昨今のウイスキーブームの影響でしょうか、書店に行くと”趣味のコーナー”あたりに続々とウイスキーの関連書籍が並んでいます。
オーツカも新刊が出ればパラパラとめくったり、Amazonでポチッたりするのですが、ウイスキーを学ぶための良著とはどんなものなのでしょうか。
今回はウイスキー関連のおすすめ本をピックアップしていきます。
どんなふうに読み進めていけばいい?
ウイスキー関連本を100冊くらい読んで気づいたことがあります。それは
旧いウイスキーには美味いものがあるが、古い書籍は情報源としてよくない。というもの。
幼き頃に読んだ恐竜関連の本を30年ぶりに手に取ってみると、もはやオーツカの知ってるティラノザウルスはどこにもいませんでした(なんか毛はえてるんですよね….)。
そこまでとは言いませんが、情報は年月により更新されます。
ウイスキーの本も新しいもののほうが良いです。
紹介されているボトルは既に販売していないものが多いですし、製法も変化したものがあるからです。
世界各国でマイクロディスティラリーブームが広がり、蒸溜所の数も激増しています。ニューワールド系のウイスキー最新情報を追おうと思ったら恐らく書籍では難しい点も多くあります。
しかし古い本には古い本の味ともいうべき素晴らしい点もあります。
それは歴史の変遷を感じられること。
この変遷を知らずしてウイスキーの奥深さはわかりません。
『今すぐ飲める美味しいボトルが知りたい!』というのはオーツカも同意見ですが、どのようにウイスキーの業界が変化し、なぜヴィンテージと呼ばれるボトルに価値があるのか知るのはとても興味深いです。
さらに書籍はWeb系の情報記事よりも大きく予算をかけています。
しっかり取材をしている書籍はたとえ情報が古くとも、当時の蒸溜業者のクラフトマンシップなどが垣間見え、一見の価値があります。
では、幾つか系統を分けておすすめ本を紹介していくことにしましょう。
ビギナー用の教科書となる書籍
『まず初めに』的な教則本は一冊は読んでおいたほうが良いでしょう。
『ウイスキーってどうやって作られてるんだろう?』
とか
『どこが発祥なんだろう?』
『初心者にはどんなボトルがおすすめなの?』
みたいなことが載っています。
BARRELでも初心者さん用の記事はドシドシ増やしていきますが、いわゆる教科書的な書籍がどんな内容を明記し、何を紹介しているのかは見ておくべきです。
最近ではコンパクトなムック本がコンビニなどにも置いてあるので、そちらから手を出してみるのもキッカケとして良いと思います。
おすすめはなるべく新刊、もしくは改訂が早いものです。
今(2018年1月)でしたら以下がおすすめ。
フランスで大人気の『●●は楽しい!』シリーズ。
他にも『ワインは楽しい! 』、『コーヒーは楽しい! 』があり国内累計は4万部を超えるベストセラー作品です。
ポップで味のあるイラストが特徴的で、随所にわかりやすく配置されています。
ウイスキーの製造方法から、味わい方、選び方、買い方、食材との合わせ方、カクテル紹介などユーザーの疑問に思う順に章が分かれており非常に構成が秀逸です。
グラスの選定やコルク栓の役割、アルコールが人体へ及ぼす影響、テイスティング方法から二日酔い対策まで、BARRELの記事に似た切り口で親近感を覚えます。
2017年12月発売なので、これからウイスキーを知りたい人にぴったりですね。
著名なウイスキー評論家、土屋守氏が監修する入門書的一冊。
初版は2015年12月ですが、何度か刷新されています。世界の5大ウイスキーの紹介をはじめ、ニューワールドウイスキーの台頭、アメリカの新潮流であるクラフトディスティラリーブームまで抑えています。
ウイスキーボトルの紹介も王道を簡易に紹介。
多用するとわかりにくくなるチャートは「香り」と「ボディ」の二点のみ。
難しいテイスティング表現もありません。
ビギナー読者の気持ちを考えた一冊に仕上がっていると思います。
やや国産モルトの比率が多いのと、飲み方の解説があまりないのがちょっぴり残念な点でしょうか。
ウイスキー銘柄を網羅した本
ある程度知識がある方は銘柄を網羅した本にも興味が出てくるでしょう。
『厳選〇本!』とか『なんちゃらモルト大全』的な本ですね。
これは主にウイスキーボトルの銘柄を中心とし、その味の特徴、蒸溜所やブランドの歴史に重きを置いた本です。
教科書的なことも書いてありますが、そこはあくまでコラムのような扱いです。ボトルの紹介がほとんどですね。
現在どんなボトルが販売していて、どんな味がするのか確認したい方にはうってつけです。
おすすめは網羅性が高く、なるべく新しいもの。
そして味の表現チャートが複雑でないものが良いです。
世界のお酒の最新情報を網羅している『世界の名酒事典』。
本書はその「分冊版」でウイスキーに特化した書籍。
電子書籍(kindle版)で216円というリーズナブルな価格が魅力です。
縦読みでやや読みづらさはありますが、「世界のウイスキーほぼ完全カタログ」と銘打ってあるように現在日本で購入できるウイスキーボトルが305本、ブランデー140本、合計445本を収録しています
オフィシャルボトルがほとんどですが、ボトラーズもちょこちょこ載っていたりと網羅性は高いです。
毎年出ており、情報が常に最新に保たれるというのも大きなアドバンテージですね。
文字が小さめなのでkindleで拡大して読むことをおすすめします。
次点でこちら。
無類の酒好きの著者二人がスコットランド86ヵ所、アイルランド4ヵ所、アメリカ25ヵ所、日本13ヵ所の蒸溜所を訪れ、150本の厳選したボトルを紹介。
バックグラウンドを見ると二人とも長い付き合いなのでしょう、ほとんどの経歴で共通点があります。
『マジで二人で飲んでるんだな…』という箇所が多く見受けられ、そのリアルな品評が良い味を出しています。
メインは1,500円~5,000円程度の銘柄を選んでいることにも好感を覚えます。
誤植がやや気になったりしますが、ウイスキー本にはなぜだか誤植が多い印象なのでその辺りは気に留めないほうがよいでしょう。
あと、チャートが初心者には少しわかりにくいですね。
ジャケ買いも悪くない雑誌系
BRUTUSやぴあなどの有名雑誌も『ウイスキー』を特集しています。
コンビニの書籍コーナーに陳列されている雑誌もあり、ブームがきていますね。
パラパラめくれるのでハズレを引きにくいですし、価格もお安い。
とにかく片っ端から手に取って覗いてみることをおすすめします。
コンビニには置いていませんが、2005年から発刊されている『The Whisky World』は愛好家の中で有名なウイスキー雑誌です。
国内唯一のウイスキー専門誌として3万部を超える発行部数を誇っていました。現在は休刊しています。
しかし古本屋などではよく見かけるので手に取ってみてはいかがでしょう。オールカラーページという贅沢な仕様で、まるで写真集を見るような満足感があります。
おすすめはコンビニでウイスキー雑誌を見かけたらすぐ手に取ることでしょうか。
毎年一冊くらい発刊してくるPENのウイスキー特集号。
「特集:次に飲むべき銘柄はどれだ!? ウイスキー最新案内。」と題しており、2017年11月半ばに発売しました。
やや男性的な作りではありますが、毎回とてもよくできているという印象を持ちます。
メジャーなバーテンダーさんがおすすめする逸品や、新鋭国産ウイスキー蒸溜所の特集。流行のノンエイジウイスキーのボトル品評、クラフトウイスキーの現場取材など、ウイスキー好きの食指が動く内容となっています。
逆にビギナーさんにはちょっとわかりにくいものもあると思うので、入門書を一冊読んだり、BARRELの記事を読んだりした後に挑戦するとよいでしょう。
中にヴィンテージウイスキーのコーナーがあるんですが、やっぱりウイスキーボトルはフォトジェニックだなぁと改めて思わせる素晴らしい写真カットでした。
ちなみに最新作であるPen(ペン) 2019年10/15号[いま飲むべき一本を探して、ウイスキーをめぐる旅。はクラフトディスティラリーから、ニューワールド系ウイスキーの特集も行っており、かなりマニアックでした。
ジャケ買いしてもいいと思います。ペラペラめくるだけでも楽しいですよ。
前述したウイスキー専門誌『Whisky World』が休刊し、後継誌として誕生したのがこの『Whisky Galore』。
隔月発行、全ページオールカラーといった贅沢な作りで、世界中のあらゆる蒸溜所やウイスキー、それを造る人々の想いやこだわり、そして文化や歴史などを、広くレポートしています
。”徹底した現場主義”という編集方針のもと、ウイスキー文化研究所の土屋氏が世界のウイスキー造りの現場に毎回足を運び、生レポートをします。
愛好家にはたまらないまさに『ウイスキーの読む肴』。
通販でしか買えませんし、内容もそこそこマニアックなので初心者の方にはなかなかおすすめできませんが、ウイスキー大好きな方は楽しめるでしょう。
一歩踏み込む学術的書籍&エッセイや自伝
より詳細にウイスキーの起源や歴史を知りたい方や、科学的なアプローチを用いてウイスキーを紐解いていく『資料としての書籍』。
多くのマニアや研究者、小説家などがこの興味深く難解なお酒である「ウイスキー」を調査、分析しています。
しかし学術的な書籍は飽きるし眠くなるものも多いですね。
「性格の問題だろ…」と言われればそれまでなんですが、とにかく専門用語が多い。そして著者が外国の方で翻訳本も多いのです。つまり、翻訳が拙いとと専門用語はえらい目にあいます。
マニアックな世界なので、あまり読んでいる方がおらず、Amazonなどの口コミやレビューが全く参考にならないこと。
そして書籍自体のお値段もそこそこするので、”これを読むべし!”という選定が難しいです。
逆にエッセイや自伝は読みやすいのでおすすめしたいですね。
おすすめは口コミ評価が少しでもついている、もしくは信頼のおける方が読んでいるものにしましょう。
東京大学理学部卒、サントリーにてウイスキーの貯蔵、熟成に10年以上携わった著者が『ウイスキー熟成』の神秘に迫った一冊。
ウイスキーは熟成中、樽の中でどのような変化が起きているのか?科学的な視点からウイスキーを捉え、多くのウイスキー好きが一度は考えたであろう疑問に答えてくれます。
麦芽の仕込みや発酵の科学、香りの構造から味に対する感じ方、まろやかさの考察、瓶熟成はあるのかなどなど。知る程に飲みたくなる発見がたくさん書かれています。
初版は2009年の11月なのですが、なーんと!『新・ウイスキーの科学』となって2018年2月14日に刷新されました。
発行してから8年以上の年月が経過する中、世はハイボールブームと「マッサン」の流行に沸きました。
最新成果を加筆した新装版を是非ご覧ください。
ウイスキーや酒文化をテーマにした翻訳本はわかりにくいものも多く敬遠していました。
けれどもこの書籍は割と読みやすかったです。
しかし、評価すべきは読みやすさではなく、その圧倒的な情報量と独特な切り口。
ことバーボンウイスキーというジャンルに絞れば、今まで紹介してきたどの書籍よりも衝撃を受けた作品でもあります。
取材の濃度やライティングの精度な練り上げればどうにかなるのですが、『センス』だけは生まれ持ったもので、著者からはその才を感じます。
基本疑うスタンスというか、批判や毒が随所に散りばめられ、バーボンウイスキーという、いわばアメリカの歴史に真っ向からファイティングポーズをとる様は痛快です。
ウイスキー業界はマーケティングのために歴史を作り替える傾向があるのですが、バーボンはそれの最たるもの。ぼろ儲けの乱痴気騒ぎの裏側や、禁酒法の抜け穴、多くの戦争が齎した弊害と利益、伝統というワードを利用した広告術。アメリカ人の魂と呼ばれ、美しく彩られたバーボンウイスキーの”暗黒面”が良く描かれています。
伝説として語り継がれたアメリカンウイスキー草創期からクラフトバーボンが注目される現代まで、政治や経済にも光を当てて描く、はじめての本格的なバーボンの歴史本。逆にウイスキーをそこまで知らない初心者にも面白く読めると思います。
まだまだある、ウイスキー関連本
まだまだ紹介できないくらいおすすめのウイスキー本はたくさんあります。ちょろっとメモっておきます。
(特に良かったのは黄色つけておきますね)
世界で評価される国産ウイスキーの銘柄と蒸溜所ついて克明に記した超充実の翻訳本ウイスキー・ライジング。
ウイスキーマガジンやWWAでの受賞も多数ある東京目白田中屋、栗林氏が監修した永久保存版の名著、ウイスキー案内。
多くの実用的な飲み方テクニックと手描きのボトルイラストが可愛い初心者にもおすすめな入門書、FOOD DICTIONARY ウイスキー。
初心者~中上級者におすすめの伝説的ウイスキーサイトM’s Barを運営されていたレジェンド、吉村宗之氏が書いたうまいウイスキーの科学 。
ムック本なのに意外に本格的!洋酒の名店『目白田中屋』の栗林氏も参加した厳選ウイスキー&シングルモルト手帖 知ればもっとおいしい!食通の常識。
いつかは飲みたい至高の名ボトル、それだけを特集したマニア垂涎の書籍伝説と呼ばれる 至高のウイスキー101。
数多あるウイスキーラベルの謎を紐解く、資料文献としてもとても価値の高いスコッチ・ウィスキー物語―ラベルに読む英国の歴史。
おしゃれなブックデザインでパラパラめくるだけでも気分が高揚する、その日にBARに行ってついウイスキーを頼みたくなるBRUTUS(ブルータス) [20年通えるバー。]。
連続テレビ小説マッサンでも異彩を放ったサントリーの創業者、鳥井信治郎の生涯を描いた長編小説、琥珀の夢。
自伝といえばこれが外せない。ウイスキー醸造に人生を捧げた、ニッカウヰスキー創業者、竹鶴政孝氏のユーモアとダンディズムあふれるウイスキーと私。
ウイスキーも好きだけど、飲みながら見る映画も好き!な人にはたまらない、映画とウイスキーの素敵な関係を綴るエッセイウイスキー アンド シネマ: 琥珀色の名脇役たちとその第二弾、ウイスキーアンドシネマ2。
1971年の洋酒輸入自由化から平成元年の級別および従価税廃止までに発売された特級スコッチウイスキーを中心に、「盛岡スコッチハウス」が収集した銘柄を紹介していくマニアにはたまらないスコッチ・オデッセイ―1971黄金の特級時代を想う 。
などなど。
どれも暑苦しいほどの情熱を込めて執筆している素晴らしい作品達です。まさに愛の成せるワザ。
まだまだウイスキーブームは始まったばかりですし、若い方の需要も増えています。もっと現代文化に即した新しいタイプのウイスキー本も出てくると思っています。
これからもウイスキー関連の書籍のレポートはしていく予定なので、ちょこちょこ追加していきますね。
個人的に最近の大ヒットは日日盃盃 ワイン & スピリッツ100ですかね。ワイン、コニャック、ウイスキー、リキュールなどについて書かれた本なのですが、18世紀初頭から現代までに時代をまたいで保存されてきた洋酒のなかから100点をセレクトして紹介しています。
紹介しているボトルはもはや伝説とされているとてつもないコレクション。
現代を代表する写真家(鷹野隆大、春木麻衣子、石川竜一、武田陽介ら)が撮影を行い、造られた時代の様相やお酒にまつわる歴史、逸話を読み解くことができます。
以前Twitterでも取り上げましたが、出版・広告制作会社のフォーギブが主催し、お酒好きのあなたとつくる『ウイスキーの良さを知ってもらう本(仮)』のクラウドファンディングが進行中です。(達成したようです)
「ウイスキーのことをよく知らない」「飲み方がわからない」という方に向け、ウイスキーの魅力をお伝えする書籍を出版するプロジェクトだそうで、監修には八重洲「LIQUORS HASEGAWA本店」店長の倉島英昭氏や神田「Bar&Sidreria Eclipse first」オーナーの藤井達郎氏が参加しています。
理念がBARRELと似ていますし、応援したいのでオーツカも支援させていただこうと思います。
マニアックにしすぎない、初心者のニーズに即した、そんな本になることを祈っております。
こちら、2018年12月21日に無事発売されました。
はじめてのひとり飲み バー と ウィスキー の素敵バイブル (サンエイムック)
拝読させていただきましたが、バーでのウイスキーの楽しみ方や好みのウイスキーの見つけ方、家飲みや贈り物に最適なボトルなど丁寧にわかりやすく書いてありました。
難しい内容はなく、まさにビギナーさんへの「入門用」の書籍です。
一人でも多くのウイスキーラヴァーが増えると良いですね。
ちなみに巻末に僕の名前も載っています。
『はじめてのひとり飲み バーとウイスキーの素敵バイブル』届いた。小笹さんお疲れ様でした(´ω`)
年始にゆっくり読みます。
トバモリー推しはワシだけのようじゃな。 pic.twitter.com/QJQ0TFR2eR
— オーツカ/ウイスキーライター (@BARREL365) December 24, 2018
ともすると学術的な要素が多く、閉鎖的でむずかしくなりがちなウイスキーの世界。
今この世界も時代に合わせてどんどん変わろうとしています。
今後はスタイリッシュでウィットに富んだジョークを交えつつ、楽しみながらその成り立ちを解説する書籍や評論家、バーテンダーが増えてくる時代になりそうですね。
オーツカも取っつきやすさを最重要視して、記事の更新に励んでいこうと思います。
これからもBARRELをよろしくお願いします~。