ちょっと前にTwitterでも呟きましたが「超音波でワインを熟成するSONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)」なるものがリリースされました。
どんな仕組みなのか気になっていたところ、プレスイベントが行われることを聞きつけ、我々BARREL編集部で取材に行ってまいりました。
現代では焼酎や日本酒、味噌や米、果てはバナナにまでクラシックミュージックを聴かせて製造している会社もあります。
音楽が発酵を早めたり、熟成を促したりする効果があるのは知っていましたが、今回は超音波。
なんでもワインだけではなくウイスキーにも効果があるとのこと。
一体どういった製品なのか興味津々です。
SONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)の概要
超音波で熟成を「時短」する??
ちょいと長くなりそうですが、まずはSONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)の仕組みを解説したいと思います。
この商品、簡単に言うと超音波を利用してお酒のポテンシャルを引き出そうというツールです。
長い年月をかけたヴィンテージワインでなければ味わえない熟成感を、超音波を使うことによってものの5分~20分で引き出してしまおうという夢のようなツールです。
ほんまかいな。
しかもワインだけでなく、ウイスキーには長期熟成したかのようなまろやかさを、日本酒には柔らかくなめらかな口当たりをもたらすといった優れもの。
要は超音波で時間をすっ飛ばすわけですね!(違)
どんな原理なのか
ワインのポテンシャルを引き出すには、一旦ワインをデキャンタやカラフェ(水差しやピッチャー)に移し、急速に空気に触れさせるデキャンタージュが必要と言われています。
基本的にデキャンタージュは「時計の針を先に進める」効果を持っています。
若くてまだ固いワインを空気に触れさせることにより香りを目覚めさせ、熟成感をもたらします。
グラスに注いだ赤ワインをくるくる回しているシーンをよく見かけますが、あれもワインを空気に触れさせて香りを開かせているのです。
ただしデキャンタージュはワインが急速に酸化(老化)するため繊細な果実香を壊してしまう可能性があります。
それから数時間待たないと香りが開かないワインもあり、なかなか手間のかかる作業といえます。
ですが、SONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)は従来の酸化とは逆のアプローチをとります。
ソニックデキャンタは強力な超音波振動により、細かい気泡でワインを攪拌します。
こうやってかき混ぜることでワインの中にある微量の酸素を抜いていくのです。
つまり酸素を含ませるのではなく、逆に抜き取ってしまうわけですね。
そうするとワインが劣化することなく、わずか20分程度で味と香りを変化させることができるというわけです。
北米のETS LABORATORIES(世界有数のワインメーカーと協力し、現代ワインの科学的に分析している研究所)の検査では、
- 防腐剤と使用される二酸化硫黄(SO2)の減少
- ph値の減少
- アントシアニンの減少
- 揮発酸(VA)の減少
が見られました。
確かに飲みやすくなってそうですね。
実際の「味」への影響は?
肝心の味にはどのくらいの変化があるのか。
これは実際に数値でわかるよう「味覚センサー」なるもので検証しています。
「味博士」の名称で様々な味覚研究を行っている鈴木隆一氏に検査を依頼し、超音波に当てたワインを測定してもらいました。
今回使用した味の測定器「味覚センサーレオ」は人工知能で「味覚」を見える化する機能を持っています。
慶応義塾大学で開発され、ヒトの味を感じる仕組みを模倣したマシンで、5つの基本味(甘味、苦味、酸味、塩味、旨味)を定量的な数値データとして出力します。
2018年4月現在”甘味”を分析できるセンサーはこのレオが世界で唯一です。
※ちなみに”辛味”は味細胞では受容されません。辛味は熱い、冷たい、痛いなどの「感覚」です。
検査方法
検査方法は簡単です。
まずソニックデキャンタを用いて20分間超音波に当てた赤ワインを用意します。
使用する前、使用した後のサンプリングをとっておいて、味覚センサーレオで測定を行います。
検査結果
検査の結果、超音波に20分かけた赤ワインは甘味が15%増加し、酸味は2%低下、苦みは4%低下していたことがわかりました。
旨味も4.5%向上し、超音波により熟成効果を裏付ける検証結果となりました。
SONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)による超音波使用の前後で明らかにワインの味覚変化を感じられました。
タンニンの苦み、添加物などによる酸味が抑えられ、ワインの隠れた甘味が引き出される現象が起こったと言えます。
甘味の上限数値は15%増であり、これだけ甘味を上昇させる効果は見たことがありません。
添加物を利用せずワインの甘味を引き出すことに成功したSONIC DECANTER(ソニックデキャンタ)の実力には驚きました。
※甘味=スクロース・フルクトースなどの単糖類とアスパルテームなどの甘味料をベースに測定しています。
では、我々も実食
ソニックデキャンタの概要はおわかりいただけたでしょう。そろそろイベントの報告に参ります。
今回のソニックデキャンタのイベントで使用した赤ワインはスーパーマーケットでもおなじみ「イエローテイル カベルネ ソーヴィニヨン」。
ミディアムタイプでパスタなどと相性の良いデイリーワインです。
そしてウイスキーはハイボールにぴったり、アメリカNO1の売り上げを誇るスコッチ「デュワーズ ホワイトラベル」。
この2商品をソニックデキャンタに20分間入れて実験しました。
まず赤ワインのイエローテイルですが、正直”渋み”が少し減ったかなと思う程度で、香り、味はあまり変化しない印象でした。
僕はもともとベリー系の酸味や果実味が好きなので、なんとなく「緩い味」になったイメージです。
フルボディでタンニン分の強いワインならもっと変化を感じられたのかもなと思います。
デュワーズはかなり変化がありました。
まず香りが薄い、なんとなくナッツのような香りは残っていますが、アルコールのアタックが弱まっているのか持ち上がってこない印象です。
デュワーズはもともと雑味が少なく、後味もドライでスイスイ飲めるタイプのウイスキーですが、もうなんかすげえクリアです。
若いウイスキー故に感じる喉への引っかかりも感じさせません。
ウイスキーを知っている人は物足りないかもしれませんが、このまろやかさは初心者の入り口にはいいかもしれません。
赤ワインよりも、アルコール度数が高い蒸溜酒のほうが味の印象が大きく変わるイメージを持ちました。
だがしかし、BARREL編集部はこの程度では終わりません。
当然のごとく、色々とウイスキーを持ち込みしております。
蒸溜酒の場合、20分間ソニックデキャンタの超音波を当てるとクリアになりすぎるような気がしたので、ワイルドターキー8年とラフロイグを10分間ソニックデキャンタに入れて試してみました。
さて、ラフロイグは、、、、
「これは、とても、いかんですねぇ」
なんというか”薬臭いアルコールの汁”になりました。
繊細さだけが抜け落ちるというか、うまくバランスをとっていた足場をガタガタに崩したような味がします。
次に、、、、ワイルドターキー8年!
おおおおお、これはすごい!
美味しいか美味しくないかで言えば元のターキーのほうが美味しい!(笑)
でもすごい、もうこれは別の飲み物だ…。ボディがリッチなほうが変化があるのか?タンニンの渋みや木樽感が消失し、まろみを帯びた味に変化しています。
バーボン特有の荒々しさがこそげ落ちてます。
確かに長熟バーボンのニュアンスはありますね。
ただ、バーボン特有のバニラやキャラメルの香りもうすーく引き伸ばされたイメージになっています。
まとめると…
- ワインもウイスキーも酸味や渋みの角がとれ、味が丸くなる。
- 熟成年数の若いワインや、短熟のウイスキー、アルコールのアタックの強いものにはより効果的。
- ボディがリッチで味の骨格がシンプルなもののほうが変化に富む。
- 逆に味わいが複雑なものはNG(ウイスキーで言えばジャパニーズの「山崎」など)。
- 蒸溜酒の場合は10分間で十分変化がわかる。20分間は相当クリアにしたい場合のみ。
ここでふと疑問が生じて質問してみました。
BARなどで過去に見かけたギネスビールを頼むと超音波できめ細やかな泡を立てる機械(ギネスサージャー)や、超音波で眼鏡を洗う洗浄機などでも同じことはできるんじゃないの?という問いに、「そもそものパワーが桁違いですね」と担当者の小室氏からご回答いただきました。
この超音波は特許技術を採用しているそうです。
どんなシーンで使う?
価格が34,800円なので、普段からお酒にこだわっている人であれば買えないお値段ではないですね。
個人で味の違いを楽しんだり、お友達とのパーティーシーンで楽しむのも悪くないと思います。
しかし、このツールは飲食店での売り上げアップや集客に最も効力を発揮するアイデアツールだと判断しました。
ソニックデキャンタを使用しているとある飲食店では、
「グラスワインに使う商品はその日に飲み切らないと、酸化してしまいます。しかし2、3日経過したボトルをソニックデキャンタにかけると果実感が戻ってくるんですよね。熟成効果はもちろんですが、酸化がやや進んでしまったワインを営業前に10~20分かけて利用しています」
といった評価を得ていました。
これは理想的なコストカットだと思います。さらに以下のような使い方も。
様々な飲食店で売り上げに貢献
MEAT WINERY(秋葉原)
店長:其田氏
1月から導入、本日の熟成ワイン飲み比べセットを毎晩設定している、大好評オリジナルと20分かけたワインをグラス別にお出ししている。
ボトルで注文いただいたお客様に対しては +500円で熟成効果をオプションとして提供しています。
熟成酒専門店 いにしえ酒店
オーナー:薬師氏
銘柄にもよるが日本酒は5分程度が効果的だと思われる。
いわゆる香り系の酒を試したところ膨よかな甘みが出て来る。
生酛(きもと)系1年熟成程度の酒をこの機械にあてたところ甘みと酸味のバランスがよくなる。
コワーキングスナックCONTENZ 分室(五反田)
ママ:サエコ氏
お客様とのコミュニケーションのネタとしては格好のグッズです。
本当に変わった!盛り上がるとお店としてはうれしい。お醤油の味が変わったことが衝撃的でした!
BAR嵐(西麻布)
日本バーテンダー協会関東統括本部常任幹事:竹田氏
とくにウイスキーやハードリカーでの効果に驚いた。
スタンダードウイスキーの角が立っていた味がまろよかになり、長期熟成のようなまろやかさに変わります。
銀座BAR ETERNA
木村氏
赤ワインは若いカベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズやメルローとの相性が良い。
日本酒はとくに燗しないと飲みにくい「固い」銘柄をオススメします。
その場合5分程度ソニック・デキャンタにかけると、冷やして美味しく飲めるようになります。
そのほかは純米酒との相性が良いと思います。
原価BAR
柳谷氏
SONIC DECANTERの超音波にかけたお酒を色々と飲んでみましたが、海底熟成と似たような、まろやかな変化が確実に起きています。
アルコールのとげとげしさが丸まり、甘やかさが浮き上がってくる傾向になります。
まずは、香りをゆっくりと比較するとわかりやすいでしょう。
お客さんの”興味”を作り出すアイテム
ソニックデキャンタを使った「熟成ワイン飲み比べセット」や、プラス500円で20分ソニックデキャンタにかけた「熟成版」を試せるという施策は非常に効果の高い集客ツールに思えました。
興味さえひければ試したくなるお客さんは多くいるでしょうし、500円程度であればハードルはそこまで高くない。
集客に重要なのは美味しいかまずいかではなく、興味を引けるかどうかです。
この興味を引けないからこそ、飲食店やBARから人々が遠ざかると言っても過言ではありません。
興味を引いたうえで味も良ければ言うことなしですし、たとえ味が期待外れでもその「体験」にお金を払って損だという人はいないでしょう。
カップルや団体客には特に進めやすいツールかと思います。
さらに驚きなのはお酒以外の使い道。
最近はこのような鮮度を重視した醤油が流行ってますよね。
僕もお刺身などに使っていますが、めっちゃ美味しいです。
お醤油も最初は赤く、徐々に酸化して黒ずんでくるのです。
空気を抜いて渋みを取り除くことができるソニックデキャンタであれば醤油も美味しくできるはずです。
こういった実験系も飲食店やBARにおいては話のタネや売り上げアップのアイデアになるかと思います。
価格も34,800円と比較的リーズナブル。
仮に+500円とれれば70杯でペイですからそこまで難しくはないでしょう。
飲食店やBARなど店舗経営している方であれば一台導入して試してみるというのは面白い投資ではないでしょうか。