おすすめの飲み方・飲み進め方
ローランドモルトは他のスコッチと比べるとあまり人気がなく(というか知られておらず)、飲んでいる人は少ない印象でした。
しかし昨今のアイリッシュウイスキーブームやライトでクリアなフレーバーを好む層が増加し、ロンドンやニューヨークといった大都市で『アーバンモルト(都会派ウイスキー)』として人気を博しています。
飲んで感じて欲しいのは伝統の3回蒸溜ならではの酒質の軽さ、小気味よさ。オイリーでスムースな口当たりです。
香味が軽い=味が薄いというわけでなく、クリアでフルーティーに味付けされた熟成の妙味があります。
12年とスリーウッドではかなり印象が違うので、まずは一通りのラインナップをストレートで飲んでみることをおすすめします。
軽めですがハイボールも非常に美味。あまりウイスキーを飲みなれない方でも疲れず飲めます。
厚みのある味わいのスリーウッド、ハートウッド、クーパーズリザーヴはロックもわかりやすくおいしいですね。
長熟品にはパッションフルーツ、ココナッツ、パパイヤなどの南国果実感が乗り、アイリッシュモルト寄りの味わいを感じられます。
オフィシャル長熟品ではディスティラリー・オブ・ザ・イヤー最優秀蒸溜所賞の獲得記念につくられた31年物(1965年蒸溜)などがあります。こちらはウッディネスの強いボトルですが、とろりと粘性があり、完熟フルーツ感を感じられる逸品です。
オーヘントッシャンの発祥と歴史
どこで作られているのか?
スコットランドの大都市、A82号線をグラスゴーから北西に16km、クライド湾を見下ろす高台にオーヘントッシャン蒸溜所はあります。
クライド湾はかつてのグラスゴーを反映を支えた川。多くのウイスキーはここからアメリカに向けて船積みされました。
創立は1800年頃とされており、もともと密造酒を作っていた蒸溜所でした。
創業者は詳しくわかっていませんがアイルランド系の移民(ジョン・ブロック)が始めたという説が有力とされています。
第二次世界大戦のときにはドイツ軍から空襲を受け、ウェアハウスに置いていた樽からウイスキーがクライド川に流れ出し、川が琥珀色に染まったそうです。
蒸溜所は1974年に再建され現在に至ります。
近年はビジターセンターも設置され、蒸溜所はモルト好きの観光客で賑わっています。
オーヘントッシャンの歴史
蒸溜所の公開している情報によると設立は1823年、創立者はジョン・ブロックという人物としています。
しかし設立経緯には諸説あり、1817年設立ともいわれています。
設立当初の蒸溜所名はダントチャー(Duntocher)。
1834年にジョン・ハートとアレクサンダー・フィルシーが蒸溜所を買収。彼らにより蒸溜所名が”オーヘントッシャン”へと改称されます。
1878年にC.H. Curtis & Co.が蒸溜所を取得。
1903年になるとジョン・マクラクランがオーナーになります。
1941年3月上記でも紹介したドイツ空軍による「クライドバンクの大空襲」によりオーヘントッシャンの熟成倉庫が被災、大量のウイスキーがクライド川に流出しました。
ちなみにオーヘントッシャン蒸溜所の敷地内には小さな池があり、それは空襲で爆撃を受けてできたクレーターが原因となっているという言い伝えがあります。
しかし実はこの池、戦前から存在しているそうです。
1960年にテナント・ブリュワーズがジョン・マクラクランを買収し蒸溜所のオーナーとなります。
その9年後(1969年)、醸造業者エディ・ケアンズ社が蒸溜所を買収。1974年の改築は同社の元で行われました。
1984年、ボウモア蒸溜所のオーナーであるスタンレー・P・モリソン社(後にモリソン・ボウモア社に改称)が蒸溜所を取得。
1994年にモリソン・ボウモアがサントリーにより買収され現在に至るまでサントリーホールディングスの傘下に属し経営が行われています。
オーヘントッシャンの製法
オーヘントッシャン蒸溜所の製法は非常にユニーク。
軽いピート麦芽を使用し、銅製の糖化槽を使い8時間かけて糖化を行います。
使用している発酵槽は伝統的なオレゴンパイン製、容量38,000ℓの発酵槽を4つ使用しています。
仕込水はキルパトリックの丘の上にあるコッコノ湖の水を使用してきましたが近年はさらに北にあるカトリン湖の水を使用。
オーヘントッシャン蒸溜所はローランド地方に属しますが、使用しているのはハイランド地方の水ということになります。
オーヘントッシャン最大の特徴はローランドモルトにおいて伝統的ともいえる3回蒸溜を行なっていること。
スコットランドで作られるウイスキーは通常2回蒸溜を行い樽詰めされます。
蒸溜回数が1回増えるということは、その分アルコール度数が高くなり、純粋アルコールに近くなります。
余分な雑味を落とし、クリアで軽やかな味わいになるということです。
マイルドで癖のないオーヘントッシャンの飲みやすさはこの蒸溜回数から導かれるものといえるでしょう。
なおスコットランドで3回蒸留をしていたのはローズバンク蒸溜所と、オーヘントッシャン蒸溜所の2か所のみ(※セントマグデラン/リンリスゴーもしていたかもしれません)。
1993年にローズバンクが閉鎖されてからはこのオーヘントッシャンが唯一伝統を守ってきました。
ポットスチルは通常(2回蒸溜の場合)「初溜用」「再溜用」の2タイプに分かれますが、オーヘントッシャンの場合は初溜と再溜の中間にインターミディエイト・スチルと呼ばれる「後溜用」の釜が設置されています。
スチルの形は全てランタンヘッド形、蒸溜に費やす時間は、初溜が5時間、後溜が5時間、再溜が10時間、となっており、取り出されるスピリッツのアルコール度数は81〜82%と2回蒸溜のスピリッツより約10%程度高くなります。
現在オーヘントッシャンのアルコール生産能力は年間約200万リットルとなります。
オーヘントッシャンの種類/ラインナップ
オーヘントッシャン12年
オーヘントッシャンのスタンダードボトル。
アメリカンオークのバーボン樽で12年以上熟成した原酒をヴァッティングしてつくられています。
香りはキャラメルソースやバニラアイスをトッピングしたトースト。アーモンド、マーマレード、風邪薬シロップ。
口当たりは非常にライトで、ほのかに香りと同様の甘み、後半は酸味も若干訪れます。
オレンジ、アーモンドバニラアイス、少々のマスカット、青りんご、メロンの皮の部分。
ライトなのにしっかりとした余韻を楽しめます。
癖がないのでカクテルベースにもおすすめのボトルです。
オーヘントッシャン スリーウッド
こちらは異なる3つの樽で熟成した原酒を使用したボトル。
樽の種類はバーボン樽、オロロソシェリー樽、ペドロヒメネス樽。
熟成もバーボン樽→オロロソ樽→ペドロヒメネスという順に後熟が行われます。
熟成期間はバーボン樽が一番長いのですが、酒質が軽く樽の影響を受けやすいオーヘントッシャンにオロロソとペドロヒメネスという2つのシェリー樽がいい感じでスパイスを与えています。
香りはダークチョコレート、ブドウ、ドライフルーツを使ったタルト。糖蜜とやや家具の香り。
味わいはビターチョコの甘苦さ、バターのコク、ザッハトルテ、マスカットやレーズンの芳醇な甘みを堪能できます。
後半はスパイシーで余韻も長め。
口当たりは軽いものの全体としてリッチで厚みある味わいに仕上がっています。
一部の方には非常に人気のモルトで、編集部では「プリンにかける最強ウイスキー」という記事も書いています。
しかし、スリーウッド は2018年の秋に現在流通しているボトルをもって終売となりました。
(終売見込みは2019年の3月見込みとなります)
オーヘントッシャン アメリカンオーク
こちらはファーストフィルのバーボン樽で熟成した原酒を使用して作られたボトル。
オーヘントッシャン特有のライトかつスムースな飲み口。
そしてバーボン樽由来の贅沢なバニラ感や木樽のオーキーさをたっぷりと感じられる風味を有します。
香りはバニラ、オーキー、ココナッツ、青リンゴ。
味わいはバニラクリームアイス、カスタードプリン、アーモンド入りクッキー、後半からシトラス、ミントスパイス。
スタンダードの12年ものよりもモルティでスパイシーという印象で、ナッツなシナモンなどの風味を強く感じるボトルです。
こちらのラインナップも2018年の秋に現在流通しているボトルをもって終売宣言がサントリーから発表されました。
(終売見込みは2019年の3月見込みとなります)
オーヘントッシャン スプリングウッド
オーヘントッシャンスプリングウッドはアメリカンバーボン樽熟成のノンエイジ品。免税店向けに出された商品で1000mlあります。
スパイシーで軽く、バニラとハチミツの中にシトラス、ホワイトチョコレートを感じます。かなりライトで水っぽいですが、オーヘントッシャンらしさはあります。
味わいは白コショウ、オークとシナモン。、オレンジとレモンピール。
余韻は弱く金属感があります。
オーヘントッシャン ハートウッド
こちらも免税店向けの商品で、オロロソシェリー樽で熟成された原酒と、バーボン樽で熟成された原酒を使用しています。
上記のスプリングウッドよりは複雑でコスパの高いボトルだと思います。スリーウッドが好きな人は買いだと思います。
終売っぽいのであるうちに確保すべきかなと。
香りはシェリーとビターチョコレート。若いイチゴとプラム。やや酸があります。
味わいはソフトでクリーミー。エスプレッソとカフェラテ、アーモンドとバニラ、ヘーゼルナッツの味わい。
フィニッシュはかなりスパイシー。スリーウッドよりはライトでシンプルですが、滑らかで心地よい余韻があります。
オーヘントッシャン 14年 クーパーズ リザーヴ
アメリカン・バーボン樽とスペインのオロロソ・シェリー樽で14年間熟成したオーヘントッシャンで、ほどよい熟成感とナッツのアロマが印象的な逸品。
リンゴや洋ナシ、明るい柑橘系のノートと、キャラメルやアーモンド、ナッツ入りのチョコレートの味わいで、緩くて温かいオーヘントッシャンといったところ。
一番面白いのは余韻で、かなりビターでアールグレイティーのようなタンニンが続きます。オーヘントッシャン12年よりも満足度が高く、玄人向けなボトルだなと思いました。
オーヘントッシャン ブラッドオーク
免税店市場の人気商品で、バーボン樽と赤ワイン樽の熟成、赤いフルーツやジンジャーをともなったスパイシーな1本。
パッケージを刷新して存続されているので、多分一番売れてるんだと思います。
確かに、ローランド原酒とワインカスクとのマリアージュはなかなか見かけないので、代替品がないように思えます。
オーヘントッシャン ダークオーク
免税市場向けボトルで、ケンタッキーバーボン樽、オロロソシェリー樽、ペドロヒメネスシェリー樽で熟成しています。
正直言うと、ゆるいスリーウッドの印象です。やわらかくて、水っぽく、クリームブリュレ感が強い。
ボディがかなり弱くフィニッシュが短い印象なので、正直スリーウッドでいいかなと思います。
オーヘントッシャン バーテンダーズ モルト No1
限定生産される「バーテンダーズ モルト シリーズ」の第一弾で、世界中から選抜された「New Malt Order」と呼ばれるバーテンダー集団が、彼らの感性で創り上げたまさに「バーテンダーによるバーテンダーのためのシングルモルト」。
ラムカスク、赤ワインバリック、ドイツオーク、アメリカンオークなど、様々な種類の原酒が使用されています。
世界的にも評価が高い商品で、ストレート、水割り、ハイボールはもちろん、カクテルベースにも使えるという万能品。
日本国内では主に47%のものが売られているようですが、50%のものもあります。
ジューシーなライムやブラッドオレンジ、イチジクやグースベリーの複雑なアロマを感じます。ストレートで飲むととてもスパイシーでスイート。フィニッシュも温かく長く、熟れたメロンのよう。
オーヘントッシャン 18年
ここにきてようやく18年ものです。
12年の正統進化といったところで、熟成感があります。
香りはコニャック、ダークチョコレート、オーク、ドライフルーツ。カルダモンのようなイメージと、少しケミカルで粉っぽい印象。
味わいはバニラ、キャラメルナッツ、チョコレート、ピンクグレープフルーツの皮。ローランドモルトらしい紙っぽさと緑茶。
フィニッシュはクリーミーでフルーティ。スムースで繊細ですが、ラストはややビター。
ローランドエリアに強いバーなどに行けば、まだまだオールドボトルの18年も飲むことができると思います。超人気蒸溜所ではないので。もう少しタンニンが強く、ハーバルだったような気がするなぁ。
オーヘントッシャン 21年
アメリカンオークのバーボン樽とスパニッシュオークのシェリー樽で熟成された21年物。通販サイトなどではオールドボトルも残っています。
香りはバニラ、ハチミツ、梨のタルト。少し紙っぽいニュアンス。薄くレザー、やや粘着性がある桃のアロマ。
味わいは水あめとミルクチョコレート、マンゴーと熟していないライチ。フィニッシュはエレガントでウッディ。
余韻は21年にしては短めか。非常にスパイシーでビター。
オーヘントッシャン 24年 ノーブルオーク
オフィシャルの中で最も超熟のシングルモルトです。免税店向け2015年限定リリース。
オーヘントッシャン クラシック
アメリカンオークバーボン樽で熟成したボトルで現在は終売となっています。
バニラやカラメル、ココナッツなどの風味でスムースな飲み口と繊細な味わいが特長的なボトルです。
香りは濃厚バニラ、カラメル、ココナッツ、奥に柑橘系のフレッシュフルーツ。
味わいはバニラアイスの甘みがメインでりんご、シトラス、かすかにレモンピール。
後半はミントのハーブ感。
やさしくフラットなウイスキーですが、グレープフルーツのようなフレーバーもあり、程よく長い余韻は飲む人を選ばないバランス型のウイスキーといえます。
オーヘントッシャン 17年
こちらは終売となった昔のオフィシャルボトルの17年もの。
バーボン樽で8年、サン・ジュリアン・ワイン樽で9年熟成させたボトルです。
オーヘントッシャンはもともとライトな風味のため、このボトルはワイン樽の影響が強く反映されています。
ちなみに、サン・ジュリアン(Saint Julien)はボルドーのぶどう栽培地で最も美しい展望を持つとされる村で、有名シャトーを数多く擁する重要産地で、力強い赤ワインを生産しています。
ブドウやイチゴジャム、ハーブティー、麦芽クッキー。そしてなんといってもボルドーワインの香りがあります。
味わいはフルーツパイ、焦がしたパイナップルのような甘酸っぱさ、プラム、レーズンのベリー感。
イチゴジャム、トースト、バターのコク、シトラス、後半にハーブのスパイスとわずかな渋みが訪れ、長めの余韻を楽しめます。
サントリーは現在オーヘントッシャン以外にもボウモア、グレンギリーも所有しています。
タイプの違う3つのウイスキー蒸溜所を所有するサントリーの先見性と行動力には脱帽でっす。
ざっくり覚える!
オーヘントッシャンはスコットランド中部の低地帯、ローランドにて作られているシングルモルトウイスキーです。
オーヘントッシャンとはゲール語で「野原の片隅」という意味を持っているそうですが、まさに野原の片隅にひっそりと咲いているようなマイルドでソフト、そしてハーバルな風味を持っています。
ローランドモルトの伝統ともいうべき「3回蒸溜」の製法を現在もしっかりと続けており、そこから得られるはまさにワンアンドオンリー。
クセのない柔らかな飲み口のため、カクテルベースとしても使われる多様性に富んだウイスキーです。
現在蒸溜所はビームサントリー社が所有、販売も同グループにて行っています。