ブラックニッカの概要
ブラックニッカはニッカウヰスキーが製造、販売をアサヒビールが行なっている日本を代表するブレンデッドウイスキー。
ラベルにある通称「ヒゲおじさん」でもよく知られるこのボトルは1956年に始めてリリースされて以来、低価格ながらニッカウヰスキーらしい個性を存分に発揮しウイスキーファンの舌を楽しませてきました。
その親しみやすい味わいと価格は居酒屋やバーだけでなく、家庭での晩酌用としても重宝され、もはや日本国民的ウイスキーと言っても過言ではないはずです。
ちなみにマスコットの「ヒゲおじさん」は誰なのか?という素朴な疑問。
あまり知られていませんが、右手にテイスティンググラスを、左手に大麦を持つこのヒゲおじさんは「キング オブ ブレンダーズ」というブレンダーの理想図を描いたものです。
ウイスキーファンの間では「ローリー卿」とも呼ばれています。
モデルとなった人物は17世紀の冒険家ウォルター・ローリーだったり、イギリスのブレンダーであるW.Pローリーだったりと諸説あります。
その中でもっとも有力なのがウイスキーにおけるブランデッドの重要性を問いたW.Pローリー。
なるほど、確かにニッカのヒゲおじさん、青い目をしています。
このマスコットを象徴として、ブラックニッカは販売されてから約65年もの間、国民に愛され続けるウイスキーとして君臨しています。
ブラックニッカの発祥と造られる蒸溜所の紹介
ブラックニッカはブレンデッドウイスキーですので、複数箇所の蒸溜所のモルト原酒とグレーン原酒が使われています。
モルト原酒に関してはニッカウヰスキーの2大蒸溜所、余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所のものを使用。
余市は北海道、小樽の西に存在する港町。
海からの距離が近いことから潮風による原酒への影響があると言われています。
また冷涼地帯で雪が多く、霧が発生しやすいこの気候は、創業者の竹鶴政孝自身がウイスキー造りを学んだスコットランドのキャンベルタウン地方を意識したと言われています。
これに対し宮城峡蒸溜所は、余市とは対照的で、華やかな香りとフルーティな甘みを有していることからよくスペイサイド風とも例えられます。
仕込水を確保する新川川(にっかわがわ)のほとりに腰かけた竹鶴政孝が、その水でブラックニッカの水割りを作って飲み、「この水だ!」と閃きその場所での蒸溜所建設が決定したという逸話が残る土地。
グレーン原酒は、1999年まで西宮蒸溜所で作られたものを使用していましたが同蒸溜所が閉鎖となった為、以降宮城峡で作られたものを使用しています。
これらのモルト原酒、そしてグレーン原酒をブレンドすることにより個性あふれるブラックニッカの味わいが生まれるのです。
ブラックニッカの歴史
ブラックニッカは余市蒸溜所が完成した1934年から22年後の1956年に始めてリリースされました。
当時はウイスキーに「級別制度」というものがあり、これは原酒混和率(製品中に原酒が占める割合)によって
原酒混和率 | 等級 |
30%以上 | 特級 |
5~30%未満 | 一級 |
0~5%未満 | 二級 |
といった3つの階級に分けて販売されていました。
ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴氏は、自社で作るウイスキーの原酒の味わいを重視しており、ブラックニッカは「特級」のウイスキーとして登録されていました。
1950年代、ニッカウヰスキーが所有する蒸溜所は余市のみだったので、当然当時のブラックニッカは余市蒸溜所で作られたモルト原酒がベースとなっていました。
ブラックニッカの売行きも良く、徐々にウイスキーの生産が軌道に乗ったニッカウヰスキーは1959年、兵庫県に西宮蒸溜所を設立、その3年後に同蒸溜所にカフェ式蒸溜機が設置され品質の良いグレーン原酒を作れるようになりした。
このカフェ式蒸溜器の登場により、1965年にカフェグレーンをブレンドした初の商品「新ブラックニッカ(一級)」が誕生。
このボトルは「美味しいものを良心的な価格で、より多くの人に飲んでもらいたい」という竹鶴氏の想いから、一級の上限ギリギリまでモルト原酒を加え、カフェグレーンとのブレンドによって新しく作り上げられました。
またニッカのマスコットキャラクターになっている「キング・オブ・ブレンダーズ」(W.P.ローリー氏)がラベルに表れたのも同年、1965年でした。
宣伝文句に使われた「特級をも凌ぐ一級」というキャッチコピーは当時話題を呼びました。
1969年になると宮城峡蒸溜所が設立され、余市モルト・宮城峡モルト・西宮グレーンという3本の柱が完成しました。
そして1985年「ブラックニッカ スペシャル」がリリースされます。
ラベルに描かれるローリー氏はややデザイン変更をされながらもそのまま継続となりました。
1997年にはノンピートモルトを使用し、やわらかな香り・まろやかな味わい・飲みやすさを追求した「ブラックニッカ クリアブレンド」が発売。現在、味わいはそのままに「ブラックニッカ クリア」と名称を変更されています。
その後次々と新作を発表。
キング・オブ・ブレンダーズの「ひげのブラック」という親しみやすい愛称とともに、ニッカウヰスキーの品質の高さを気軽かつ手頃に楽しめるブレンデッドウイスキーとして、現在も国民に愛され続けています。
ブラックニッカの製法(作り方)
ブラックニッカはニッカウヰスキーのチーフブレンダーである佐久間正氏監修のもと、重厚な余市モルトと軽やかな宮城峡モルト、そして宮城峡のグレーンという組み合わせで造られています。
初溜を石炭からの直火熱で行い、素材の味が力強く残った厚みのあるボディ、荒々しく男らしい旨味、キャンベルタウンを意識したとも言われている余市蒸溜所のモルト。
そして表面面積の大きいバルジ型のポットスチルを使用し、成分濃度をできる限り抑えた軽やかかつフルーティ、華やかな宮城峡蒸溜所のモルト。
グレーン原酒はカフェ式(コフィー式)と呼ばれる連続蒸溜機が使用され、穀物の成分濃度が高い原酒を用います。
ブレンディングの比率は公表されていませんが、宮城峡のグレーン原酒がベースとなり香りつけに余市のシェリー樽や宮城峡のバーボン樽などが使われていると言われています。
全くタイプの異なる原酒を掛け合わせながら作るため、香りや味わいを一定するには高いブレンディングの技術が必要となります。
それをやってのけるニッカウヰスキーには称賛の声を送るほかありません。
「ブラックニッカ」のラインナップ
ブラックニッカ クリア
ブラックニッカのスタンダードボトル。
現在、居酒屋やバーなどでも扱っている身近なボトルです。
ノンピートモルトを使用することでクセを無くし、柔らかな飲み口と甘みで飲みやすさを追求したボトルです。
香りはカラメル、バニラ、奥にスコーンが潜みます。
若い原酒を利用しているので口に含むとアルコールの刺激がやや強く、その後カラメル、ブラウンシュガーの甘み、ナッツ、麦茶などの風味を感じます。
余韻は長くはありませんが、オーキーな香りもそこそこ楽しめるコスパの高いボトルです。
アルコール度数は37%に抑えられています。
ブラックニッカ 8年
こちらは酒齢8年以上のモルト・グレーン原酒をブレンディングして作られたブラックニッカ。
スタンダードのクリアと比べると、比較にならないくらいどっしりとした味わい、ピート・スモーキーを味わえる1本となります。
急に余市らしいボディと樽香が現れるためニッカファンとしては嬉しくなるボトルの筈です。
香りは濃いめのバニラ、プラム、ビターチョコ。
口に含むと余市のシェリー樽由来のプラムやレーズンの甘みが全体を支配しつつ、鼻腔に上がってくるピートとスモーク。
甘みが引いてきたところでナッツやビスケットの香ばしさも楽しめる、ニッカウヰスキーらしい味わいのボトルです。
リーズナブルでファンの多い製品でしたが現在は終売しています。
ブラックニッカ リッチブレンド
2013年にリリースされた比較的新しめのラインナップ。
原酒はシェリー樽の比率が高く使われているようで味わいにもそれが顕著に現れています。
香りはバニラ、レーズン、チョコチップクッキー。
味わいはアルコールの刺激は少なく、ラムレーズン、ウエハースの甘みが来て、ビターチョコへと変化し、余韻は若干の酸味とオークも楽しめます。
香り豊かで良く伸びるため、水割りやハイボールにしても十分楽しめる多様性のあるボトルです。
ブラックニッカ ディープブレンド
こちらはブラックニッカの上位ランクのボトル。
使われている原酒は新樽を使用したものがメインとなり、新樽由来の樽香を堪能できるボトルとなります。
やや粘性が高く、香りはバニラやカラメルの甘みとアーモンドの芳ばしさ、奥には余市のスモーキーが確かに存在します。
味わいはアルコール45度という高めのアルコール度数のため、刺激が少々有りますが青リンゴや洋ナシの爽やかな甘み、柑橘果実の皮の香り、後半はビターとシナモン系のスパイスも感じます。
安っぽさを感じさせない、かなりドライで尖った、ニッカらしい味わいを呈したボトルと言えるでしょう。
ブラックニッカ スペシャル
こちらは1985年にリリースされたボトルですが、原型は1965年(昭和40年)にリリースされた新ブラックニッカの現行版と言って良いでしょう。
初代発売当時はカフェ式連続蒸溜機がまだ現西宮工場にあり、そこで作られているグレーン原酒がブレンドされていました。
1999年にカフェ式連続蒸溜機が宮城峡蒸溜所に移されてから、同機を使った宮城峡で作られるグレーン原酒がブレンドされています。
香りはカラメル、バニラ、シェリー樽からのレーズン。
口に含むとバニラ、ドライフルーツの甘みが全体を支配したあと、心地良い酸味が口内を引き締め、程よいオークとスモーキーな余韻が残ります。
ロックにするととろみも出て、1000円代で購入できるウイスキーとしては十分高いコスパを発揮しています。
ブラックニッカを知るならまずこれから!とお勧めしたいボトルです。
ブラックニッカ ブレンダーズスピリット
こちらは2016年と2017年に限定リリースされたボトル。
青い瓶に入っていることから「青ひげ」とも呼ばれています。
こちらはキーモルトに余市のヘビリーピーテッドモルトを使用しており、新樽熟成の余市モルト、シェリー樽熟成の宮城峡モルトが使用されています。
さらにグレーンウイスキーは西宮工場時代に作られた25年以上熟成されたカフェグレーン原酒を使用。
極め付けにドレッシング(香りづけ)になんと60年ものの余市の原酒が使われているという贅沢なボトルとなります。
香りは奥行きのあるバニラ、アンズ、アーモンド。
口に含むとバニラとカラメルが前に出ますが、そのあと洋ナシや青リンゴなどの爽やかな甘みが訪れ、それが引くに連れビターチョコの酸味が現れます。
余韻はオークとビター、そして僅かにスモーキーが長く続きます。
販売価格は2500円前後でしたが、そのお値段では到底味わえないリッチな味わいのボトル。
現在ネットでは1万円近くで取引されるほど値段が高騰してしまいました。
バーなどで見かけた際には是非お試し頂きたい、ニッカウヰスキーの歴史を味わえる逸品です。
ブラックニッカ クロスオーバー
- 余市のヘビリーピーテッドモルト
- 宮城峡のシェリー樽熟成モルト
この2つを主軸に、更に新樽熟成モルトをブレンドして全体を調えた2017年の数量限定シリーズ。
2015、2016年にリリースされたブレンダーズスピリットがよく出来た味わいだったためこのクロスオーバーも注目を集めました。
かなり思い切ったブレンドレシピで「予想は、あざやかに裏切られる」のキャッチコピー通り意外性のある味わい。
香りは土っぽいスモーキーさの奥にブラックベリーや焼いたスコーン、プラム。
味わいは、やや粘性のある口当たりからドライプラム、レーズン、バーベキューソースの甘み、後半はかなりピーティ。
カカオやプラムの酸味、長くスモーキーな余韻。
ブレンダーズスピリットに比べると方向性がかなり違い、甘みのあるスモーキーな仕上がりのボトルです。
ブラックニッカ リッチブレンドエクストラシェリー
こちらはブラックニッカ、リッチブレンドの限定ボトル。
名前の通りシェリーの風味にこだわってつくられています。
キーモルトとなるのは10年以上熟成させた宮城峡のシェリー樽熟成モルト。贅沢な原酒が使われています。
香りはベリー系のドライフルーツ、焼いたリンゴ、シナモンスパイス。
味わいも甘みが強いですがエクストラシェリーのような濃厚でペタッとした甘さではなく、スッキリ・さっぱりした点が特徴的です。
他にも洋梨やハチミツ、うっすらシナモンの風味も感じ取れます。
ブラックニッカ ディープブレンドエクストラスイート
こちらは2018年にリリースされたディープブレンドの数量限定ボトル。
より甘さを追求したモデルで、余市と宮城峡にある新樽で熟成した原酒の比率を高くブレンドしています。
香りは濃厚なバニラビーンズ、カスタードクリーム、ビスケット、ほのかにベリー系のドライフルーツ。
味わいはココアのような芳醇な甘み、麦芽クッキーの香ばしさ、ミルクチョコ、喉元を過ぎた後も舌に風邪薬のシロップのような甘い余韻が残ります。
甘み成分が強く、アルコールの刺激もほぼ無いのでクイクイ飲めてしまう危険なボトルです。
ブラックニッカ ナイトクルーズ
こちらは2019年にリリースされたディープブレンドの数量限定ボトル。
キーモルトに余市蒸留所のヘビリーピーテッドモルトを使用。
これに宮城峡で造られたカフェグレーンをブレンドして造られています。
香りはビターチョコ、コーヒービーンズ、カフェオレ、黒糖、甘い香りの後にふわりとしたピートの燻香。
味わいはバニラ、ウエハースの甘み、ビターチョコとコーヒークリーム、後半にスモーキーなピートの香りが訪れます。
スモーキーですが全体的なクセはそれほどなく、うまくまとまった印象のボトルです。
ブラックニッカのおすすめの飲み方
ブラックニッカはご家庭の晩酌に深く根付いているブランド。
水割りやハイボールにして食中に飲んでも良し、ロックで食後に楽しむでも良し。
使い勝手の良さが魅力です。
ディープブレンドシリーズのエクストラスイートやエクストラシェリーなどはストレートで飲んでもそこそこの熟成感を味わえ満足度が高い商品です。
特にブレンダーズスピリットは総合レベルが頭ひとつ抜けている印象でした。
ブラックニッカらしさといえば余市蒸溜所モルトのスモーキーフレーバーを感じられるところ。
よく「昔ながらのウイスキーが好きであればブラックニッカを飲め」なんて言われてますね。
現在のブラックニッカはその「らしさ」という「ブランドの枠」の中でトライを繰り返しています。
フューチャーする香味を決定し、その一点に特化した商品をシリーズにしていくようなスタイルとなっています。
時にはピート感を目立たせてみたり、時にはシェリー感を強くしてみたりと実験的な試みをしてファンを飽きさせません。
もちろん原酒不足ということもありますが、リーズナブルな価格で様々な商品を展開してくれることはファンにはありがたいことです。
オールドボトルも非常に面白いです。
特徴的なハーバルで湿った土に生える苔のようなピート、そして紅茶の渋みを感じるタンニン。
「あ、昔の人ってこんな感じの飲んでいたんだ」という意識がシンボリックに伝わるウイスキーです。