英国最古のワイン&スピリッツ商社、ベリー・ブラザーズ&ラッド(Berry Bros & Rudd)が、30名の従業員を対象としたレイオフ(解雇)に踏み切ることを発表しました。
これは、英国政府による全国保険料(National Insurance, NI)の引き上げや、グローバルな経済の逆風が影響しているとしています。
人員削減の背景:英国の全国保険料引き上げが直撃
ベリー・ブラザーズ&ラッド(以下、BBR)は、1698年創業の英国最古の酒商であり、長年にわたってワインとウイスキーを中心とした高級酒の取り扱いで知られています。しかし、同社は1月30日、30名の従業員を対象とした「レイオフの協議」に入ることを発表しました。
CEOのエマ・フォックス(Emma Fox)氏は、この決定の背景について、「世界的な経済不安、高インフレ、コストの上昇、そして英国政府の全国保険料(NI)の増税が影響した」と述べています。
英国政府の税制改正が企業の負担を増大
2024年秋の予算において、英財務大臣レイチェル・リーヴス氏は、雇用主が支払う全国保険料(NI)の税率を13.8%から15%へ引き上げることを決定しました。
さらに、雇用主がNIを支払い始める所得基準が、年間9,100ポンド(約174万円)から5,000ポンド(約96万円)に引き下げられることも発表され、企業にとっての負担が増大しています。
BBRは、約400名の従業員を抱える企業であり、今回の30名削減は約7.5%に相当します。フォックスCEOは、「この決定は苦渋の選択であり、影響を受ける従業員を最大限支援する」とコメントしています。
業績悪化はアメリカ市場の落ち込みが影響
BBRの経営はここ数年、決して順風満帆とは言えませんでした。
2024年度(2023年4月〜2024年3月)の決算報告によると、BBRの売上高は**3.3%減少し、2億4,598万ポンド(約470億円)**となりました。特に、アメリカのスピリッツ輸入部門「ホテリング(Hotaling)」の売上低迷が業績悪化の主要因とされています。
さらに、税引前損益は120万ポンド(約2.3億円)の赤字に転落。前年の946万ポンド(約18億円)の黒字から大幅に悪化しており、ワイン・ウイスキー市場の低迷が企業経営に打撃を与えています。
好調だったスピリッツ部門にも陰りが
BBRは、2023年にはスピリッツ部門で前年同期比42%の売上成長を記録しました。この成長を受けて、同年4月にはロンドンに初の専用スピリッツショップをオープンし、約1,000種類のウイスキーやスピリッツを取り揃えるなど、積極的な展開を行っていました。
しかし、こうした努力も全体の業績低迷をカバーするには至らず、人員削減を余儀なくされた形です。
今後の展望と英国ウイスキー市場の課題
英国の高級酒市場は、世界的な経済不安や消費者の嗜好の変化によって厳しい状況が続いています。特に、若年層のアルコール離れや、米国市場の不振、さらにEU・米国間の貿易摩擦によるウイスキー関税の再導入の可能性など、複数のリスクが業界に影を落としています。
フォックスCEOは「今後も市場動向を注視しながら、長期的な成長のための戦略を模索していく」としていますが、今後のBBRの動向は英国ウイスキー業界全体の先行きを占う試金石となりそうです。
BBRは、英国の酒類業界における歴史あるブランドとして、数々の危機を乗り越えてきました。今回の人員削減は厳しい決断ですが、市場ニーズを再考して、軌道修正を行ってほしいと願っています。