2025年に入り、ウイスキー業界の成長鈍化が明確な形で現れ始めています。
過去10年以上にわたり急成長を続けてきた市場ですが、供給が需要を上回る状況となり、多くの企業が生産の一時停止や縮小といった戦略的調整を余儀なくされています。
大手蒸溜所の生産停止・縮小の動き
1. ペルノ・リカール – ミドルトン蒸溜所の生産を4月から停止
ペルノ・リカール傘下のアイリッシュ・ディスティラーズ社は、ミドルトン蒸溜所（ジェムソン、レッドブレスト、ミドルトン・ベリー・レア、パワーズを生産）のウイスキー製造を2025年4月から夏まで一時停止することを発表しました。
同社の広報担当者は、「生産スケジュールの見直し」を理由に挙げていますが、業界全体の流れを踏まえると、市場の減速に対応した戦略的な生産調整とみるのが妥当です。
また、同社は当初2億5000万ユーロ（約400億円）を投じてミドルトン蒸溜所の拡張を進める計画でしたが、このプロジェクトの完了が延期されたことも報じられています。
2. ディアジオ – ケンタッキー州での樽詰めを6月まで停止
世界最大級の酒類メーカーであるディアジオは、ケンタッキー州の蒸溜所（ブレット・バーボンの生産拠点）での蒸溜および樽詰めを2025年6月まで一時停止すると発表しました。
同社は、既存の在庫が豊富にあることを理由に挙げていますが、需要減速の影響が背景にあることは明白です。
3. ブラウン・フォーマン – スコットランド蒸溜所の稼働を調整
ブラウン・フォーマンもまた、スコットランドの蒸溜所での生産縮小を決定。具体的には、
- グレングラッサ蒸溜所の操業停止
- ベンリアック蒸溜所との共同生産モデルへの移行
といった施策を進めています。さらに、同社傘下のブッシュミルズ蒸溜所（北アイルランド）でも生産量の削減を実施。
4. 小規模蒸溜所も財政難に直面
大手企業だけでなく、ウォーターフォード蒸溜所やブラックウォーター蒸溜所といった小規模なアイリッシュウイスキー蒸溜所も財政難に直面しているとの報道もあり、業界全体で厳しい状況が続いています。
なぜウイスキー業界は減速しているのか？
1. 過剰供給の影響
過去10年間、ウイスキー市場は急成長を遂げ、多くの蒸溜所が生産能力を拡大してきました。しかし、需要の伸びが鈍化し、在庫過多の状態が発生。結果として、生産量の削減や操業停止が相次ぐ事態となっています。
2. 経済環境の変化
2020年代前半のインフレや経済の不安定さにより、消費者の支出が抑えられ、高価格帯ウイスキーの需要が減少。特に、プレミアムおよびラグジュアリーウイスキー市場が鈍化していることが影響しています。
3. 市場の成熟と消費の変化
アメリカやヨーロッパ市場ではウイスキー人気が続いているものの、消費者の関心がラムやアガベスピリッツ（テキーラ・メスカル）にシフトしているとの指摘もあります。
また、ノンアルコール市場の拡大もウイスキー業界に影響を与えている要因のひとつです。
今後の見通し – 市場の調整期へ
現在の動向は、ウイスキー業界が過剰生産からの調整局面に入ったことを示しています。
今後、
- 供給量の削減
- プレミアム市場への集中
- 新興市場（アジア・アフリカ・南米）への販売強化
などが各企業の戦略の中心となる可能性が高いでしょう。
また、今回の生産停止は一時的なものとされていますが、需要の回復が見込めない場合、長期的な影響を及ぼす可能性もあるため、引き続き注視する必要があります。
ウイスキー市場はこれまでも成長と調整を繰り返してきた歴史を持つため、今後数年の間に新たなトレンドが生まれることも期待されます。
嗜好品は、思想やライフスタイルの一部として価値を持たないと厳しくなってきましたね。「クラシックな嗜好品」から「時代遅れの贅沢品」にならないよう、カルチャーやスタイルを確立していかないとならないでしょう。
