以前、一緒に飲み会をした「ビール醸造家の熊谷さん」。
神泡BARでしっとりと、そしてじっくりとビールのなんたるかを語ってくれました。
八重洲の「神泡BAR」で醸造家さんと飲み会щ(゚Д゚щ)
「泡だけ」のビール初めて飲んだー!
これまだ飲んだことない人多いんじゃないかな?
まさに【ビールのカフェラテ】。
泡にこそ旨味が詰まってるということを小一時間語られてます( ゚д゚) pic.twitter.com/ZvcKNgpRbN
— オーツカ/ウイスキーライター (@BARREL365) March 7, 2019
そんな熊谷さんが
と熱意たっぷりにお誘いいただいたので、サントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野ブルワリーにお邪魔して、製法やブランド、プライベートのことまで伺ってきましたよ。
どうも熊谷さん。
ウイスキー好きにも飲んでほしいビールがあるってことで、色々お伺いしに来ました。
本日はカメラが入っているので、僕はインタビューに集中しますよ~。
ご存知ない方もいると思うので、新しい製品の紹介の前に、現在サントリーが発売している「マスターズドリーム」のお話から聞いていくことにします。
生産性度外視。夢のビール「マスターズドリーム」
醸造家としての野心
まずは現在発売されているザ・プレミアム・モルツ「マスターズドリーム」をご説明してもらいました。
このビール、副題として「醸造家の夢」とついているのですが、これは私たち醸造家が「効率や生産性よりも、最高にうまいビールをつくってみたい」という好奇心からきています。
醸造家になった誰しもが思っているんですよ。
「自分の思う最高傑作のビールを飲んでもらって、その人の心まで震えさせてみたい」って。
そのワガママの結晶がマスターズドリームです。
そうです。
私たち醸造家の、本当に美味しいものをつくりたいという想いからはじまったということです。
でなきゃ情熱持って、やれませんからね。
僕ら醸造家が本当にうまいと思うビールを長年かけてつくり上げて、商品化まで持って行った「作品」なんですよ。
ビールの本場で学び、生活を豊かにするビールを目指す
サントリーが目指すビールというのは「ビールで人々の豊かな生活文化に貢献する。」ということ。
熊谷さんたち醸造家はビールの本場であるドイツやチェコでビールを愉しんでいる人たちに心を打たれます。
たとえばビールのメッカであるチェコでは朝も、昼も、夜も、ビールだけで何時間も話し続けているんですよ。
現地に行って、ビールを飲んでいる人々の姿を見てふと思ったんですよね。
「ビールを飲む行為」が目的ではなくて、ビールを通じて「生活を豊かに愉しむこと」が根底にあるんだなぁと。
これには実際に現地で飲んで感じられた「濃密だけど、いつまでも心地よく飲み続けられる味わいのビール」にヒントがあるんじゃないと睨みました。
本場チェコでは、仕事の後はもちろん、仕事前でも飲む人いますもんね。
チェコって国民一人当たりのビールの消費量が25年連続で世界一なんです。
どのくらい消費するかというと2017年の調査では年間大瓶(633ml換算)で289本。
日本人が年間63本と考えると約4倍です。かなり飲んでます。
まさに生活にビールあり。
なので、心地よく飲み続けられる味わいのビールが、豊かな生活文化に繋がっていて、その結果、ビール消費量も多くなるのだろうと考えました。
繰り返す試行錯誤の日々
サントリービールの醸造家たちはビールの本場である欧州に渡り、本場のビールづくりを学びます。
数多くの研究・調査を行い、満足のいくビールが出来るまでトライアルを繰り返します。
私たちは、「濃密なのに、飲み続けられるビール」をいかにつくるかを必死で考えました。
それでまずは現地に行ってどんなビールが愛され、どうやってつくられているのかを徹底的に調べることにしました。
欧州に足を運んで、合計で23回の調査をしました。
醸造技術の収集、そして素材に関する情報の収集を行ったのです。
つくりたいビールのイメージをかためていきながら、次は実際に小スケールでの試験醸造を行います。
ビール開発の第一歩ですね。
100Lスケールの試験醸造を231回、3500Lスケールの試験醸造を26回、合計257回実施しました。
257回!?
これは個人や小さいメーカーではできませんね。
発売に至るまで約10年かけて試行錯誤を繰り返しています。
果てしなく長い道のりでしたが、少しずつ理想的なビールに近づいていくための努力は幸せでしたよ。
開発までの道のり | |
2009年 | ザーツホップ生産農家支援開始 |
2011年 | ダイヤモンド麦芽契約開始 |
2012年 | ザーツホップ収穫祭に出展 |
2013年 | 中味プロトタイプの完成 |
2014年 | 最終中味調整が完了し商品化決定 |
2015年 | 3月17日:発売 |
マスターズドリームの製法
マスターズドリームの多重奏で濃厚な味わいは、Ensemble Mashing Technology(アンサンブル ・ マッシング ・ テクノロジー)という独自の製法から生み出されます。
ロボット化した吟遊詩人が使う必殺技みたいですね。
どんなテクノロジーを使っているのか具体的に解説してもらいました。
①原材料は伝統的で希少な麦芽
使用しているのはダイヤモンド麦芽といって、ビール大国であるチェコ、そしてその周辺国で収穫、製麦されている希少な麦芽です。
ピルスナービールに伝統的に使われていて、欧州産の麦芽(二条大麦)の中でも、「上質で深いコク」の源となるタンパク質が豊富です。
ただし、とても硬い構造を持つ麦芽で、仕込にかなりの手間と時間をかけないと、その魅力を十分に引き出せない難しい種でもあります。
このダイヤモンド麦芽に醸造家一同惚れ込み、購買は直接現地で品質を確かめたうえで、商社を通さず購入しています。
ダイヤモンド麦芽はうまみがしっかりと詰まっていて、手間と時間をかけた仕込でその魅力が開花します。
②うまみを引き出すために3回煮だす
次に仕込釜で麦汁を煮出すデコクション製法により濃厚で芳ばしい麦汁を抽出します。
前述の通りダイヤモンド麦芽は非常に硬い構造をしているので、手間と時間のかかるこの煮沸工程を三度繰り返して魅力を最大限に引き出してやります。
この製法はトリプルデコクション製法という名前で呼ばれています。
③銅製循環型ケトルで麦汁を炊く
最後は銅炊き仕込です。
高い熱伝導率を持つ「銅」を使って麦汁を炊くことにより、厚みのある味わい、芳ばしさを引き出します。
ウイスキーのポットスチルも銅製のものを使っていると思います。
伝統的な製法をサントリーの醸造家が革新させた「銅製循環型ケトル」を、マスターズドリームを開発するために導入しました。
銅製循環型ケトルを使った味わいの変化がこちらです。
流石大手!予算が違う。
いやほんと。
「うまい」の追求に本当に必要であれば、お金を使わせてくれるのは幸せですよ。
本場チェコのビール愛飲者も驚いた “味わい”
完成後、チェコでの試飲評価を行い、96%(111人/116人)の人がおいしいと評価したとのこと。
ちなみにマスターズドリームの味のイメージは、図で表すとこんな感じです。
マスターズドリームは、コク、苦み、甘味、香り、いくつもの味わいがリズミカルに感じられて、楽しいビールだなと思いました。
では、次は今回の新製品である「山崎原酒樽熟成ブレンド」について伺っていきたいと思います。
これが山崎原酒樽熟成ブレンドだ
さて、マスターズドリームがわかったところでようやく本番です。
今回の商品は前述のマスターズドリームの限定ラインナップ「マスターズドリーム~山崎原酒樽熟成ブレンド~」。
いったいどんな商品なのか語っていただきましょう。
昨年までマスターズドリーム山崎原酒樽熟成という商品が非売品のキャンペーン品や旗艦店のマスターズドリームハウスのみ限定で出回っていましたよね。
どういう味だったんですか?
木樽熟成らしい個性をしっかりと表現したビールで、重厚な香りが特徴です。
一口一口を少しずつゆっくり味わってほしいという想いをもってつくりあげました。
アルコール度数も高めで、満足度の非常に高いビールでした。
わずか60万本のみ出荷の限定品
なるほど、で、今回の商品は「ブレンド」と銘打ってますね。
はい。
今回の「山崎原酒樽熟成ブレンド」は、サントリー醸造家のもう一つの夢のビールという位置づけで発売します。
出荷する本数は全国60万本。
通常のマスターズドリームが年間約1,000万本と考えると非常に希少なことがわかります。
これまでマスターズドリームで培ってきた革新技術と、ビールづくりにおける伝統手法である木樽熟成を融合して、全く新しいタイプのビールをつくってみたというわけです。
やはりこちらも醸造家の美味しさを追い求める想いがそのはじまり。
まさに「やってみなはれ」を「やってみた」商品ということですね。
その通りですね。
どんな味を目指したのか
ポイントは「一杯の満足度は高いのに、また飲みたくなるビール」です。
一杯で満足できる充足感があるのにも関わらず、また次の機会にも飲みたいと思っていただけるビールのバランスにこだわりぬきました。
重すぎても軽すぎてもダメと。
これを実現するためには木樽熟成による「甘く複雑な熟成香」が調和して生み出される「深く長い余韻」が必要不可欠なんです。
マスターズドリームのしっかりしたビールの骨格に、フルーツ様・バニラ様の様々なフレーバーが重なり、多重奏(アンサンブル)を思わせる濃密な味わいを目指しました。
そして飲み終えた直後から続く深く長い余韻も同時に実現できればと思いました。
山崎原酒樽を使った理由
やっぱりウイスキーメディアとして気になるのは山崎原酒樽を使っているところです。
はい。
「深く長い余韻」につながる「甘く複雑な熟成香」を実現するのが山崎原酒樽での熟成でした。
私たち醸造家は様々な種類の樽と、様々な特徴をもったビールを組み合わせて試醸評価を繰り返しました。
そして行き着いたのが山崎蒸溜所で大切に選ばれて貯蔵された、山崎原酒樽でした。
山崎原酒樽を使うことの具体的な理由については社外秘とさせていただきたいのですが、私たちは2016年から醸造している「マスターズドリーム山崎原酒樽熟成」で木樽熟成のノウハウを蓄積しています。
後述しますが、今回は理想的な味の実現のため、熟成期間を更に延ばす必要がありました。
ですので、木樽の個性に負けないよう、熟成されるビール自体もいちから検討しなおしました。
ブレンドという手法を使った理由
さらに今回は初めてブレンドという手法を使っていますよね。
こちらについても教えてください。
今回の目標である味わいを実現するためにいきついたのがブレンドという製法です。
ブレンドを施すことによって、ベースのマスターズドリームに甘く複層的な香りと深く長い余韻がプラスされ「また飲みたくなるビール」が出来上がったのです。
味のレイヤーを増やすためにもブレンドは有効です。
熟成樽から取り出したビールを醸造家自らが五感をつかって官能し、そのよさを生かす最適なブレンド比率を見極めます。
ブレンドをするというと、ただ薄めたのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
1+1=2ではなく、相乗効果で何倍も良いものに変化する。
こうした点はウイスキーのブレンダーの仕事と共通していると感じています。
ウイスキー好きにも飲んでもらいたかった理由
今回ウイスキー好きにも是非飲んでもらいたいってことでしたよね。
飲んでみて、確かにウイスキーと通じる甘やかでフルーティー、バニラのようなフレーバー、そしてビールの奥底から湧き出すように長く続く余韻を感じました。
他にもどういった点でウイスキーラヴァーを意識しましたか?
もちろん山崎原酒樽を使って熟成したという点は大きいです。
ウイスキーの「山崎」を飲んだことがあるウイスキー愛好家の方であれば、イメージの共有をしやすいと思いました。
もうひとつは、「ブレンド」というスキルへの理解でしょうか。
今回の山崎原酒樽熟成ブレンドは、ビールづくりにおいてはあまり見かけることのないブレンドという製法を取っています。
ウイスキーにおいてもブレンドという工程は非常に大切な工程です。
サントリーの商品でいえば「角」、「ローヤル」、「響」といった素晴らしいブレンデッドウイスキーがあります。
BARREL読者のみなさまの中にも飲まれたことがある方はいるのではないでしょうか。
前述した通りブレンドは単純な足し算の世界ではありません。
それはまさに掛け算。
相乗効果で何倍も美味しい中味をつくるという点は、ウイスキーのブレンダーの仕事にも通ずるものがあると思います。
ブレンド技術はまさに私たち醸造家のこだわりの結晶なんです。
そのこだわりの結晶として世に送り出す「作品」をウイスキー好きのみなさんにぜひお愉しみ頂きたいと思ってお声がけしました。
あと単純に僕自身もウイスキーが好きで、そんなビールもウイスキーも大好きな奴が最高にうまいってものをつくったんだから飲んでみてよ、というのもありますね。
ぜひ売り切れる前に飲んで頂きたいです。
そんな「山崎原酒樽熟成ブレンド」の味のイメージはこちら。
ひとつ前に描いたマスターズドリームの味のイメージ図と比べると、「甘い熟成香」と「深く長い余韻」が大きく付加されています。
山崎樽熟成ブレンドをつくるまでの苦難
山崎原酒樽熟成ブレンドをつくるまでには色々困難もあったかと思います。教えていただけますか?
当初にめざした「深く長い余韻」を実現するためには、木樽熟成ビールとしての熟成期間を更に延ばす必要があることに、試行錯誤の結果いきつきました。
熟成期間を延ばすことで、ブレンドした後の製品のやわらかさ・まろやかさが高まり、更にビールとしてのしまりも実現できることがわかったのです。
ただし、熟成期間を延ばせば延ばすほど、木樽の個性に負けないような中味が必要になります。
つまり熟成させるビール自体をいちから検討しなおす必要があるということ。
なので、これまでよりアルコール度数を高め、木樽の熟成に負けない耐久力をつけたうえで、原料・仕込・発酵条件などを一から見直しました。
この製品をつくるためだけに、新たな山崎原酒樽熟成ビールを開発したんです。
熟成における香りやフレーバーの変化は良くも悪くも強烈なんでしょうね。
元になるビールも強くしないといけなかったわけだ。
次に困難だったのは「樽熟成による変化」を見極めることです。
樽の中ではビールの味が日々、変わっていきます。
もちろん樽の状態もすべて同じというわけではありません。
ひとつひとつの樽ごとに個性が違っているので、日々味の変化を捉え、狙いの味を実現するためのベストな条件設定を見極めるのが非常に難しい。
毎日、毎日、醸造家自らが五感をつかって中味を確認しながら判断していきます。
また、近代的な大型ステンレスタンクでの自動化醸造と違い、木樽熟成ビールは一丁ずつ手作業で中味をつめています。
これにはかなり時間と手間がかかりました。
絶対においしいビールをつくってやるという醸造家の意地と、それを実現する現場の職人のスキルがあってこそ実現できた製法だと自負しています。
今日も色々と工場の内部を見せていただきましたけど、醸造家以外のスタッフさん達もみんな協力的で、目的に向かって一丸となっている姿が印象的でした。
尊敬し合える仲間が職場にいるのは素敵ですね。
それから、実は、木樽熟成ビールとブレンドするビールについても、今回新しく開発したんですよ。
マスターズドリームがもつ多重奏で濃密なあじわいをベースに、より木樽熟成ビールと調和するような中味を目指して設計しました。
具体的にはマスターズドリームの特徴であるダイヤモンド麦芽の使用比率を見直すなど、こちらも原料から醸造工程にいたるまで、様々な検討を行い最適な設計をつくりあげていきました。
このように、マスターズドリームと〈山崎原酒樽熟成〉で培った技術を更に進化させ、ブレンドという製法で磨き上げて、はじめてつくりあげることができたのが、今回の<山崎原酒樽熟成ブレンド>なんです。
山崎樽熟成ブレンドのおいしい飲み方
まさに努力と技術の結晶である山崎原酒樽熟成ブレンドですが、どんな時に飲んでほしいとか、どういう風に飲んでほしいとかありますか?
いち醸造家の想いとして、まずビールだけでその味わいをしっかり感じていただければ一番うれしいです。
それから父の日前に発売ということもあるので、大切な方への贈り物にも使って頂きたいですね。
成人している方であれば、お父さんと一緒にマスターズドリームと飲み比べしつつ、ゆっくりと語り合いながら飲んでほしいです。
家庭でできるおすすめの飲み方
山崎原酒樽熟成ブレンドをご家庭で飲む時におすすめの飲み方などを教えてください。
僕も試してみますので。
そうですね。山崎原酒樽熟成ブレンド自体がビールとしての調和が取れた中味なので、基本的には料理を選ばず愉しんでいただけます。
その上で、オススメは、うまみや甘さのある料理。
チーズなどの醗酵系やご家庭でお母さんがつくるような、ほんのりだしのきいた和食がいいです。
また、マスターズドリームとセットで販売となるため、同時に飲んで、その味の違いを愉しむのも面白いでしょう。
食中はマスターズドリームで、お料理とのマリアージュを楽しんで、食後のまったりとしたした時間に甘いデザートと山崎原酒樽熟成ブレンドを飲んでいただくと最高です。
洋菓子、和菓子、どちらも合いますよ。
ユーザーに募集した質問
今回、醸造家である熊谷さんに聞いてみたいことをBARRELのユーザー、そしてTwitterにて募集してみました。
これまでのお話でほとんど回答していただいたのですが、まだ聞いていない質問を聞いていきますね。
ちょっと緊張しますが、可能な範囲でお答えしますね。
一杯のビールをおいしくじっくり味わう方法とかってありますか?
ビールのタイプにもよりますね。
キレのあるビールは冷たい状態で一気にのどを鳴らしながらのむと美味しいですが、味わいのあるビールは、常温に近くなってもじっくり愉しめます。
サントリーのマスターズドリームは後者なのでぜひ試していただきたいです。
また、缶から直接飲むのではなくグラスに注いで泡をつくるのもおすすめです。
泡には炭酸ガスを逃がさないなど、ビールの蓋となる役割に加え、ビールの本来持っている香りとコクを引き立ててくれます。
(※ボイラーメーカーはビールの中にウイスキーのショットグラスを入れるビールベースのカクテル)
酔っぱらうだけのカクテルというイメージですが、ボイラーメーカーにして美味しいビールとウイスキーの組み合わせってありますか?
私個人としてはボイラーメーカーはあまり飲みませんね(笑)。
ビールづくりにかけている手間と情熱を知っている分、そのままの味を飲んであげたくなってしまいます。
ウイスキーとビールを同時に味わいたいときは、ウイスキーの合間でビールを飲むことはあります。
チェイサーというわけではないですが、交互に飲むと両方の良さがより際立つこともあるので意外とおすすめです。
ウイスキーメーカーに戻してまたウイスキーの熟成に使われるのでしょうか?(無限ループ)
バレルエイジドビールをつくっている某クラフトブルワリーの方に先日聞く機会があり、そこでは以前は使用後の樽は廃棄していたけどけど、今はウイスキーメーカーから戻すよう言われているので返しています、と言ってました。
これは「ピー」が入っちゃうんで勘弁してください。
またビールの種類で飲む順番はありますか?
季節ふくめ、飲むときの環境はすごく重要だと思います。
個人的には夏はホップの香りをいかした清涼感の感じられるペールエールタイプのビール。
冬はじっくり時間をかけて味を楽しめる、濃い目のメルツェンやボックタイプのビールを飲みます。
違う種類のビールをたくさん飲むときは、やはり味わいの軽いもの→重いものの順に飲むのがオススメですね。
リーダーみたいな人が決めるのか、話し合いで折り合いをつけるのか。
それとも多数決とかで決めるんですか?
商品開発は一人でやる仕事ではありません。
メインで担当する開発者はいますが、皆でチームを組んで、味の方向性を議論し、試醸品の中味を評価しながら、ゴールを目指していきます。
リーダーの意見ですべてが決まるということはありません。
まず一番大事なのはメインで担当した本人が自信をもって美味しいといえる中味であるか、そしてその味やコンセプトにチーム皆が納得できたかどうかですね。
開発者のこだわりと想いは必ずビールの味にあらわれます。
コストが上がる理由は材料ですか?つくり方ですか?
それとも瓶とかのパッケージでしょうか。
高ければ美味しいということはありません。
ビールの価格は原料、パッケージ、製造コストなど、色々な要素をふまえて製造元が決定します。
実際に買われたお客様が価格以上の価値を感じて満足いただければ値段は関係ないと思います。
ただし高いビールはやはりその味も期待しちゃうと思いますので、それだけそのビールに対する自信がないといけませんね。
趣味とか、ついやってしまう癖とかあれば教えてください。
ビールがとにかく好きなので、趣味のひとつは色々なビールを飲んでノートに感想を書くことでしょうか。
これまで記録しただけでも1400種以上は飲んでいました。
家では一般的なご家庭と同じように過ごしていると思いますよ。
土日は子供と遊んで、夜は家でビールを飲ませてもらえるよう、妻に必死で交渉しています(笑)
あ、じゃあ僕も最後に。
学生時代に部活って何かやってました?
ホラ醸造家の人って職人気質だから、学生時代から何かひとつのことにハマっていたのかな~って。
ちょっとマニアックですが、ギターマンドリンクラブでマンドリンを弾いていました。
おっしゃる通りハマるとすごくのめりこむので、入部からほぼ毎日数時間の練習はかかさなかったです(笑)。
最後はコンサートマスターとして、80名くらいの個性的で魅了的な部員達と一緒に、コンサートで最高の音楽を奏でることを目指してがんばっていました。
なんと。
すでに学生時代にアンサンブル奏でていたわけですね。
ビールも多重奏になるわけだ。
醸造家として生きていくということ
熊谷さんって、醸造家なのにホップアレルギーって聞いたんですけど。
あ、ええ。
マスターズドリームの発売直後から2年間ドイツへビール醸造を学びに留学していたのですが、その時のホップの調査でホップを嗅ぎ過ぎてホップアレルギーになってしまいました。
ビールは素材が命なんで、五感を駆使した官能評価が必須なので、やりすぎてしまったんですかね。。
じゃあ、今回の山崎原酒樽熟成ブレンドはホップアレルギーの中つくっていた、と。
そうなりますね。
ただ、花粉症と一緒でホップの植物に対するアレルギーなので、薬で抑えられますし、ビール自体の官能には全く影響はありませんよ!
うーん、まさに職業病。
そんなになっても醸造家でいるっていうのはやっぱり「ビールづくりが好き」って気持ちがあるからなんでしょうか。
そうですね。
学生時代に部活や研究室の仲間と何気ない日常や大事なイベントのときにビールを飲んでいるうちに、その美味しさのとりこになりました。
そして自分でもつくってみたいと思うようになったんです。
サントリーに入社する前から今にいたるまで「ビールづくりを極めたい」という想いはずっと変わっていません。
ただ私もビール醸造家としてはまだまだ半人前です。
ひとつ山を越えると、また越えたい次の山が現れる。
そこに挑む日々を繰り返しながら、少しでも理想のビールに近づきたいと思っています。
そしていつか日本中の人が自分のつくったビールを片手に大事な時間をすごしてくれている日がくることを夢見ています。
ホップアレルギーになったのに?
ホップアレルギーになったのに、です(笑)
おわりに
2019年5月28日にお目見えする「山崎原酒樽熟成ブレンド」。
山崎原酒樽熟成によってうみだされた複層的で芳醇なフレーバーと、ゆっくりと刻まれゆく大樹の年輪を思わせる深い余韻で、しみじみうまい本作。
しかし、幾重にも重なりあう「多重奏」はビールだけではなく「人」からも感じるとることができました。
取材でビール工場を周る中、熊谷さんら醸造家をはじめ、従事しているスタッフひとりひとりが使命感を持ち、一致団結して「うまいビール」づくりをしているのが印象的でした。
自分の目的や役割、そしてなぜ自分がここにいるのかという存在意義をよく理解して仕事に取り組んでいる姿は、まさに多重奏的コンビネーション。
指示をされずとも仕事をつくり、協力しあえるというのは、ビジョンをしっかり共有しているからに違いありません。
醸造家に限らず、目的の実現、理想の達成に燃えている人は非常に積極的で生き生きとしています。
そういった使命感を持って物事にあたれる人にこそ「やってみなはれ」の真意が正しく伝わるのだと思いました。
みなさんも熊谷さんたちがつくり上げた「こだわりのアンサンブル」をぜひ試してみてください。
どうしてもウイスキー好きにも飲んでほしいビールがある。
うまいと言わせる自信がある。
ぜひ取材に来て欲しい。