あのジャックダニエルやウッドフォード・リザーブなどを手掛ける米国の大手酒造メーカー、ブラウン=フォーマンが2025年1月、グローバルな事業再編を発表しました。
同社は売上減少に対応するため、全従業員の約12%にあたる650人を削減し、ケンタッキー州ルイビルの樽製造工場(クーパレッジ)を閉鎖する決断に至りました。
この動きは、同社の「持続可能な成長と効率性」を追求する戦略の一環として位置づけられています。
削減の背景:売上減少と経済環境の影響
ブラウン=フォーマンは、2024年の売上が1%減少して42億ドル(約5500億円)となるなど、業績に陰りが見え始めています。
2024年12月には、在庫が増加し始めたことを楽観的に捉えた上で、2025年の有機的な売上成長率を2~4%と予測していましたが、同時に株価は過去10年間で最低水準にまで落ち込みました。
この状況を受けて、同社はコスト削減と構造改革を進めるため、次のような施策を打ち出しました。
- 従業員削減:650人(全体の12%)の削減。主に米国事業が影響を受け、樽製造工場の従業員210人も対象に。
- ルイビル工場の閉鎖:樽製造と修理を外部委託し、2025年4月に完全閉鎖。
- 年間コスト削減目標:最大9000万ドル(約125億円)を想定。
これらの施策に伴い、初期コストとして6000万~7000万ドル(約83~97億円)を要するものの、長期的にはコスト削減効果が見込まれています。
事業再編と経営陣の改革
今回の発表では経営陣の大規模な刷新も含まれており、以下のような人事が行われました:
- ジェレミー・シェパード氏がチーフマーケティングオフィサーに就任。
- クリス・グレイヴン氏がチーフストラテジーオフィサーに就任。
同社のCEOであるローソン・ホワイティング氏は、発表の中で次のように述べています。
「この変革による影響を受ける従業員の方々の献身と貢献に心より感謝申し上げます。私たちは彼らを全力でサポートし、この戦略的な取り組みが会社の未来をより強固なものにすると確信しています。」
進化する消費者トレンドへの対応
ブラウン=フォーマンが直面する課題は、単なる売上減少にとどまりません。
消費者行動の変化が、同社の戦略にも影響を及ぼしています
- 価格抵抗感:消費者のインフレや価格上昇への抵抗により、同社は価格改定を段階的に実施。これが利益率に影響を与えています。
- 若年層の嗜好変化:若い世代がスピリッツよりビールを選ぶ傾向が拡大。
- 健康志向の高まり:米国公衆衛生局がビール・ワイン・スピリッツに対する健康警告ラベルの導入を推奨。
- 「カリフォルニアソーバー」ライフスタイル:合法化された大麻がアルコールの代替として選ばれるケースが増加。
地政学的リスク:トランプ前大統領の再登場と貿易摩擦の懸念
さらに、ドナルド・トランプ氏が2025年にホワイトハウスへ復帰する可能性が浮上し、保護貿易政策の再導入が懸念されています。
トランプ政権時代には、スチールやアルミニウムを巡る対立の中で、EUが米国製ウイスキーに50%の報復関税を課す事態が発生しました。
バイデン政権下でこの関税は一時的に停止されていますが、2025年4月には再び発動される可能性があり、アメリカのバーボン輸出に大きな打撃を与える恐れがあります。
未来への取り組み
ブラウン=フォーマンは、以下の戦略を通じて市場の変化に対応しようとしています:
- 新製品開発:Coca-Colaとのコラボによる「Jack and Coke」のRTD(レディ・トゥ・ドリンク)製品の展開。
- デジタルマーケティング強化:消費者との接点を増やし、ブランドの価値を再定義。
- 持続可能性の推進:環境に配慮した製造プロセスの導入。
ブラウン=フォーマンの今回の決定は、短期的な痛みを伴うものの、長期的な競争力強化を目指したものです。
同社が掲げる「持続可能な成長」のビジョンが、変化する市場でどのように実現されるかが注目されます。