アマハガン(AMAHAGAN)の概要
アマハガンは滋賀県にある長濱蒸溜所でつくられているワールドブレンデッドモルトウイスキーです。
長濱蒸溜所は滋賀県長浜市にある、長濱浪漫ビールに併設されるかたちで運営を行っています。
創業2016年の出来て間もない小さな蒸溜所ですが、そのテイストは本格派。新進気鋭の蒸溜所です。
スコットランド直系の本格的なウイスキーづくりを行なっており、質の高いスピリッツを精製し、海外のモルトウイスキーとブレンド(ヴァッティング)し、生産しています。
【掲載写真は長濱蒸溜所様から転載許可をいただいております】
アマハガン(AMAHAGAN)の発祥と製造場所、歴史の紹介
アマハガンがつくられている長濱蒸溜所は琵琶湖の北東部にある滋賀県長浜市に位置します。
ここは北国街道の宿場町として栄えた場所で、その昔まだ羽柴を名乗っていた豊臣秀吉が建てた長浜城があることで知られる街。
秀吉がこの長浜城を守り、北国へ睨みを効かせていた頃にかの石田三成と出会ったそうで、長浜駅前には2人の出会いを再現した銅像が建てられています。
この駅から徒歩5〜6分の場所に長濱浪漫ビールの醸造所(兼レストラン)はあります。
ここは1996年創業で、開店20周年を記念して始めた新事業がクラフトウイスキーづくりでした。
もともと小規模なビール醸造所でしたが、そこへ小型のポットスチルを導入し蒸溜も行っているため、日本で最小規模のウイスキー蒸溜所です。
ウイスキーづくりの糖化や発酵といった工程は、元からあった醸造所と兼用しています。
なのでコンパクトな蒸溜設備で設計が可能なわけですね。
蒸溜はレストランのバーカウンター背後にあるスチルルームで行われており、2つの部屋はガラス製の壁で仕切られているためレストランの利用者は蒸溜所内を眺めることができます。
地元の美味しい料理を楽しみながらウイスキーづくりを目の当たりにする…ウイスキーファンにとってこの上ない幸せですね!
スコットランド新鋭の蒸溜所にインスピレーションを受けて創られた蒸溜所
見た目では判断しづらいかもしれませんが、長濱蒸溜のモデルとなったのはスコットランドの蒸溜所でした。
スコットランドの伝統的な蒸溜所ではなく、「ニューウェーブ」と呼ばれる小型蒸溜所からヒントを得て設立されました。
2015年の暮れに長濱醸造所のスタッフがスコットランドへ行き新しい蒸溜所をいくつか廻ったとき、ストラスアーンやエデンミルという蒸溜所から強いインスピレーションを受けたといいます。
まずストラスアーンは2013年10月にオープンした蒸溜所で、当時スコットランドで最も小規模なウイスキー蒸溜所といわれていました。
使用しているポットスチルは1,000ℓと500ℓの小型なもので、ウイスキー蒸溜所で一般的に使われているものではありませんでした。これらはアランビック型と呼ばれるヘッドが取り付けられており、カルヴァドスやコニャック、ピスコなどをつくる際に活躍するスチルだったのです。
いずれもポルトガルのホヤ社製で、世界中にある小型のクラフト蒸溜所、現在では特にアメリカの蒸溜所でよく使用されているタイプだといいます。
スコットランドを代表するスチルメーカー「フォーサイス社」ですと、オーダーしてから順番待ちして設置までに3年ほどかかるのに対し、ホヤ社はこれを数ヶ月で設置までやってのけるフットワークの軽さがありました。
ストラスアーン蒸溜所がやってのけた「超短期間設立」は当時ビール醸造所だった「エデンミル」のスタッフにも大きな衝撃を与えたと言います。
そしてエデンミルもそれを参考に、ホヤ社に同じ小型のタイプのスチルを注文し、一年以内にウイスキー蒸溜を開始。
このことでエデンミルはスコットランドで初めてビール醸造所とウイスキー蒸溜所を結合した工場となりました。
ビール工場〜ウイスキー蒸溜所という転身は史実上よくあることですが、ビールとウイスキー同時に製造する工場は確かに聞いたことがありません。
エデンミルと長濱ビール工場を想い重ねたスタッフ達は、自社工場をウイスキー蒸溜所へと発展させる確信的イメージを持ったといいます。
そして長濱蒸溜所も同じホヤ社にポットスチルをオーダーし、蒸溜所設立を計画してから約7ヶ月という異例の早さでオープンに至りました。
アマハガン(AMAHAGAN)の製法
長濱蒸溜所で使用されている麦芽は英国産のヘビリーピート(40ppm)などが使われています。
※現在は試験的に滋賀県産大麦麦芽と六条大麦を使ったテスト仕込みなども行っています。
また大量のノンピート麦芽の中に少量のヘビリーピート麦芽を混ぜ、ライトリーピーテッド麦芽として使用することもあります(ちなみに蒸溜所で初めてつくられたものも、このライトリーピーテッドタイプでした)。
稀にですが、黒ビール用の焙煎麦芽(ブラックモルト)でも仕込むことがあるそうです。
現在はノンピート麦芽の生産シーズンの後に、ピーテッドの生産シーズンを入れるように生産サイクルを組んでいます。ちなみにみに現在1週間で20回前後ものウイスキーの仕込みが行われるのに対し、ビールの仕込みは3〜4回行われます。
この仕込み回数からもウイスキーづくりへの意気込みが感じられますね!
仕込み水は、標高1377メートルを誇る伊吹山の雪解け水を使用。室町時代には織田信長により野草園が造られるなど、国内でも有数の「植物の聖地」として知られた地です。
糖化槽と発酵槽は長濱浪漫ビールでも使われているものを兼用しており、糖化槽にはステンレス製のマッシュタンとロイタータンを使用。1度の仕込みに400kgの麦芽を使用し、1,900ℓの麦汁を精製します。
発酵槽は2階にありステンレス製で2,000ℓのものが6基ありますが、その内2基はビール専用に使われているためウイスキーには4基が使われます。
発酵槽に麦汁が運ばれると、そこにディスティラーズ酵母が加えられ約72時間かけて発酵が行われます。
出来上がったモロミはスチルハウスへ運ばれますが、この移送はスタッフが発酵槽の下の部分にホースを取り付け1階の初溜釜へと移し替えられます。
また発酵槽に残ったドラフ(麦芽のカス)を取り除く作業も全て手作業で行われます。
このように長濱蒸溜所では全ての作業を機械化せず、手作業で行うようにしています。
取り除いたドラフは地域の農家に回収され、そこで育った野菜が収穫されて、レストランで提供されます。素晴らしき循環です。
ポットスチルは初溜釜(1kℓ)が2基、再溜釜(1kℓ)が1基の計3基。
こちらはストラスアーンと同じアランビック型のもので還流を起こりやすいよう長めのネックが取り付けられています。
これにより軽やかでクリーンなスピリッツが得られると考えられています。
創業当初は
- 1000ℓの初溜釜が1基
- 500ℓの再溜釜が1基(計2基)
でしたが、2018年に現在の容量の3基へと拡張されました。
モロミは2つの初溜釜に800ℓずつ入れられ蒸溜が行われます。
最初に造られたスピリッツはミズナラのホグスヘッドに詰められましたが、通常使用される樽はアメリカから買い付けたバーボン樽となります。他にもシェリー樽(リアルシェリー樽含む)やホワイトオーク樽の他、一部ワインの樽なども使用しています。
最初に造られた数樽は蒸溜所内で保管していますが、その他は同じ長浜市内にある別の貯蔵庫にて熟成を行っています。琵琶湖のほとりにある蒸溜所のため、非常に水量が多く、寒暖差がやわらぎ、熟成に適した環境とのこと。
今後どのようなウイスキーが出来上がるか楽しみな蒸溜所です。
アマハガン(AMAHAGAN)のラインナップ
アマハガン ワールドモルト Edition No.1
アマハガンシリーズの中のフラッグシップボトル。
海外のモルト原酒をベースに、長濱蒸溜所のモルトをヴァッティングして造られています。
モルティな風味力強く楽しめるようアルコール度数47度に調整し、ボトリング。
香りはカカオとバニラウエハース、ポン菓子などの香ばしさと甘やかさ。中盤にはレモンやグレープフルーツなどの柑橘、そして柔らかなオーク家具と後半にスパイシーさも感じられます。
味わいは麦芽クッキー、バニラビーンズ、カカオの効いたビターチョコ。砂糖漬けのレモン。ベイクドオレンジ、カスタードクリーム、タバコの葉、後半はスパイシーさとわずかなピーティーさがが現れ、甘いだけでは無い複雑さを演出します。
使用原酒は若いものの、アルコールのトゲトゲしさを感じさせない柔らかな味わいで、絶妙なバランス感覚を誇ります。
アマハガン ワールドモルト Edition No.2 レッドワインウッドフィニッシュ
こちらはアマハガンEdition No.1をベースに、赤ワイン樽にて後熟を行い仕上げたボトル。
香りは赤ワイン由来のレーズンやベリーなど酸味を帯びたフルーティさとウエハースのモルティな香ばしさと甘やかさ、ビターチョコ、オレンジピール様の柑橘系のそれも感じ取れます。
味わいはビターチョコで包んだオレンジピール、麦芽の効いたウエハース、モンブランのようなコクのある甘さ、後半に渋みを伴い長い余韻へと続きます。
加水すると甘みが引っ込みビターが前に出てきます。
飲み方を変えながら変化を楽しむことができる1本です。
アマハガン ワールドモルト Edition No.3 ミズナラウッドフィニッシュ
こちらもアマハガンEdition No.1をベースに、ミズナラ樽に入れ後熟し仕上げた1本。
ジャパニーズオークとも呼ばれるミズナラ樽特有のお香のようなオリエンタルな風味を堪能できる1本です。
香りは甘やかな麦芽のジュース、干草、オレンジピール、ビターチョコなどの甘みとビター、シナモンのスパイシーさ、奥からはミズナラ樽からくるお香のニュアンスも感じます。
味わいは甘みがメインでベイクドオレンジ、リンゴのコンポート、チョコチップクッキー、カカオのビター、後半に香りでも確認できたお香の甘みがふわりと漂い余韻へと続きます。
まさしく英と和のコラボレーション。
じっくりと時間をかけて楽しめる複雑な味わいのボトルです。
アマハガン ワールドモルト Edition 山桜ウッドフィニッシュ
こちらもアマハガンEdition No.1をベースに、日本原産山桜の木材を使って造られた樽で約4ヶ月後熟を行い仕上げたボトルとなります。
香りは山桜由来の桜餅のような和を感じさせるフレーバー、梅、桜の葉などにプラスしてアマハガン特有のオレンジピールやモルティなウエハースの香ばしさを感じます。
味わいも桜餅の風味が押し寄せ、梅のガム、酸味のあるベリージャム、ベイクドオレンジ、黒糖かりんとう、後半には渋みを伴う紅茶のようなニュアンスも感じられます。
山桜の風味が前面に出ていますが、アマハガンの風味と絶妙なバランスで調和がとれており、他にも様々な風味が感じられる複雑な風味を持つボトルです。
ロックやハーフロックでもおいしくいただけます。
アマハガン(AMAHAGAN)のおすすめの飲み方
リリース当初、どういう名前!?と思ったものです。「長濱(NAGAHAMA)」を逆さに読んだらアマハガン。
2020年のワールドウイスキーアワードのジャパニーズブレンデッドモルト部門で部門最高賞にも輝いており、その完成度の高さは海外でも認められています。
将来のシングルモルトのリリースに向け、ウイスキー造りにとって最も重要な工程の一つである「ブレンド」の経験を積むために作り出したシリーズだそうですが、一発目から非常に完成度が高いと思いました。
基本的には軽快でフレッシュな風味がベースにあり、素朴で麦の甘さを感じさせる嫌みのないキャラクター。オーキーでフルーティ。そしてわずかなスモーキーさ。47度というアルコール度数も納得の「愛好家に焦点を当てたウイスキー」です。
ストレートはもちろん、ロック、ハイボールでもおいしい。
このNo.1をベースに、様々な樽で後熟させ、第二弾、第三弾、そして第四弾とリリースしています。
ベースとなるNo.1がプレーンでありながらミディアムなボディを持っているので、どのエディションでもそれぞれ樽の特徴がよく出ていました。
特に山桜は面白い試みだったと思います。
和菓子(桜餅)のような甘さを感じさせる強烈な個性がありました。
こういったベースウイスキーを大量に仕込み、カスクフィニッシュを加え連続でリリースする手法をクラフト蒸溜所は多くとっています。
生産量が限られていますし、ウェアハウスにも限界があるので、うまく樽を使いながら商品点数を増やしブランディングしていくわけですね。
積極的に蒸溜所体験ツアーなども行っている長濱蒸溜所。
2021年3月には三郎丸蒸留所とコラボレーションした「INAZUMA ブレンデッドモルト」を販売します。
日本において、クラフトウイスキー蒸留所同士の原酒交換による製品化は初めての試みだそうで、期待が高まりますね。