ちょっと前になりますが、「リトルミル40年 セレスティアルエディション」の非売品サンプルをいただく機会を得たので、テイスティングさせていただきました。
サンプルをいただいたのはロッホローモンドグループの日本正規代理店として製品を輸入・販売している株式会社都光さん。
BARRELはテイスティングコメントをメインにしているメディアではないので、個人的なTwitterのみの掲載にしようと思いましたが、少し思うところがあったので記事にしてみました。
以前いただいた希少なウイスキー、リトルミル40年のサンプルセット。
『日本のウイスキー愛好家にもまだまだ知られていないリトルミルをもっと知ってほしい』とのことで試飲の機会をいただきました。だいぶ時間が空いてしまいましたが、僕なりにテイスティングしていきたいと思いまーす。 pic.twitter.com/UcdiJFveyr
— オーツカ/ウイスキーライター (@BARREL365) June 1, 2019
テイスティングコメント
香り
水気をあまり感じさせない、乾いた大地から生えた若い針葉樹。
パイナップルほどは酸っぱくない、小ぶりな薄黄色の果実。 西海岸にある古いお屋敷で聴くトロピカルでスローなビートと、オーガニックサウンド。
味
口に入れると、能の乱拍子のように、静から怒涛の動へとスイッチが切り替わる。
夕張メロンを薄切りにしたしゃぶしゃぶ。 リズムステップを刻むように、軽やかだがおびただしいほどの果肉感。
時が経つと、はちみつ金柑シロップのごとく、どんな喉風邪でも吹き飛ばすようなジワリと心強いフレーバーに変化する。
後味はかなりビターで、無垢の古材やフルーツの皮を感じる。
余韻
子どもの頃に父親が食卓で読んでいた新聞紙のような、懐かしいインクの匂いが漂う。
その匂いは、いつの間にか消えたヒットチャートのアーティストのように儚いが、いつまでもこびりつくように残る。
このウイスキーについて
リトルミル蒸溜所の歴史は古く、創業は1772年。
スコットランド最古の蒸溜所とも言われ、一説には14世紀からビールづくりも行っていたようです。
残念ながら1994年に蒸溜所は閉鎖。
その後2004年には火災で建物が焼失してしまったため、現在に残るのはロッホローモンド蒸溜所の熟成庫で眠るわずかなストックのみとなりました。
今回の「リトルミル 40年 1977-2018 セレスティアルエディション」は1977年10月11日に蒸留された40年熟成の超希少品。
1977年といえば「日航ハイジャック事件」や「気象衛星ひまわりの打ち上げ」などが印象的な出来事です。
キャンディーズが普通の女の子に戻っていったのもこの頃ですね。
リトルミルに関して愛飲家からの評価は賛否あり、一言で言えば異端。
「濡れた段ボール」、「オートミール」などとたとえられるその独特な香りは、目隠しをしていてもわかってしまう強烈な個性でもあります。
そんな「紙臭い」呪いをかけられたリトルミルも、40年という時を経て非常に複層的で多幸感をまとっていました。
もちろん「らしさ」は感じられますが、嫌な印象は受けず、味が中間で変化していく「繋ぎ」として良いアクセントとなっています。
長熟品でありながら飲み口は軽く弾むよう。研ぎ澄まされた麗らかで軽快な味わいを持っています。
原酒のピークを過ぎて枯れてしまった印象もうまく誤魔化せているというか、調和しているというか、やはりブレンダーが優秀なんだろうなと感じますね。
いただいたサンプルボックスはとてつもなく豪華でした。
リトルミルのロゴ入りUSBとロゴ入りグラス、そして小冊子入りのBOX仕様。
2019年2月に全世界250本限定で発売。
英国では6000ポンドの超高値で販売したにもかかわらず既に完売しており、残念ながら日本には未入荷です。 とても貴重な機会をいただき感謝しています。
その味わいはダークマターを探すかのよう
付属されている小冊子には天体図が描かれています。
このリトルミルを蒸留した1977年10月11日スコットランド・グラスゴーの夜空を記したものです。
リトルミルはこの星空のもと、40年という長い年月眠りにつきます。
彼は眠りのさなか、熟成庫の樽の中で様々な変化を体験します。
満点の星が降り注ぐ宇宙空間さながらに、熟成という神秘に身を任せてゆくのです。
銘柄の副題となっている「セレスティアル」は、天空の、天国の、神々しい、この世のものとは思えないほど美しいという意味で、こちらも遠い宇宙を連想させますね。
みなさんは宇宙にある「ダークマター」という物質を知っていますか?
私たち人間は宇宙にある物質のほんの5%ほどしか解明しておらず、95%は謎に包まれたままなのです。
その謎に包まれた物質のうち27%が「ダークマター」でできているということが近年わかってきました。
「ダークマター」はとても重い質量があり、目に見えず、物質として触れることができない、透明な雲のような存在です。
「ダークマター」は宇宙の真理を解き明かすために非常に重要な物質であることには違いありませんが、私たちは今なお、見知った5%の知識でもがいているような状況なのです。
それはウイスキーに対しても同じで、私たちは科学で解き明かしきることができない熟成という長き神秘の旅に、乏しい経験で対抗しているにすぎません。
でも大切なのは得た知識にとらわれることではなく、「知りたい」と思う行為そのものなのでしょう。
“永く続く旅路に、「知りたい」と思う好奇心は何よりの伴侶である。”
このウイスキーには、それを再確認させてもらったような気がします。
最後にテイスティングについて思うこと
今回このリトルミルのテイスティングコメントを綴っていて確信したのですが、テイスティングコメントには大きく分けて3種類あるなと思います。
ひとつは「自分だけがわかればいいメモ書きとして」、ふたつめは「他者に伝えるための宣伝文句として」、みっつめは「文章そのものをクリエイティブする娯楽として」です。
①自分だけがわかればいいメモ書きテイスティング
自分だけがわかればいいメモ書きとしてのテイスティングコメントはネガティブな表現もバンバン入れます。
「内臓のニオイ」とか「腐った卵」とか。
自らの嗅覚や味覚が捉えた強烈に印象的なフレーバーをメモしておくことで、後々まで記憶に残ります。
今後同様のブランドをテイスティングしたりする際の目印にするためです。
②他者に伝えるための宣伝文句として
これはいわゆるメーカーが書いているテイスティングコメントや、このBARRELで商品を紹介する際に書く、好印象なフレーバーのみを書き綴るテイスティングコメントです。
バーテンダーさんがウイスキーを紹介する際に口頭で説明する売り文句もこちらに属するかと思います。
「飲んでもらいたい」と思っている商品を紹介するわけですから、ネガティブな表現は避けなければいけません。
相手を慮る気持ちを大切にするからこそできるコメントかと思います。
③文章そのものをクリエイティブする娯楽として
スコッチモルトウイスキーソサエティの『乾燥したペンギン』、「煙突を登るサンダル」に代表される物語要素、ポエム要素を含んだテイスティングコメントです。
こちらは②の応用編で、なるほど!と思わせたり、クスリと笑わせたり、ユーモアセンスや表現力が必要とされるテイスティングコメントです。
最も個性が出やすいと言えるでしょう。
細かく分類すればもっと分けることはできるでしょうが、大きく分けるとこの3つ。
難易度は①→②→③の順で高くなると感じています。
ウイスキーという作品を前に人々が評論する様は絵画にも似ており、その作品にまつわる歴史や技法という基礎知識をベースに、人の数だけ感じ方が変化します。
個人的に③以上のエンターテインメントを求めていて、それこそがクリエイティブになり得るではないかなぁと思っています。
ウイスキーには写真や絵画、音楽くらいの中毒性があるのにもかかわらず万人に伝搬していかないのは各人が「クリエイティブ」できないからだと思っています。
飲み手のそれぞれが作品を作れたらもっと面白いのになぁ。(インスタみたいに)
たとえば百人一首に代表される「和歌」や「短歌」、他にも「俳句」など。
情景や事象を美しく言語化することは日本人は得意なはずなんですよね。
一定のルールを敷いて、コミュニティを作れたらもっとウイスキーが楽しくなるような気がしています。
となんだか話がまとまらなくなったので、この辺にしておきますか。
このテイスティングコメントに関しては研究中なのでまた書きたいと思います。