材のビターなフィニッシュに続きます。
加水してもよく伸び、ハイボールにするとソフトで、爽やか、スイスイ飲めてしまいます。
ディンプル 15年
こちらは15年もののディンプル。
ディンプル12年のワンランク上のラインナップです。
グレンキンチーとリンクウッド、さらにはグレンロッシーやマノックモアを主にブレンドしており、12年と比較すると風味全体が深みを増し、1ランク上の風味をしっかりと表現している1本。
香りは、杏やカリンなどのフルーティさと樽由来のウッディネス、奥にわずかなスモーキーさを伴います。
口に含むと滑らかな口当たりでベイクドオレンジの甘味、ビターチョコのほろ苦さ、ずっしりとした穀物感があります。
後半にやはり若干のスモーキーさ、そして干し草のどこか懐かしいフレーバーが鼻腔に残ります。
19世紀後半に発売された元祖ディンプルは15年ものが主流だったということで、当初の味わいを連想しながら飲むのもまた一興です。
まだ通販サイトやオークションでも流通していますが、すでに終売しているので市場にあるうちに味わっておきましょう。
ディンプル ゴールデンセレクション
ゴールデンセレクションはヘイグ・クラブのマスターブレンダー、クリス・クラーク氏によって、選び抜かれた30種類のグレーン・モルト原酒を使用して作られた限定品。
ノンエイジですが、ディンプル15年の後継品ということになりそうですね。
香りはバニラ、ドライレーズン、レーズン、杏、少々エステリー。後半にはカカオと、葉巻。
味わいは柔らかく、ディンプルらしい麦の甘みがメイン。
レーズンとみずみずしいオレンジ、カフェモカ、そして後半にシナモンのスパイシーさを感じます。余韻はやや短い印象です。
よりグレンキンチーの特徴に近づいたライト~ミディアムボディ。
15年に感じられたスモーキーさが消え、すっきりした甘味とスパイシーさが強調されました。
ディンプル ロイヤルデキャンタ
物々しい鎧のような装飾に包まれたディンプル。
1984年(昭和59年)に限定リリースされ輸入販売されたボトルです。
オランダの錫(すず)製品メーカー「ダアールドロップ社」とヘイグ社が協業して作ったボトルで、底面には「ROYAL HOLLAND PEWTER DAALDEROP」と描かれています。
熟成年数は恐らく12年、通常のスタンダードと同じです。
80年代の古き良きオールドボトルといった体で、ディンプルらしい麦芽感、甘いコクと、スパイシーなシナモン。キャラメルと干し草の味わいです。
ダアールドロップ社は数々の精巧な造形美が評価され、オランダの女王から「ローヤル」の称号を与えられたメーカーでもあります。
ちなみに似た商品で「Royal Sovereign」という錫フレームのディンプルも存在します。
こちらも80年代にリリースされ、21年熟成した希少品。
ディンプル オールドボトル(ヘイグ&ヘイグ/ピンチ/ディンプル)
たくさんのディンプルオールドボトルです。
上記を見ておわかりの通り、似た形状でたくさんタイプが出ていて、とてもややこしいです。
1950代には「HAIG’S」とプリントされたものもあったかと思います。
日本で販売されたのは1975年くらいからだと思います。当初は「PINCH」の名称で、沖縄の免税店あたりでは手に入りやすかったとか。
ヘイグは1882年には輸出業務を専門に行う「ヘイグ&ヘイグ社」を創立し、ディンプルを発売するのですが、アメリカ向け輸出専用ブランドは「ピンチ」として販売されたので、日本にある米軍基地周りではよく売っていたようです。
1979年には「Dimple」表記に統一されます。
オールドボトルとして希少なのはいわゆる「ティンキャップ」製品で、1960年代のものが多いかと思います。
オークションなどでも高値で取引されています。
バーなどで見かけたらぜひご賞味あれ。
そういえばヘイグ社はサッカープレイヤー「デイビッド・ベッカム」と「ヘイグ・クラブ」なるシングルグレーンウイスキーも出していましたね。
ビギナー層、エントリー層を狙ったわかりやすい味わいと、わかりやすくかっこいいボトル
ご興味ある方はぜひどうぞ。
ざっくり覚える!
ディンプルは16世期前半から販売されている長い歴史を持つブレンデッドスコッチウイスキー。
キーモルトはローランドのグレンチンキーやスペイサイドのグレンロッシー。
ディンプルのあっさりとした飲み口と、それに重なるスパイシーさはこれらの原酒の影響が大きいといわれています。
味わいもさることながら、ディンプルの魅力はそのユニークな形のボトルにあります。
上から見ると曲線を帯びた三角形をしたこのボトル。
中央にはえくぼのような凹みがついており、ここを掴むととても持ちやすく、注ぎやすいつくりとなっています。
ディンプルとは「えくぼ(小さなくぼみ)」のこと。
アメリカではこの凹んだ部分をその掴みやすさから「ピンチ(つねる、つまむ、はさむ)」と呼びました。
そのためディンプルはアメリカで「ピンチ」というブランド名で売り出され、かつて日本で流通していた時も「ピンチ」という名称が一般的でした。
さらにもうひとつ。ディンプルはボトル全体が金色の金属ネットで覆われています。
これは輸送中にコルク栓が抜けないための配慮だったそうで、今もなおその形状は維持されています。