ウイスキー「あかし」の概要
あかしは兵庫県の明石市にて作られるジャパニーズウイスキーです。
家庭用に飲みやすいブレンデッドウイスキーをつくっていますが、シングルモルトもリリースしており、シングルモルトに関しては愛好家からも注目されています。
シンプルで丸い500ml入りの薬瓶にボトリングされており、ブレンデッド「あかしレッド」に関してはスーパーやコンビニなどでも目にすることができる馴染みあるボトルとなりつつあります。
歴史の深い蒸溜所で長きにわたり兵庫県明石の地酒ならぬ「地ウイスキー」として細々と作られてきましたが、2007年に発売した「あかしシングルモルト8年」を皮切りに世界から注目を集めるようになりました。
あかし発祥と製造場所の紹介
あかしが作られているのは兵庫県の江井ヶ嶋にあるホワイトオーク蒸溜所。
国内において最も海に近い蒸溜所として知られています。
ロケーションは最高。
小さな漁村である江井ヶ嶋は1年を通して心地よい気候にあり、内海の明石海峡のすぐそばで、温暖な海洋性の気候の恩恵を受けています。
ホワイトオーク蒸溜所は明石の「銘酒」として有名な、江井ヶ嶋酒造の敷地内に建てられています。
ホワイトオーク蒸溜所はウイスキー蒸溜所ですが年間を通してウイスキーを製造している訳ではありません。
気温の低い11月〜3月にかけては本業の日本酒が作られます。
ウイスキーは時期をずらして3月末〜11月上旬にかけて作るといういわゆる二毛作の蒸溜所というわけです。
また8月まるまる運転を休止するため、ウイスキーが作られている期間はおおよそ半年程度といったところ。
以前は4〜5月の春先にかけて麦焼酎が作られていましたが、ここ近年のウイスキーブームで需要が拡張したため、現在は焼酎の製造は中止されウイスキー製造に注力されています。
ウイスキー製造量は年々増加し2017年では4ヶ月で110トン、2018年では6ヶ月で160トンの原酒が作られています。
あかしの歴史
あかしを製造している江井ヶ嶋蒸溜所が創立されたのは1888年。
1919年にはウイスキーとワインの製造免許を取得しています。
日本で初めてウイスキーの蒸溜が行われたのは1923年山崎蒸溜所ですが、日本で初めてウイスキー蒸溜の特許を取得したのは1919年ホワイトオーク蒸溜所でした。
1919年といえばジャパニーズウイスキーの父、竹鶴政孝氏がスコットランドへウイスキー蒸溜を学びに行っていた時期…。
そんな早い段階でホワイトオーク蒸溜所が存在したことに驚かされます。
しかし特許は取得したものの、正しいウイスキー造りの製法は伝わってきていなかったため、当時作られていたのはウイスキーを模倣したイミテーション・ウイスキーだったといわれています。
高度経済成長期を経てウイスキーの需要が拡張していく中、1984年に生産拡大を目指し、ホワイトオーク蒸溜所が建てられます。
しかしその直後、日本国内における酒税法が改正され2級酒の値段が上がり、ホワイトオーク蒸溜所の主力商品が全く売れなくなってしまいました。
それ以降の20年間、ホワイトオーク蒸溜所は「冬の時代」を迎えることとなります。
江井ヶ嶋酒造では日本酒や焼酎が生産されていたので、なんとか蒸溜所が閉鎖に追い込まれることだけは免れました。
その間の運転はまさに細々といった感じで、在庫や樽の管理も少々ずさんになってしまいます。
2007年に初めて8年もののシングルモルトをリリースします。名前は「あかし」。シンプルなラベルをつけた薬瓶のような500mlのボトルに詰められ、大手コンビニチェーンを中心とした一般とは異なるルートで販売されました。飲んだ方の評価は高かったものの、初期リリース分がすべて売れるまで2年以上かかったとか。
2010年頃に8年ものの提供が難しくなってきたので、ラインナップに変化を持たせます。
スタンダードの5年ものと、プレミアムな12年もの(限定2000本)のリリースによりホワイトオーク蒸溜所に春の時代が到来します。
これらのボトルは国内はもちろん海外からも高い評価を受け、シングルモルトとしての価値は右肩上がりとなります。
しかし、2012年8月原酒の生産量が追いつかず、5年ものをフラッグシップのモルトにすることをあきらめ、熟成年数を記載しないノンエイジのボトルに切り替えました。
現在もリリースを待ちわびるかのように熟成庫の樽の中で眠っている原酒が多く存在します。
ホワイトオーク蒸溜所は多くの需要に応えるべく年々原酒の生産量を増やし、近年では施設の増築なども考えています。
原酒が安定供給されるのが待たれますね。
またそれまで日本酒や焼酎を扱ってきた江井ヶ嶋酒造ですが、現在はウイスキーを主力商品へと変えるよう方針を検討しているようです。
あかしの製法(作り方)
原料となる麦芽は全て英国産のものを輸入・使用しています。
以前はフェノール値5ppm程度のライトリーピーテッドのものを使用していましたが2014年にピーティングレベルが引き上げられ現在は10ppm程度のものを使用しています。
使用しているマッシュタンはセミロイタータン式、ステンレス製のものを使用。
ポットスチルは三宅製作所製、初溜用が1基、再溜用が1基の計2基、いずれも下向きのラインアームが付いたものを使用しています。
このポットスチルは奈良にあったシルバーウイスキー蒸溜所の上部が使われています。
また蒸溜を江井ヶ嶋酒造の杜氏(とうじ)が行う点が、酒造ならではのポイント。
そのため酵母を酒母タンクで培養する「酵母だて」を取り入れるなどして酒造りで培ったノウハウが活かされています。
使われる酵母はスタンダードな1種類の酵母のみを使用。
サントリーやニッカなど大手メーカーが手がける蒸溜所では様々な酵母を使い分けし、原酒に様々な個性を宿すのが一般的です。
しかしホワイトオーク蒸溜所はブレずに1つの酵母のみを使用し続けています。
このこだわりがあかしの香り・味わいに大きく影響していると考えられます。
仕込みに使用される水は蒸溜所敷地内にある井戸水を使用。
これと同じ水を使い日本酒も仕込まれるため、水質における信用は高いといえるでしょう。
発酵時間はスタッフが休みとなる週末を軸に3〜4日設けられます。
発酵の段階で乳酸菌の活動を活発にさせるため、発酵時間は比較的長めにとられています。
これによりボディに厚みがあり香り豊かなもろみができ上がるといわれています。
熟成に使われる樽は半数がバーボン樽。
残りがシェリー樽とリチャーした焼酎の熟成に使われたオーク樽が使われます。
リフィルの焼酎樽の場合、シェリー酒やブランデーを熟成させた樽で後熟されることもあるようです。
焼酎樽からのシェリー樽やブランデー樽…なんとも独創的発想ですね!
また少数ですがバージン・オーク樽、ミズナラ亜種のコナラ樽、テキーラ樽、日本酒に使っていた樽もあり、用途によって使い分けて熟成、リリースしています。
後述しますが日本酒樽熟成のウイスキーはとても個性的でおいしかったですよ。
ウイスキー「あかし」のラインナップ
あかしレッド
コンビニやスーパーなどでもよく見かけるボトルで、グレーンを使用したブレンデッドウイスキーとなります。
原酒は3年程度のものを使っているようです。
香りは軽く焦がしたパン、カカオ。加水するとビターオレンジの香りと酸味が開きます。
味わいはドライで端麗。控えめな甘みとビター、短めですがしっかりとした余韻を楽しめる、お値段以上の価値のあるボトルです。
地ウイスキーあかし
こちらは「あかしレッド」の上位種にあたるボトル。
あかしレッドで感じたラムレーズンやカカオが濃縮され、酸味がやや感じられる印象です。
甘みも増して、加水しながら変化の過程を楽しむこともできます。
レッドのドライな印象とは異なり丸みを帯びた甘みを楽しめる上品な味わい、香りを楽しめます。
シングルモルトあかし
バーボン樽とシェリー樽で熟成されたボトル。
熟成年数が記載されないノンエイジとなります。
ノンエイジなのでアルコールが多少たっていますが、モルトの香りとしっかりした樽香を楽しめるコスパの高いボトルとなります。
香りはバニラ、シェリー樽由来のプラムやドライフルーツ、ラズベリー、ローズ。
味わいはビターチョコ、プラムのような黒い果実、そして爽やかさを感じます。
スペイサイドやハイランドモルトのような華やかさもあります。
あかしシングルモルト8年 シェリーバット
こちらはスパニッシュオークのシェリー樽で8年以上熟成させた原酒を使用したボトル。
ホワイトオーク蒸溜所を世界のステージへと導いた起死回生のボトルです。
香りは青リンゴの酸味、トーストの香ばしさ、カカオのビターさを伴い、プラムやジャムがうっすらと。
味わいは控えめな甘みとカカオのビター、後半にスパイシーさを感じます。
ほのかなヨード感、松ヤニのようなエステリーも奥に潜み複雑な味わいを楽しめます。
あかしシングルモルト10年 シェリーバット
オールドシェリーバットという表記の10年もの。
使用しているのはスパニッシュオークのブランデー樽のリフィルカスクとのこと。
アルコール度数が60度とかなり高いので、ハイトーンな刺激があります。
特徴的なカカオのビターさ、木樽由来の甘いシロップのような香り。
味わいはキャラメル、カカオ、ダークチョコレート、少しのゴム。
余韻はかなり長く、少し植物の青臭さを伴ったハーバルな印象もあります。
シングルモルトあかしバーボンバレル5年1st fill
こちらはファーストフィルのバーボン樽で5年以上熟成させた原酒を使用したボトルです。
ファーストフィルということで当然バーボンの影響が強く現れます。
色合いは黄色みがかったゴールド、香りはエステリーでバニラを強く感じます。ダーケストオレンジのようなビターな柑橘。
味わいはビターですがしっかりとした甘みも感じ、余韻に長めのバニラを堪能できます。
シングルモルトあかし14年
こちらは英国産麦芽を100%使用して造られた原酒をまずシェリー樽で12年半熟成。
その後山梨ワイナリーで使用した白ワイン樽で1年半後熟させて作られたボトルです。
シェリーの甘みやスパイシーさ、そして白ワインのフルーティさやドライを味わえます。
加水せずボトリングされたカスクストレングスタイプ。
香りはプラム、レーズン、カシス、ゼラニウム、微かに青リンゴ。
味わいはドライな甘み、乾燥したアプリコット、プルーン、そしてアーモンドナッツの芳ばしさ。
余韻はシェリーや白ワインを連想させる芳醇な樽香を楽しめます。
シングルモルトあかし15年
英国産麦芽を100%使用して造られた原酒をまずスパニッシュオークシェリー樽で12年半熟成。その後コナラ樽(ジャパニーズオーク樽)にて2年半後熟して造られたボトル。
粘性が高く、香りはシェリーが強め。かなりスモーキーなアロマが強く、出汁のようなイメージもあります。
奥を探ると熟したりんご、西洋梨、ベイリーフ、ドライいちぢく。
口当たりは上品でスイート。しかしドライでタンニンの渋みも感じます。ビターなカカオ、ヘーゼルナッツ。
モルトの香ばしさやヨード感も堪能できる素晴らしい出来栄えのボトルです。
シングルモルトあかし3年 日本酒カスク
こちらは日本酒を漬け込んだ樽に3年間熟成させた新たな試みのボトル。
もともと日本酒を手がけていた江井ヶ嶋酒造ならではの斬新なボトルです。
香りは従来のバニラやカカオの中に乳酸系の香りを感じます。
味わいもビタースイートですが、どこか米粉のような、日本酒を感じるテイストになります。
モルトウイスキーと日本酒のマリアージュといったら大袈裟かもしれませんが新たな可能性を感じるボトルです。
シングルモルトあかし3年 テキーラカスク
こちらはホグスヘッドのバーボン樽にて3年熟成させた原酒をアネホ規格のテキーラ樽にて2年後熟させたシングルカスク。
信濃屋と江井ヶ嶋のコラボした規格ものの限定ボトルとなります。
野菜を思わせるグリーンな香り、モルトとアガベ、そして樽香がミックスされた絶妙な風味を堪能できます。
シングルモルトあかし3年 オロロソシェリーカスク
こちらはファーストフィルのオロロソシェリー樽にて3年6ヶ月熟成させたボトル。
オロロソシェリー由来のフルーティで強めの甘みと後半のタンニンの渋み・ビターな余韻、若干ゴムや硫黄の風味を感じることができる複雑な味わいのボトルです。
ホグスヘッドのオーク樽で3年、オロロソのシェリー樽に2年間貯蔵したシングルモルトあかし5年(オロロソシェリーカスク)も発売されています。
あかし5年コニャックカスク
こちらはコニャックに使われるリムーザンオーク樽にて5年6ヶ月熟成させた限定ボトル。
コニャック由来の白ブドウ、白桃、ライチを思わせる甘みの強いボトルです。
しかし甘いだけではなく後半の渋みやあかしならではのビターも感じられるユニークなボトルです。
あかしのおすすめの飲み方
素晴らしい立地条件のもと、特徴的な二毛作を続けるクラフトディスティラリー江井ヶ嶋酒造さん。
昨今ではSNSも精力的にやられていますね。
ブレンデッド、シングルモルト共に短熟とは思えないクオリティを有しており、ハイボールにするとレーズンやカカオが強調され、とてもおいしいです。
まさに毎日の晩酌のミカタです。
ロック、ハーフロック、水割り、なんでもおいしく飲めてしまいますし、明石焼き(たこ焼き)食べながらとかサイッコーですね。
変わり種のカスクフィニッシュはストレートでちびちび飲むのが面白いと思います。
短熟で非常にクオリティが高い半面、酒質は軽い印象で、樽の影響をかなり受けている印象。
渋みが出てしまうので長期の熟成には向いていないのかなーと思ったりもしました。試験的に色々な樽でカスクフィニッシュしているのもその特性を利用してなのかな。
個人的には8年、10年あたりがバランスがよくて好きです。
2012年頃からヨーロッパでも売られており、好評らしいですね。
これからも気軽に飲める商品から、シングルカスクはじめとした興味深い限定品までリリースを楽しみにしています。